冒険の始まり 任務 3
違和感を感じていたのはギルバートだった。
「どういうことだ?王はどうなさったというのだ?」
ギルバートには、彼らの研究内容は驚くには値するが、正直どんな利用方法があるのかまるで分からない。
しかし、グラーダ三世は力強く話しを続ける。
「彼らの研究発表は、必ず我々にとって、大いなる恩恵をもたらすだろう。『来たるべき日』に、我々を救ってくれる技術となり得べきものであると確信する」
「『来たるべき日』?王よ、何を言うつもりなのだ?」
リザリエの横でギルバートは身を乗り出す。さっきから背中を冷たい汗が伝い落ちている。
「来たるべき日・・・・・・。そう。今こそ明かそう!『世界会議戦争』。諸君らが『グラーダ狂王戦争』『狂王騒乱戦争』と呼ぶ、30年前に私が起こした戦争の真の目的を!」
「馬鹿な!?まだ早い!!」
ギルバートがイスを倒す勢いで立ち上がり叫ぶ。だが、その叫びは会場中を渦のように巻き上がっているどよめき声に消されてしまう。
隣で立つリザリエも、喜びがすっかり冷めた表情でグラーダ三世を見る。次にグラーダ三世が座っていた玉座の隣に腰を下ろしている「剣聖」ジーンに目を向ける。ジーンは、腕を組んだまま微動だにしない。だが、わずかに片眉を上げてグラーダ三世をじっと見ているので、恐らくジーンも何も知らされていない、つまり、グラーダ三世の独断なのだと知れる。
「『グラーダ狂王戦争』。私は世界各国に戦を仕掛けて、世界中、ほぼ全ての国を征服し、その後、また各国の国王やそれに代わる者たちに国の主権を返還した。
一見すると、狂った王が、武力を思うさま楽しむために、好戦的な悪鬼のごとく各国を蹂躙したものの、統治する能力も意欲も無く手放した、ほとんど無意味な世界戦争だと見えただろう。
ほとんどの者がそれをそのまま信じている事だろう。だが真実は違う。
そして、諸君らがそう錯覚して現在まで来ている事自体が、私、アルバス・ゼアーナ・グラーダ三世の意図した事だったのである」
グラーダ三世が迷いの無い表情で会場全体を見回す。
途中、ギルバートとリザリエの2人と目を合わす。その瞬間、闘神王の強い眼光を浴びせる。
この目をしたグラーダ三世は、何かしらの確信を得ている時だと経験上知っていた。
「ここで真実を話されるつもりか・・・・・・」
ギルバートがつぶやく。リザリエも諦めたように力なくイスに腰を下ろす。
「我がグラーダには、秘匿された預言書『エクナ預言書』がある。その預言書についてはここでは伏せさせてもらうが、時がきたら公表することを約束する。だが、そもそもの始まりはこの預言書からである事だけは、今告げておこう。
そして、我が国にいた地獄の研究者『アヴドゥル』博士の書『地獄見聞録』『狂人の書』は知っている者もいる事だろう。だが、諸君が知っているのは一部のみ。
アヴドゥル博士による隠された書である『エレドナグア』は地獄の魔王からの密告がその内容である。
それによると、このエレスには多くの地獄の穴が存在しているが、古代より、恐ろしく巨大な穴がこのグラーダ近辺に存在している。その穴には堅く蓋がされているが、46年前に、その蓋が緩む事件が起きた。
突如としてグラーダ国領内に、天をつく巨大な腕と、空を覆い隠す程の巨大な目玉が出現し、どちらもごくわずかな時間で消失した。この時に一度蓋に穴が開き、また閉じられたというのだ」
グラーダ三世の語る内容が、あまりにも途方も無い事になってきたので、会場に動揺が走る。闘神王が本当に狂ったのではと疑う者もいた事だろう。
「だが、完全では無かった。数十年後にその蓋は完全に壊れてしまうだろうと、地獄の魔王が、アヴドゥル博士に語ったそうだ。
つまり、もういつ蓋が崩壊して、地獄の深層から強大な・・・・・・これまで誰も遭遇した事が無いような恐ろしい魔物、魔王たちが大挙して我らがエレスの大地に現れたとしても不思議では無いのだ!我らは今は薄氷の上に立っていると言う事だ。
わかるか?
そう。ここにいる有識者は知っている。エレス歴以前の文明を滅ぼした地獄勢力との戦い、『聖魔戦争』。200年前に未然に防がれた『聖魔戦争』。
それが再び起こる。それもかつて無い規模での!」
そこでグラーダ三世は一度話しを区切って、謁見の間に集まった人々を見る。そして、動揺する人々に力強く告げた。
「今度の戦は『聖魔大戦』である!!」
「聖魔大戦」の一言に会場中が戦慄する。それは世界の終焉を予感させた。




