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エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第一巻 冒険の始まり
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冒険の始まり  旅立ち 2

 吟遊詩人リラ・バーグは、感動に打ち震えていた。

 自分が一目見て好きになった人が、伝説の竜騎士になる道を目指すという事に。

 自分は今、グラーダ三世が言ったように歴史的瞬間に、後に語り継がれるであろう伝説の物語の1ページ目に居合わせたのだ。


 身の内に歌が絶え間なく流れていく。歌詞はまだ無い。そう。歌詞はこれから紡がれていくのだ。

 あのカシム・ペンダートンによって。自分が初めて好きになった男によって。


 歓喜が全身を包むのと同時に、激しい焦燥感がジワリ、ジワリと足下から這い上がってくるのを感じた。


「このまま彼が旅立つのを、ただ見守っていて良いの?彼が冒険して、伝説となるのを、誰かから聞くのを待つだけで良いの?」

 リラは体中が針で突かれるような痛みを伴う不快感を感じた。

「イヤだ!私は彼が伝説となるのを間近で見届けたい!」


 更に身の内の女の部分が告げる。

 彼が伝説となったら、沢山の女性が彼を放っては置かないだろう。そうなったら、ただの田舎者の吟遊詩人の私では、きっと見向きもされなくなる。

 あの時の優しい眼差しを、もう私に向けてくれる事は一生無いだろう。

「そんなのはイヤッ!」

 リラは、とっくに謁見の間から退出していったカシムを追って走り出した。

「彼の力になりたい!そして、沢山のうたを見つけたい!」





 謁見の間を早足で、駆け出さんばかりの勢いで飛び出したグラーダ三世は、最後は本当に全力で走って、城の4階、執務室奥の自室に駆け込む。

 そして、ドアを閉め、自室の更に奥の部屋に駆け込むと、後ろ手に閉めたドアに寄りかかる。そして・・・・・・。

「ゲヒャッ・・・・・・。ゲヒャッ・・・・・・。ゲ~~~~ヒャッヒャッヒャッヒャッ~~~~~!ざまあみろ~~~~~~!あの小僧っっっ!!!!」

 豪快に、そして下品に高笑いして天井に向かって絶叫する。ここまで感情を爆発させた事はかつて無かった。


「ギャ~~~~~~ハッハッハッハッ~~~~~!!最高だったぜ、あの小僧の絶望した顔!!!!あああああ~~~~。いい気味だぁ!考えに考えて、考え抜いた俺の案!天才か!!?

 あいつ絶対死ぬ!死ぬぜ!!アクシスに『お父様キライ』なんて言わせやがった報いを受けるがいい~~~~!!」


 グラーダ三世は寝る間を惜しんで頭を悩ませ、ようやく見つけた最善手をここで打ってきた。ただカシムに嫌がらせをする為だけに、国の隠してきた事を公表し、「竜騎士」という重要な切り札を切ってきたのだ。


 むろん、竜騎士になるのはカシムである必要は無いし、グラーダ三世からすると、カシムが竜騎士になったりしては困る。


 何故か、グラーダ三世はカシム個人を激しく嫌っていた。

 他の男がアクシスと結婚するというなら、その男が相応しければ認めない事も無いかもしれない。だが、カシムにだけは取られたくないと思ってしまっていた。

 グラーダ三世の一方的な感情でしか無い。

 理由もある。あったはずだが、もはや感情的なものとなって、グラーダ三世自身にも抑制が効かなくなっていた。

 その感情にすっかり流されてしまっていたが、今のグラーダ三世は爽快そのものだった。


 あの場でアクシスが文句を言ったらどうしようかと不安だった。

 だが、思った通り、「伝説の竜騎士になれ」という依頼は、不快ながら、カシムを英雄視しているアクシスには、好評をもって受け入れられた。

 しかも、何故かギルバートもリザリエも文句を言わなかった。その点も不安に思っていた。さすがに仁義にもとる対応だという事は自覚していたからである。


 恐らくカシムは死ぬだろう。死なないはずが無いのだ。合法的に処刑宣告したも同然である。

 あの場で、地獄教の事やアクシスの秘密を公にされ、2人の聖人に糾弾されたら、さすがの闘神王でも無視する事は出来ない。何より、2人が正論で迫ったら、アクシスもこの事実に思い至り自分を責めたであろう。

 それが何より不安だった。

 不安で眠れなかった。目の下にクマができるほど・・・・・・。

「だが、成功だ!!!大成功だ!!!!」

 これまで練ってきた、どんな計略よりも神経を使い、頭をひねって考え、最も不安だったこの謀略が成功した。

 才能の無駄遣いの極地である。


 グラーダ三世には、今夜の良質な睡眠と、良い夢が約束された。

 


◇     ◇



 俺は暗澹あんたんたる気持ちで家に帰り、そのまま母が使っていた部屋に行く。

 母の部屋は生前のまま10年以上も保たれていた。掃除も行き届いている。

 この部屋には沢山の本が置かれている。

 俺やアクシスに読んで聞かせてくれていた童話や伝説、物語の本がほとんどだ。

 俺は、子どもの頃に好きで、何度も繰り返し呼んでもらっていた小さな本を手にする。

 木こりが木を切り倒すのを、何とか邪魔しようといたずらを仕掛けては失敗するウサギの話しだ。

 他にも沢山好きな話があった。

 修行の合間にこの部屋に来て本を読むのが好きだった。本を読んでいると、母が近くにいてくれるような気がした。殺伐とした心にも温もりが戻ってくる。

 だから、俺は物語に隠された真実とか知りたくなり、色々調べていく中で、騎士になるより自然に、考古学者の道を選んだのだ。



 そして、今度は俺が本になりそうだ・・・・・・。この探求が成功しようと、失敗しようと・・・・・・。

 国王が話した「聖魔大戦」が本当に起こるのかは分からない。第一、あいつに良いようにされたままというのは腹が立つ。


 だが、そうだな。

 俺は、俺が好きな本に殉じよう。

 死んでも笑い話として、どこかの子どもに笑ってもらえる。

 あのウサギのお話のような喜劇になると良いなぁ。


 そう思うと、少し気が楽になった。

 すると、さっきまでグチャグチャだった頭が少し落ち着いてくる。


 俺は、母の本棚から、ウサギの本と同じくらい小さい本を一冊手にしてパラパラとページをめくる。

 それは子ども向けの絵本で、タイトルは「羊飼いアル」。

 伝説の竜騎士の物語だ。


 彼は「白竜」「青竜」「聖竜」「緑竜」に認められて七柱の創世竜を率いる竜騎士になったという。だが、聖魔戦争で命を落とした悲劇の英雄でもある。

 俺は本を閉じると、本を上着のポケットに入れる。


「よし。まずは『白竜』に会いに行くか」

 旅の第一目標が決まった。


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