冒険の始まり 旅立ち 1
俺は、何の為にこの謁見の間に呼び出されたのだろうかと思いつつイスに座り、研究発表や、グラーダ陛下の講評を聞いていた。
だが、話しが思わぬ展開を見せ、正直ついて行け無くなってきていた矢先に、どうも良くない風が吹いてきているのをヒシヒシと感じていた。
「誰が竜騎士になれるというのだろうか?あの最強の冒険者集団『歌う旅団』の『光の皇子』か?」
グラーダ陛下がこう話すと同時に、話しが確実に危険な方向に進んで行っているのを確信した。
そして、グラーダ陛下が、確実に悪意のある、魔王の如き悪辣な表情でこっちを見て笑ったのを見逃さなかった。
この親父、何を言うつもりだ!?
戦慄が走る。
「おい・・・・・・まさか」
思わずつぶやく。
「私はその者を知っている!」
あいつが間違いなく俺を剣で指し示す。
「カシム・ペンダートンよ!剣聖ジーンの末の孫!誉れ高きペンダートン家の、最後に現れた英雄よ!汝にグラーダ国国王、アルバス・ゼアーナ・グラーダ三世の名において命ずる。これより冒険者となり、竜騎士となるべく旅に出るのだ!!!」
俺は思わず立ち上がった。
「ふっざけんな、クソ親父が~~~~!!!!!死ねって言ってるのと代わらねーじゃねーか!!!!!」
不敬罪確実の極刑級罵声は、幸か不幸か、周囲から湧き上がる大歓声で完全にかき消された。
そして、あのクソ国王は、発言が終わるとズカズカと玉座に戻り、組んだ足に肘を乗せ、その手にあごを乗せてクマの浮いた目で、ニヤニヤと笑いながらこっちを見ている。
何が名君だ!何が賢王だ!あいつ、完全に悪だろ!?
俺は祖父が助け船を出してくれないか、あいつの隣に座る祖父を見る。
だが、祖父はさも当然のように頷いていた。
次に会場の右端に座っているリザリエ様とギルバート様を見る。だが、2人はとても険しい表情をしてクソ国王を見てはいるが、反対の声を上げたりしていない。
当然だ。国王が公に発表した事を即座に臣下が否定など、さすがに出来るはずも無いだろう。
2人も驚いている様子から、あらかじめ知っていた話しでは無さそうだ。
となると、救いの鍵は、爆弾娘アクシスだ。アクシスが激烈に反対すれば、公の場だろうが関係なくあいつは言う事を聞くかもしれない。
俺はあの親父の向かい側に座る、アクシスに目を向ける。
だが、アクシスはベール越しでも分かるほど興奮している。そもそも髪の毛が黄金色になっている。
確実に、俺が竜騎士になる姿を勝手に想像して興奮している。この会場のほとんどの人同様、熱に浮かされている。
多くの人たちが俺の側にやってきて、口々に勝手に何かを言ったり、肩を叩いたり、握手を求めてきたりしている。
・・・・・・もうダメだ。この依頼は断る事が出来ない。世界中に宣言されてしまったのだ。
つまり・・・・・・こういうことか?
「俺、姫を助けて死刑宣告されてしまったわけだが・・・・・・」
ガックリとイスに腰を落としてうなだれてしまう。
◇ ◇
異様な熱気のまま、人々が解散した謁見の間に、ギルバートとリザリエが残っていた。
「なんでお止めしなかったんですか?」
ギルバートの問いかけに、リザリエはしばらく沈黙した後、深く息を吐きつつ言った。
「なんて残酷ななさり様かと、私も王を疑いました。これが単なる意地悪だったら、流石に私も異を唱えたでしょう・・・・・・。ですが、同時に思ってしまったのです。あの子なら、もしかしたらと・・・・・・」
すると、ギルバートも大きく息を吐き出す。
「私も同じです・・・・・・。カシム君ならもしかしたらと、思ってしまいました」
リザリエが困ったような表情をする。自分のこうした考えが、あの青年の命を絶つ結果につながってしまうかも知れないと感じているのだろう。
それを受け止めつつギルバートは首を振る。
「・・・・・・ですが、いずれにせよ我々には竜騎士の誕生は絶対に必要な事なのです。これまで20年以上議論してきましたが、聖魔大戦では竜騎士がいなくては、万に一つも勝ち目が無くなるのはわかっています。カシム君が竜騎士になってくれる事を信じましょう。たとえ、どれほど過酷で、細く、光の見えない道であったとしても、彼ならきっと切り開いていけるでしょう」
「ふふ。あなた意外とロマンチストなんですね」
リザリエの指摘にギルバートは頬を赤らめる。
「・・・・・・ロマンチストですよ、元から。・・・・・・でなければ、あの王に仕えようなどとは思わなかったでしょう」
「あら、ごめんなさい。それもそうね」
そして、フッと目元を緩める。
「やっぱり、あの方は希代の名君ですわ。これ以上無い布石を打ってくる。これでダメなら、私たちもあきらめが付くというものです」




