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エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第十三巻 赤い目
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赤い目  少年 8

「うわあああああっ!!」

 コボルトに追いつかれて、怪我人を背負った男が地面に引き倒される。犬のような顔が男の顔に迫り、鋭い牙の生えた大きな口をガチガチ鳴らす。男は必死にコボルトの首を押さえて踏ん張るが、コボルトの方が力が強い。

 そうしている間に、けがをして意識を失っている村人に、ゴブリンが襲いかかり、引きずっていき、楽しそうに笑いながらじわじわといたぶっていく。


 バッキャアアアアッッ!!!

 柵の方で破砕音が響く。

 ついにトロルが村の柵を破壊して侵入してきたようだ。


「逃げるな!!逃げたところで追いつかれて殺されるだけだ!!だったら、せめてこの集会所を守り通すぞ!!きっと風の女神様が助けに来てくれる!!」

 ゼヤックが叫ぶ。その声が、戦意を失い絶望しかけていた男たちに、諦念からの意地のような闘志を引き出した。


 だが、その闘志も、集会所の前にトロルが出現した瞬間、消失した。


 

 ゴブリンたちは集会所を取り囲み、誰1人として逃がさない構えを見せる。

 そして、ゴブリンの指示でトロルが集会所の前に進み出る。

 槍も、斧も、その分厚い皮膚にはじき返されてしまう。もっとも、たとえ傷を負わせる事が出来たとしても、その傷はたちまち癒えてしまうのだ。

 そして、トロルは、巨大な腕を振り上げる。そして、無造作に集会所を囲う石の壁に振り下ろす。


 ドゴオォォォォンッッ!!

 

 轟音と地響きが周囲を支配し、石の壁はあっけなく破壊され、さらに、飛翔する破片によって、集会所の壁も破壊される。


 壊れた壁の奥でうずくまっていた人たちは、一様に絶望の表情を浮かべて、腰を抜かしたり、叫んだり、滅茶苦茶に走って逃げようとしたりする。


 だが、次々と村人たちはゴブリンに攻撃されたり、コボルトに取り押さえられていく。

 


 逃げ惑う人たちの中に、カシムを罵倒した少年がいた。

 涙を流し、パニックになりトロルに向かって走って行く。子どもはゴブリンの好物だ。ゴブリンはトロルに命令して少年を捕らえさせる。

 トロルの動きは遅いが、パニックになった少年を捕まえることなど造作も無かった。

 少年は頭ごと、その上半身をトロルの手の中にすっぽりと包まれ、掴まれた。


「もうダメだ・・・・・・」

 誰もがこの村の全滅を悟った。




 次の瞬間。

 村人たちは銀色の閃光を目撃する。

 

 閃光は直線的な尾を引きながら、周囲を駆け巡る。


 

 ゴブリンが、コボルトが次々倒れていく。

 少年を握ったトロルの腕が切断されて地面に落ち、その手のひらから少年を解放する。


「な、なんだ?!」

 村人たちが驚愕するその視線の先には、黒に銀の十字が入ったマントを背にした戦士が立っていた。

「は、白銀の・・・・・・騎士」

 誰かが呟いた。


 ヴォォォォォオオォォッッ!!


 腕を切られたトロルが吠えて、手近に落ちている少年を巨大な足で踏みつけようとする。

「ひいぃぃ!!」

 少年が叫ぶ。

 そして、再び閃光が走り、トロルの周囲にいくつもの煌めきが出現する。

 次の瞬間、トロルは細切れにされて、再生も出来ない肉塊と化す。

 少年を返り血から守るように、黒マントの戦士カシムはマントを固定化させて少年にかぶせる。

 そして、自分が助けたのがあの少年だったと気づく。



 驚愕の表情でカシムを見つめる瞳を、カシムはまっすぐ受け止めた。

「君の父親を殺したのは俺だ。それは申し訳ないとは思う。だが、それに対しての後悔はない。君の父親は、経緯はどうあれ野盗となり人を襲った。そして、俺は冒険者ではなく、騎士として君の父親を討った」

 言われた少年は、次第にカシムに焦点が合い、にらみつけるような表情になる。

「騎士だって?!」

 震える声でカシムに突っかかる口調で言う。

 それに対して、カシムは毅然とした態度でうなずく。

「そうだ。俺はカシム・ペンダートン。冒険者でもあるが、騎士でもある。ペンダートン家の名にかけて、人々を守るべく行動した。その行為に恥じることはしていない。もし、恨みに思うなら、俺は逃げも隠れもしない。君は堂々とペンダートン家に文句を言うなり、仇討ちに来ると良い。俺は俺として受けて立とう」

 そう言うと、カシムは立ち上がる。そして、未だに残っているモンスターに向かって疾駆し、剣を振るい、次々と屠っていく。

「ペ、ペンダートン?!グラーダの白銀の騎士の?!」

 少年は、力なくうなだれる。

 恨みに思う気持ち、悔しい気持ちはある。だが、誰もが憧れる白銀の騎士の名前を出されると、自分が間違っていたように感じてしまう。しかも、恨んでも、仇討ちに来ても良いとまで言われた。

 父親のとった方法が間違っていた事などわかっているだけあって、少年は、もうカシムを恨む事など出来なくなってしまった。



 村人たちは、あっけにとられてカシムの戦いを見ている。絶望しか感じさせなかったトロルは、あっという間にカシムに打ち倒されていく。

 村人に飛びかかろうとしたゴブリンは、空中で一刀両断される。

 閃光が走るたびにモンスターが倒されていく。


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