冒険の始まり 旅立ち 4
翌朝、俺はメルスィンの冒険者ギルドに冒険者登録をしようと向かう。
冒険者ギルドは、我が国ではメルスィンと、アメルに本部がある。他は支部だ。冒険者ギルドで、登録試験を合格して、始めて冒険者として認定される。
冒険者証の発行と、ランクを示すプレートも支給される。
冒険者になると鑑定士師によって、ステイタス鑑定を格安で受ける事が出来る。そこで、自分のレベルもわかるようになっている。
その冒険者ギルドの本部は、ペンダートン邸の裏側に道を挟んで隣接している。
我が家ほどでは無いが、こちらも規模がでかい建物と敷地である。
ついでに荷物の買い出しも済ませるつもりだった。
しかし、街に出ると、どうも多くの人の視線が集まっている様に感じる・・・・・・。いや、もうあからさまにこっちを見ている。指を差したりしている人もいる。
ヤバい。昨日の事がもう街中の噂になっているのか?
こんな中、冒険者ギルドになんか行ったら、大変な騒ぎになりそうだ。
俺は大急ぎで家にとって返した。
「これは早々に王都を離れた方が良さそうだ・・・・・・」
準備は旅先ですませて、冒険者登録も別の街で行う事にしよう。
・・・・・・そうだ、アメルに行こう。
アカデミーにも寄って俺の目を見てもらおう。リザリエ様も一度呪術の研究室の人に見せてもらって欲しいと言っていた。貴重なサンプルらしい。
アメルの冒険者ギルドなら、騒ぎにならず冒険者登録できそうだ。噂が変に広まる前に行った方が良さそうだ。
午後にでもアクシスの元を訪れてやろうと思っていたがやめだ。
城に行くともっと大変な事になりそうだ。約束しているわけでも無いので、準備が出来次第出発しよう。
俺はそう決めると、部屋に戻り、リュックを出して、旅の準備を始める。考古学者として旅した時の物とそう代わらないので準備は早い。
着替えと水筒、ノート、筆記用具、コンパスやロープフック。ウエストバッグに、マフラー、マント。鍋とフライパン。着火セット。ペグとタープとロープ。水質検査紙、カンテラ。折りたたみスコップ。砥石。予備のグローブ。愛用のゴーグル。
財布と路銀。冒険者登録もあるし、少し多めに持っていく事にしよう。紙幣ならかさばらないから旅には向いている。
贅沢が出来るほどは持っていかないが、ゆとりは必要だ。もし足りなくなったら、冒険者として稼げば良い。
出来るだけ小さくまとめてパッキングしたので、リュックは余裕がある。
ハケとルーペ、油紙を置いて行くのが残念だ。
準備が済むと、祖母に出発の件を伝えた。すると「あら、急ねぇ~」と一言いうと、パタパタと走って行ってしまった。
なので、俺はガトーの工房に向かう。
「ガトー?」
声を掛けると、ガトーがすぐに出てきた。
「お、坊ちゃん。待ってましたよ」
まだ昼前だというのにもう出来ているようだ。
「早いな」
驚きの声を上げるとガトーは二カッと笑う。
「そりゃあ、徹夜で仕上げましたからね」
「え?それは悪かった」
まさか徹夜とは・・・・・・。
「な~に。こうなる気がしてましたんでねぇ~」
この男、何処まで先読みできるんだ?
優秀な人材じゃないか。独立して鍛冶工房を構えれば評判の鍛冶師になれそうなのに。
・・・・・・まあ、ガトーも祖母に拾われて家の敷地の保護養育園で育った口だ。
職業選択の権利を有していて、我が家としても養育園出身者への支援は惜しまない対応をしているのに、我が家の使用人になりたがる者が多い。
就職先として、かなり条件が良いのも確かだから、みんな我が家で働きたいのだろう。もちろん、恩義を感じてもいるのは確かだし、そこを疑ったりしては申し訳ない。
ガトーの用意してくれた装備は、まず革のジャケットスーツ。以前のジャケットよりも体にぴったりなので、その上から付ける胸当てがあってもかさばらない。肩にショルダーガードも付いている。長袖にも出来るが、まくれるように袖は布製だ。暑い地域が多いので基本的にはまくって装備しよう。
胸当ては単純な作りだ。ただ、胸の所にナイフを逆さに装備できるようになっている。これは便利だ。
アームガードは手の甲から肘の少し上までをガードしてくれる。左のアームガードの中にはナイフが仕込まれている。
ズボンは股間部分は革製で頑丈になっている。足の部分は布製だ。大きなポケットが付いている。右の太ももには投擲ナイフが3本収納できるようになっている。予備はウエストバッグに入れておけばいい。
すね当ては膝のガードまで付いている。
剣は注文したとおりの長さで、刃渡りが65センチの両刃の剣だ。前に使っていたショートソードの刃渡りが55センチだったので、少し長くなっている。柄頭が外れて中に仕込まれているワイヤーで剣本体とつながっている。ワイヤーの長さは30メートル。
額当ては頭の前半分をガードしてくれるハーフメットだ。普段は首の後ろに掛けておける様になっている。後ろからスライドさせる事で簡単に装着出来るようになっているが、リュックを背負っていると邪魔になりそうだ。悪いが使わないかもしれないな・・・・・・。
後は短めの剣鉈で、腰の後ろにでも装備すればいい。野宿の時に便利だ。
早速その場で装備してみる。
「どうです?」
装備を手伝いながら、ガトーが言う。
「うん。いいね」
一つ一つ確認し、その場で少し体を動かしながら俺が答える。
「動きやすいよ。ちょっと暑いけど、グラーダから出れば少しは涼しくなるから問題ないよ」
するとガトーが真面目な顔でいう。
「坊ちゃん。白竜の棲み家は雪山ですから、ちゃんと防寒装備を忘れずしてくださいよ。グラーダの人間は寒さに耐性が無いんですから」
グラーダは1年中暑い地域だ。俺も雪なんか見た事も無い。寒い地域に旅した経験はまだ無いので、寒いという感覚も、いまいちわからない。
「わかった。ありがとうガトー」
一応、祖父は極寒の北の国トリスタン出身である。肌が浅黒いグラーダ人と違い、色白で、トリスタン人の血が濃そうだ。もしかしたら、寒さに耐性もあるかも知れない。
「どういたしまして。でもいいですか?カシムお坊ちゃんは人が良いから言いますが、俺が作ったよりも良い装備なんていくらでもあります。良い装備があったら迷わず換えてください。俺は・・・・・・俺たちは坊ちゃんが無事で帰る事こそが望みなんですからね」
「ああ。肝に銘じておくよ」




