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エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第一巻 冒険の始まり
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冒険の始まり  修行 4

 地獄教最大宗派であるラジェット派の大司教デネと3人の高弟は、ジーンの軍団の攻撃から辛くも逃げ延びる事が出来ていた。

 その他の約500人の信徒達は全員死んでいる。いわば500人を人身御供ひとみごくうにして逃げ延びたのだ。


「グラーダの狂王め。意外にも迅速じゃった」

 暗いどこかの町の地下の一室でデネ大司教がつぶやく。

 地下室は、少ないろうそくの灯りだけで、その細部が闇に包まれているが、棚にいくつもの術具や、儀式の道具が置かれていた。

 そして、3人の高弟がデネを前にひざまづいていた。


 棒術使いのウシャスは失った右手の代わりに、木で出来た義手を装着していた。その義手に指は無く、大きなかぎ爪が一つ付いていた。

「まあ、失った信徒どもはまた補充すれば良い」


 ラジェット派は、地獄教でも最大規模の宗派だった。と言っても前回の討伐でそのほとんどを失ったので、最大宗派でも1000人強だったと言う事になる。

 そのラジェット派も、今はデネ大司教と、高弟3人の他は、数名しかいない。


 だが、デネ大司教の言う様に、また増やす事が可能なのだ。つまり、あえてその規模に抑えていたと言う事だ。人数が増えればそれだけ見つかる確率が高くなる。

 地獄の魔物が囁いて、地獄教の予備軍にしている。

 本人も気付かないうちに地獄教予備軍になっていて、合図一つで地獄教徒に「裏返る」。いくらでも増やせるのだ。

 自ら進んで地獄教徒になる者もいる。デネの高弟3人もそうである。


「それよりも、わしらの邪魔をした、あの小僧について調べておけよ」

 デネ大司教が言うと、弓矢使いのヴァジャが顔を上げて発言する。

「師よ。あやつには私が呪いを掛けております。一時(いつとき)回復しても、やがて呪いが体を蝕み、気付いた時には手の施しようが無くなり、死に至る事でしょう」

「うむ。お前の呪術の腕は知っておる。だが、呪術とわかれば、恐らく呪いを解く方法も見つけ出すに違いあるまいて・・・・・・」


 ヴァジャが顔をゆがませる。

 己の呪術に自信があり、それを師に軽んじられたように感じたからだ。もっとも、表情の変化を師に見られるような失敗はしていない。


「呪術が効果を顕すまでどの位掛かる?」

 デネ大司教がヴァジャに尋ねる。

「そうですね・・・・・・。奴の気力次第ですが、恐らく2ヶ月ほどで効果を(あらわ)すでしょう。それまではすっかり傷が回復したと思い、疑う事もありますまい」

「ふむ・・・・・・2ヶ月か・・・・・・。グラーダのアカデミーが動き出していたとしたら、そこまで確実とは言えないな」

 ヴァジャの顔がまたゆがむ。

「念のためにジンス派の連中に依頼して監視を付けるとするか」

 ラジェット派が最大規模だとすれば、ジンス派は武闘派で、戦力としてはラジェット派をしのぐ。最高責任者を「教皇」と呼んでいる。

 地獄教のバックボーンにいる地獄の魔王もそれぞれ異なっていて、各宗派の秘匿事項であり、他宗派の魔王が誰なのかはデネ大司教も知らない。

「あの小僧にはしっかり仕置きをするとして、今は次の儀式のための人集めが急務じゃ。それはロビル。貴様に任せる」

「は・・・・・・」

 大男が頭を下げると3人は、影の様に暗い部屋から出て行った。



◇      ◇



 翌日、目が覚めると、祖父が近くに立っているのを感じた。

 俺が体を起こすと、祖父が歩み寄ってくる。

「おはようございます、師匠」

 そう言いながら俺は立ち上がる。

「うむ」

 祖父が頷く。そして、手に持っていた50センチほどの長さの木の棒を俺に投げてよこす。目には見えないが全身でそれを感じて、何とか落とさずに受け取る事が出来る。

 それを見て祖父がうなずいた。

「感覚は途切れていないようだな」

 昨日ほど明確では無いが、全身でものを見て感じる感覚は確かにある。

「さて、今日からは次の段階に進む」

 祖父が宣言する。俺は姿勢を正して祖父の言葉を聞く。


「今日からワシは、お前を時々攻撃する。お前はそれを察知して防御せよ。もちろん反撃してもかまわん。そして、ワシに一撃なりとも浴びせる事が出来たなら、その時こそ『無明の行』は修了とする」

 目が見える万全の状態でさえ、祖父に一太刀入れた事など、今まで一度も出来た事が無い難行だ。俺は軽く目眩を覚える。


「質問はあるか?」

 祖父の問に、今渇望する情報を尋ねる。

「現在の日付と時刻を教えていただけますか?」

 祖父は頷くと、快く教えてくれた。

「現在は2月33日、4時43分だ」

 俺の感覚が1日近くずれていた。だが、もう俺の時間感覚は大丈夫なはずだ。直ちに感覚を修正する。


「では修行を再開するぞ」

「お願いします」

 俺が答えると、どうした事か、祖父の姿がかき消えた。・・・・・・いや、正確には存在しているという感覚が消え失せた。

 全くどこにいるのか分からなくなる。

 するといきなり背後からポカリと軽く頭を叩かれる。ミスリルの兜なので、全く痛みは感じないが驚く。

 全身の感覚で、空気の流れも感じられるようになったのに、祖父がいつ俺の後ろに回り込んだのか、全く分からなかった。いくら祖父でも空気を揺らさずに動く事など出来ないはずだ。

「これが『無我』だ。気配を完全に消す事で、空気の流れを感じていても、それすら知覚できなくする技だ。これを極めると、昼日中、町の中を歩いていても誰にも認知されずに歩き回る事が出来るようになる」

 また明かされる、祖父のとんでも技能。祖父のとんでもなさは、これが魔法では無く修練により身につけた技術と言う事だ。

「安心せい。さすがにここまでの技は今後は使わん。だが、気配を薄めて、攻撃していくから覚悟せよ」

 祖父がそう言うと、うっすらと気配を感じたが、すぐにその気配は離れて消えてしまった。


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