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エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第十三巻 赤い目
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赤い目  紫七輪山 1

 俺たちが紫竜の領域に侵入したのは、12月17日だった。

 平地の多いグレンネック国に唯一ある、大きな山脈、セイルディーン山脈の起点となる、七つの山は、輪のようにそびえており、この七つの山を「むらさきしちりんざん」と呼ぶ。

 この七つの山に囲まれた中心地に紫竜の棲み家がある。

 

 紫竜の領域は、この紫七輪山の外縁部の麓数キロまで続いている。

 麓あたりには、紫竜の庇護を受けた村があるはずだ。


 例のごとく、創世竜の領域に侵入した時の違和感を楽しんだ後、俺たちはその村に向かう。

 俺たちが侵入するのに選んだのは、紫七輪山の内の一つ、北西のむらさきよくざんである。東のむらさきえんざんは活火山で、その麓一帯は温泉地だが、それだと山越えがほぼ不可能になる。無事に任務を果たせたら、もう一度紫翼山を越えて、そこから一度北上して、遠回りでだが温泉郷に行く約束になっている。



「さて、侵入したからには、紫竜に俺たちの接近は気付かれたと思った方が良いだろう」

 俺は行く手にそびえる標高1921メートルの紫翼山をにらんで言う。

「カシム君。そんな格好付けても、私怒ってますからね!!」

 リラさんが、とても怒っていそうにないかわいらしい表情で文句を言う。

 いろいろ理由を付けて道を外れて、わざと領域ギリギリを蛇行して出たり入ったりして、リラさんの反応を何度も楽しんだのだ。

 いやあ。本当に良いものをいただきました。

「もう!私で楽しまないでください!?あと、みんなも、なんでこんな時だけ息ピッタリなの?!」

 何も言わなくても、仲間たちは領域侵入や脱出の時の違和感に無反応だった。

 エレナだけは、リラさんの反応に、いちいち「うひょ!」とか、「いひっ!」とか嬉しそうにしていた。



 ともあれ、俺たちは日暮れ前に村に着いた。

 村は、白竜の領域の村と違って、しっかりとした柵で囲われていた。村の周囲の作物は、この時期でも良く育っているようで、そのあたりの庇護は受けているが、野盗や、野獣などから守る類いの恩恵は受けていないのだろう。

 櫓には見張りも立っている。


「お兄ちゃん!」

 ミルの警告で、俺はすぐに剣を抜いて無明を全開にする。「戦闘準備!!」

 俺の声に、仲間たちは即座に反応する。

 村の手前で、急に戦闘準備をする冒険者に、村の見張りは、野盗かと緊張して警鐘に手をかける。

 

 当然俺たちは野盗では無い。

 村に接近する巨大な獣の群れを探知したのだ。

 

 接近してきたのは、バルウルフ。普通のオオカミより大型、後ろ足はイノシシに近い奇妙な姿で、ウルフと言いつつも厳密にはオオカミの仲間では無い。ダンジョン由来の魔獣である。野生化し、大陸北部に生息している。

 群れで行動して、村や町を襲撃する事がある。大抵は家畜を襲うが、ついでに人も襲う。


 しかし、紫竜の領域だというのに、魔獣が出現するとは。紫竜は、領域内の管理には無頓着と言う事か。

 村人も、畑の作物を踏み荒らしながら接近してくるバルウルフに気付いて、今度はしっかりと警鐘を鳴らす。

「魔獣の群れだ!!!」

 俺たちの背後で、村人たちが騒ぐ声が聞こえる。


「畑をこれ以上荒らされないように、接近させず、畑にも被害を与えず殲滅するぞ!!エレナ、ファーンは後衛。リラさんは左。アールは右。俺は正面で、ミルは前衛をカバーしてくれ!」

 リラさんは精霊魔法使いだが、防御力が半端ないので(攻撃力も攻撃速度も)、前衛を任せてみる。



「うしししし!!」

 ミルはここぞとばかりに、無限クナイを連続して投げまくる。回収しなくてもポシェットに戻るので、残弾を考えずに投げられて、群れが相手となるとその強みが生きるため嬉しそうだ。


 そのクナイの援護を受けながら、俺たち前衛は、作物を踏まないように畑に侵入する。リラさんはふわりと浮き上がるのだから、その点は完璧だ。

 正面から3匹のバルウルフが迫る。

 薙いでは身の丈近くまで育っている作物が傷つくので、俺は竜牙剣を縦に振る。

 大顎を開けて飛びかかってきたバルウルフ1匹を真っ二つにする。即座に、もう一匹に竜牙剣を投げつけ、正面から剣を貫通させる。そして、もう一匹は、足を振り上げて、かかとを脳天に叩き付ける。バルウルフの頭蓋骨が砕けて、足の下で動かなくなる。

 戻ってきた竜牙剣を受け止めると、俺は仲間に指示を出す。

「村を襲う魔獣だ!かわいそうだが全滅させるぞ!」


 アールは実戦となると、訓練の時より明らかに動きが鋭い。いくつあるのか未だにわからない暗器(隠し武器)を使って、危なげなくバルウルフを打ち倒していく。

 今はおもりの付いた縄を操って、中距離からの攻撃でバルウルフの眉間を打ち抜いている。堅い頭蓋骨があるのに、簡単に貫通させている。また、縄の軌道はかなり複雑で、俺もさすがにあの技術は無い。

 暗殺格闘術なのだが、動きが優雅な舞のようで、思わず見とれそうになる。


 一方でリラさんは苦戦している。

 空を飛びながらの精霊魔法攻撃はまだ難しいようで、普通の風魔法を使っている。素早く動き回る複数のバルウルフに対して、後手後手に回っている。

 バルウルフがなんとか攻撃を加えようと、4メートル近い跳躍を見せる。

 それ自体は驚異的なのだが、リラさんには届かないし、仮に届いても、風の防御でリラさんは無傷だろう。

 だが、さすがに前衛を任せるのは無茶振りだったかなと反省する。

 作物を荒らさないように気を遣っているから戦いづらいんだろうな。


 さらに2匹のバルウルフと戦っていたら、左からリラさんの叫び声が聞こえた。

「ごめん!エレナ、そっちに1匹行っちゃった!!」

 振り返って見ると、1匹のバルウルフが道に飛び出して、一直線にファーンとエレナの方に向かっていた。ミルも振り返ってクナイを投げようとしているが、道に出ているなら、俺の方が速い。

 その場で俺は圧蹴し、一歩目で作物の隙間を一瞬で駆け抜けて道に飛び出し、二歩目でミルを追い抜き、三歩目でバルウルフに追いついて剣でバルウルフを上下に切り裂く。


 ファーンとエレナより、まだ50メートルある。

 エレナが仕留めるまで、バルウルフは律儀に道を走ってはくれないだろう。恐らく蛇行しながら畑を踏み荒らして突き進むに違いないので、一秒でも早く仕留めるために俺が圧蹴で追いついて仕留めたのだ。


 だが、そんな俺を、ファーンもミルもポカンと見ている。

「お兄ちゃん、ピカッて光ってたよ・・・・・・」

 ミルの目がキラキラと輝いている。ってか、俺、光ってたのか?自分では全く気付いていないが。

「うん。すまん」

 なぜか謝って、取り敢えず戦闘に復帰する。



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