赤い目 軍師ダン 6
だが、その攻撃がグラーダ三世に届く前に、あらがえない衝撃が2人を突き放す。
闘神王が、飾りの剣を捨て、拳での攻撃を放ったのだ。大地に一直線の深い溝を掘りながら、キースとオグマを吹き飛ばす。
「甘いわ」
グラーダ三世は、それでも嬉しそうに笑う。
だが、グラーダ三世に対する凄まじい攻撃は、これで終わりでは無かった。
親衛隊が通り抜けた後に、いよいよグラーダ軍本体が到着した。
「我らも親衛隊に負けるな!!栄えある12騎士団、桜火騎士団の力を陛下に示すのだ!!!」
ホルガーが雄叫びを上げて、巨大な槍に水の揺らめきを湛えて突き込む。
グラーダ三世はまたしても、距離を取るために後方に飛び退る。
「グラーダ兵は、やはり精強なのだと実感するな」
着地したグラーダ三世は、広範囲攻撃をする構えを見せたが、いつの間にか、左右にも他の軍団が迫っている事に気付く。
「む?この場に誘い込まれたか?とすると、何が起こる?」
危機感と言うより、好奇心が勝っていた。それほどグラーダ三世はまだ余裕があった。その余裕と好奇心から、敢えて攻撃せずに様子を見る事にした。
左右から迫る軍団には、これまで防御に徹していた魔導師たちが紛れていた。
魔導師たちは一斉に土魔法を使う。
それは攻撃のためでは無い。あらかじめその場所には細工をしていたのだ。
そして、最後の仕掛けとして、大地の一部を取り除いた。
表層のみが地続きだが、その実、すぐ地面の下は深い縦穴となっていた。その幅は40メートル程度だが、深さは50メートル以上になる。
踏みしめるべき大地が突然消失した為、グラーダ三世はそのまま穴に落ちていく。
即座に、接近してきていた騎馬軍からの精鋭が穴の中に各々の長距離攻撃を叩き込む。その直後には、土魔法で集められた大量の土が穴の中に注ぎ込まれる。
騎馬軍団の先導していたのは、前回の総大将だった、クルエルナ国の上級大将ロジョラだった。
「ふん。少しも溜飲が下がらぬな・・・・・・」
盛大に風属性の槍技を穴の中に叩き込んでおきながら、ロジョラ上級大将は呟くと、槍を掲げる。
「よし!創世竜の尾を踏んだつもりで逃げるぞ!!!」
「おおおおおおっっ!!」
兵士たちは、雄叫びを上げると、それこそ一目散にレートロン平原の北部に設置されている本陣に向かって逃げ去って行った。
大地から巨大な白い槍が生えて、その槍の根元からグラーダ三世が飛び出してきた時には、逃げ去っていく軍団の後ろ姿が見えるだけだった。
いや、戦闘不能となった兵士たちは、皆その場に取り残されているので、なかなかに凄惨な演習跡となっていた。
「今回はしてやられたのでは無いか?」
グラーダ三世の元に、エクセルが舞い降りて来ながら言う。
「まあ、この程度はやってもらはなければ甲斐が無いと言うものです。それに課題は多い」
「辛口だな。とは言え、俺の方も落第点を付けねばならんな」
「それは意外ですな」
グラーダ三世としては飛行部隊の使い方としては、あれで良いと思っていた。
「飛行戦術は特攻やドックファイトだけでは無いと言う事だ。無論航空爆撃だけでも無い」
エクセルの言葉には、理解できない言葉が時々ある。
「それよりアポロンはどうした?」
アポロンは両腕を負傷した事から、自ら自身を戦闘不能判定して、戦線を離脱した。恐らくあの程度の傷ではすぐに再生するだろう。
「さて。一直線に飛んで行ったので、そのまま天界に帰って行ったかもしれないですな」
「神は力の使い方が荒いからな」
神を遙かな高みから見る事が出来る精霊族は、確かに上位の種族なのだろう。
その精霊族が味方してくれるのだから、こんなに心強い事は無い。
願わくば、これでアズマやアマツカミも味方して共に聖魔大戦を戦ってくれたら、この上ない。




