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エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第十三巻 赤い目
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赤い目  少年 3

 間一髪で交わしたが、至近からの剣による攻撃だった。続けてもう一撃。俺はアームガードで受けて弾く。

「わあ!!??」

「きゃあああああ!!」

 近くにいた村人たちが叫び声を上げて逃げる。

 

 攻撃してきたのはアールだった。

 アールの目は、完全に暗殺者の物となっていた。

「アール!!」

 俺は叫んだが、アールは、有無を言わさずに2本の剣で俺に切りかかってくる。

 俺は竜牙剣では無く、「楓」をポーチから出して対応する。「くそ!暴走してる!!ファーン、ミル、エレナ!村人を避難させろ!!リラさん!ここは俺に任せてくれ!!」

 リラさんに窒息させる訳にはいかない。アレは結構危険な方法だ。


「兄様、人殺し。人殺しはいけない・・・・・・。私は、人殺し・・・・・・」

 何がきっかけで暴走するか分からない。

 凄まじい連撃が俺を襲う。

 はっきり言って、訓練の時とは比べものにならない鋭い攻撃が俺を襲ってくる。

 

 だが、俺はその攻撃を全て受けきる。全て見える。

 受けた剣を、誘導して、アールのもう1本の剣と合わせてはじき落とす。

 すぐに次の武器を取り出そうとするその手を、俺の足が払う。

 すると、アールはすぐに手刀しゅとうを俺の左目に突き込もうとする。払うと、アールの柔軟さで、後ろから足を、俺の脳天に落とそうとするが、その技は前にも見た。足が降ってくる前に身を屈めて、アールの足を取り、地面に押し倒す。

 すぐに馬乗りになろうとするが、アールは足を俺の肩に掛けて、腕を取り、肩を締める事で頸動脈を締め上げようとする。

 だが、アールの体術は俺も習っている。すぐに腕を抜き、アールの側面に回り込んで、アールを俯せにひっくり返して、腕をひねりあげる。

 ボグッ!

 アールは躊躇わず、自ら肩の関節を外して、緩んだ瞬間に後頭部で俺に頭突きを喰らわせようとする。

 俺は、そのまま腕をひねっていたら、アールに酷い怪我をさせてしまうので、慌てて手を離しながら、頭突きも回避する。

 一瞬の隙に、アールは体を起こして、足を低空で回して足払いをする。

 足払いは俺に命中して、俺は地面に向かって横倒しに倒れかかりそうになる。

 だが、俺は体が倒れる前に地面に手を付いて、そのままアールに足から飛びかかる。

 両足でアールの胴を挟んで、そのまま地面に押し倒す。

 今度こそ馬乗りになる。


 相変わらず、アールの体術はすごいし、暗殺者となると、技の切れが凄まじい。

 ちょっと前の俺だったら、こうしてアールを傷つけないように気を付けながら戦う余裕など一切無かっただろう。


 俺はもがくアールの両手を押さえると、顔を近付ける。押し返そうとするので、足もからめて、完全に全身を拘束する。後は頭突きにだけ気を付けよう。


「アール!!俺だ!アールの兄様だ!!」

 俺が叫ぶ。

「大丈夫だ!怖くない!!落ち着け!!」

 少しだけ抵抗が弱まる。だが、俺の心は痛む。

「アールの大切な兄様だ!アールはアールの兄様を傷つけてはいけない!!それはアールが望んでいる事じゃない!!」

 アールの洗脳は解けていない。アールの最後の標的は、依然俺のままだ。だから、暴走するとアールは俺に攻撃してくる。

 そして、自分の中の矛盾に気付いて苦しそうに涙を流す。 俺は新たな洗脳を重ねて、アールの暴走を止めなければならない。

「兄様!!助けて!!殺して!!」

 アールが叫ぶ。この状態のアールはとても苦しいのだろう。普段のアールも、平気そうにしていても、実は絶えず恐怖に打ち震えているのだ。

 自分が犯した罪と、兄と慕う俺を殺さなければいけないと言う事。そして、自分の中の矛盾という恐怖に。

「アール!大丈夫だ!俺がいる!!ずっとお前と一緒にいる!!」

「兄様!!怖い!怖い!!」

 アールが泣き叫ぶ。

 俺は腕を放して、アールをきつく抱きしめる。

「アール。お前の怖いのは、俺が消してやる。俺に任せろ」

 何の保障もない事を俺は言う。言わなければならない。

「にい・・・・・・さま・・・・・・」

 やがて、アールは力尽きて気を失う。

 

 俺は最悪な気分になった。

 自分の罪がどんどん重くなっていくようだ。

 あの少年の父親を、恐らくは目の前で殺したと言う事。それがきっかけでアールの暴走を招いてしまった事。その暴走を止める為に、アールに洗脳の上書きをしている事。

 流石に自分に吐き気がしてくる。

 俺はアールを抱き上げる。


「おい、エレナ。アールを部屋に連れてって休ませてやれ。リラ。この場は頼んだ。ミル。カシムはお前に任せる」

 ファーンが一通り指示を出すと、アールを抱えたエレナと一緒に借りている建物に戻っていった。


 俺は、所在なく、フラフラと村の外れに歩いて行く。混乱する村人に対して、顔を向けることが出来ない。

 ミルは俺の後ろを付いてきているようだ。



 村の隙間だらけの柵の間から、外に出ると、その場に腰を降ろす。

 ミルは何も言わずに、俺の隣に座る。

 今日も空には星が瞬いている。

 覚えているさ。1人1人を。


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