冒険の始まり 旅立ち 5
俺は見送るガトーに手を振り屋敷に戻る。そして、すぐに荷物を持って、そのまま出発しようとした。
しかし、玄関ホールに行くと、家族が全員そろっていた。
「カシム。黙っては行くなよ?」
キースが笑って言う。
「ごめん。みんな・・・・・・」
するとオグマが俺の前に立つ。
「カシム。まさか今日すぐに旅立つとは思ってなかったから、ちゃんとした物は用意できなかった。でも、これが餞別だ」
オグマは赤く塗られた鉄の笛を俺に手渡す。
「これは?」
「うん。これはな。ピンチの時にこの笛を吹けば、何処であろうと俺がカシムを助けに行く事が出来る」
「え?魔法道具?」
俺は驚いた。召喚効果のある魔法道具なんて、もしあったら値段は計り知れなそうだ。
「・・・・・・いや、気持ち的にそうしたいなって思ってな・・・・・・」
「・・・・・・つまり、吹いても何も起こらないって事?」
「いや!音は鳴る!」
俺は赤い笛をオグマの手にそっと戻す。
「ごめん。いらない」
「ノオオオオオオオオオオオオオ!!!」
オグマが叫ぶ。
それを見たキースが勝ち誇った顔でオグマを押しのけて俺の前に立った。
「愚かな弟だ。カシム。俺はちゃんとお前に合った物を用意してある」
そして1冊の本を俺に手渡した。
「カシムは本が好きだ。だから俺は役に立つ本を用意した!カシムはこれから冒険者になるのだろう。だったら、身につけるべき知識と技術があるだろう」
俺は本のタイトルに目をやる。
「狩猟~獣の処理と野外料理~」
俺はその本もキースに突き返す。
「兄さん。・・・・・・俺、一応一通りもう出来る。この本は兄さんたちの方が必要なんじゃないかな?」
兄たちはこの手の訓練が苦手だったので、ほとんどやっていない。俺はしっかりやったし、考古学者として旅をする中で実践もしてきている。
「・・・・・・フフ。カシム・・・・・・立派になったな」
うなだれるキースにオグマがヘラヘラと笑いかける。2人はそこでケンカを始めた。仲が良いな。
今度は父が俺の前に立つ。
「カシムよ。餞別というわけでは無いが、お前の母フューリーの言葉をお前に贈ろう」
父は咳払いをする。母の言葉とあって、俺はつばを飲み込む。
『私は、いつか冒険者になる。その時は前衛をしなさい、ガルナッシュ』
父が遠い目をする。何か思い出に浸っているようだが、俺の心には響かない。
嫌な予感がして改めて順番待ちをしている連中を見る。
祖母はパンパンに膨らんだ袋を引きずってきている。中身は恐らく食べ物だ。
祖父は・・・・・・あれ?あれは?おいおい!!
伝説の白銀騎士装備じゃないか。有名な白銀の装備では無く黒い鎧とロングソードだ。二つ合わせると国一つ買えるって噂の・・・・・・。冗談じゃ無い!そんなんもらえるかっての!
ああ、リアはぬいぐるみ持ってるし、ベアトリスはパジャマセット(ナイトキャップ付き)、バルトは銀の食器セット。ってそれ我が家のじゃん。
もう!みんなズレまくってる!!!
「じゃあ、行ってきます!!!」
半ば悲鳴のように告げると、尚も何か言おうとする家族たちに背を向けて家から飛び出した。
ともあれ、こうして俺の旅が始まった。
終わりへの旅が・・・・・・だ。
まずはグラーダ四大都市の一つ、文化都市アメルに行く。
そこでアカデミーに寄ってから冒険者登録。そして、いよいよ白竜の棲み家に向かおう。
俺は人で賑わう大街道、リア街道を東に向かって歩き出した。
エレス歴3967年3月32日の事である。
◇ ◇
一夜明けたグラーダの王城「リル・グラーディア」の王の執務室では、非常に清々《すがすが》しい顔をしたグラーダ三世が執務に精を出している。
「ところで陛下?」
宰相ギルバートが声を掛けると、グラーダ三世は書類に目を向けながら返事をする。
「どうした?」
「いえ。カシム君の事ですが・・・・・・。創世竜とちゃんと会ったかどうかを確かめる必要があるのでは無いでしょうか?無論その点抜かりは無いかと思いますが?」
確かに、カシムが「創世竜に会った」「認めてもらった」といえば、それを確かめる手段は無い。
かつての「竜の眷属」たちも自称がほとんどだ。誰も疑っていないがその点では「剣聖」ジーンも同じだ。証拠など無い。
グラーダは書類から目を離さずに答える。
「無論だ。すでに最適の男を派遣している」
ギルバートは眉根を寄せる。
「まさか『鷹』の隊長では無いでしょうね?」
彼のスカウト能力の高さは知っているが、最適とは言い難い。彼はカシムに荷担し過ぎそうで、いまいち信頼性に欠ける。
「いや?第一あやつはジーンの私兵ではないか。俺に命令権は無い」
「ではいったい誰ですか?」
グラーダは書類から目を離すと、ギルバートを見る。
「冒険者だ。訳ありのな」
グラーダ三世が依頼したのは、ジーンからかつて紹介された冒険者で、エルフの無口な男だ。職業は黒魔道師。
だが、この男、剣の腕も立つし、ハイエルフでは無く、只のエルフながら、ハイエルフの能力も多く引き継いでいてスカウト能力も高い。あまり目立ちたがらなく、口も堅いので、度々グラーダ三世はこの男に依頼していた。
冒険者ギルドを通さない依頼を受ける、闇の冒険者である。
男の名は「ランダ・スフェイエ・ス」。
ランダはグラーダ三世の依頼を受けて、すでにカシムの側で監視をしていた。
だが、グラーダ三世の依頼を受けるよりも前に、ランダはカシムの祖母クレセア・ペンダートンに会っていた。
「カシムの事を守ってやって。あなたにしかお願いできない事です」
「お任せください」
ランダはクレセアの前に跪いて、恭しく頭を下げる。




