黒き暴君の島 黒竜の宝 4
「・・・・・・まさか・・・・・・落っことした?」
盗まれたなら、ここに有るはず無いし、黒竜が暴れ狂っているはずだ。だとしたら、あまり想像できないが、紛失してここに落ちているという線が、一番可能性が高いように思われる。
言ってはみたが、俺は信じられない思いだ。ファーンもリラさんも手を顔の前で振りながら「イヤイヤイヤイヤ」と苦笑交じりだ。
「じゃあ、黒竜はきっと困ってるんじゃ無いかな?」
ミルが眉をひそめてそう言う。
え~~~~~?!純粋な子はどうして俺たちが避けたがってた事を、簡単に言っちゃうかな~~~。
「・・・・・・そ、そうだよな~。困ってるかも知れないよな~~~」
俺はため息をつく。そうなると、俺はこのスフィアを拾って、黒竜に届けなければいけなくなるわけだ。
ただし、俺が宝を持っていると、黒竜は俺が宝を盗んだと思うかも知れない。黒竜が自分の過失に気付いていないかも知れないのだ。
黒竜にうっかり遭遇すれば、返す間も無く攻撃されてしまう事になりそうだ。黒竜は報復の為なら、宝と共に燃やし尽くす事も辞さないぐらい、苛烈な性格だそうだ。
それでも俺は、この黒竜の宝を見過ごす事は出来ない。考古学者としても、この宝の大切さがよく分かるからだ。
俺たち研究者の、夢とロマンが詰まっていると言っても、過言では無い。
「み、みんなは、絶対にスフィアに触るなよ・・・・・・」
俺はどのみち黒竜に会わなければならない。一番危険な役は俺が果たさなければいけない。これは俺の試練なのだから・・・・・・。
「あ~~あ。全く、カシムはどうしてこんな物を見つけちゃうんだよ・・・・・・」
そう言いながら、ファーンは俺に小さい巾着袋を手渡す。ファーンの言うように、見つけなければ知らなかったで済む。だが、見つけて、しかも黒竜の宝物だと知って放置したと黒竜に知れた方が、マズイ事になりそうだ。
それなら、宝を見つけた事を、会合にまで持っていく為のネタにするしか無い。
問題は2つ。
まずは、黒竜が俺の第一声を最後まで聞いてくれるかどうかという事だ。「黒竜の宝物を偶然見つけたので返しに来ました」と、いう一言を最後まで聞いてくれるのだろうか?また、聞いてくれたとしても信じてくれるだろうか?
その点は、もはや賭けでしか無い。ギャンブルの街ドランでは無いのだから、そんな賭けには出来れば出たくなかった。
第二に、どうやって拾ったら良いんだ?このスフィア・・・・・・。 ツルツルしているって事は、つまむのが難しいって事だ。
しかも激しく回転しているのなら尚の事だ。うかつに触ったら転がって行ってしまいそうだ。
手のひらですくう?いやいや、それこそ無理がある。紙を折ってすくい上げるか?でも、紙の上でどう動くか予想がつかないし、巾着に入れるのも難しそうだ。
俺が頭をひねっていると、ミルが「そうだ!!」と手を打つと、自分のウエストポーチをあさる。そして、取り出したのは・・・・・・。
「ジャ~~~~ン!!」
なになに?ミルの手に握られていたのはストローだ。
「あら?それ・・・・・・」
リラさんが顔をしかめる。
「そう!前にリラと、センネの町の処刑場跡広場でジュースを飲んでいた時に使っていた、ストローですっ!!」
「おまっ!?そんなもの入れとくなよ!!」
ファーンが怒鳴る。
「洗ってません!!」
ミルが胸を張る。
「洗っとけよっっ!!!!」
ファーンが更に怒鳴る。
ミルはそれを無視して鼻歌交じりに俺にストローを手渡す。
なるほど。ストローの直系は5ミリくらいだ。ストローを使って吸い上げれば直系2センチのスフィアを簡単に拾い上げる事が出来る。しかも巾着に入れるのも簡単だ。
俺はミルのアイディアに感心しながらストローに口を付けようとした。それをニヤニヤ笑いながら見つめるミル。
「はっ!?」
俺はあわててストローから距離をとる。
「ふふん。気がついたようだね~、お兄ちゃん」
ミルがまるで、名探偵のような口調で俺に言う。
「お兄ちゃんがそのストローを使うという事は、すなわちそれ、間接キッスなのだよ!!」
「な、なにぃ~~~!!??」
俺の背後に電撃が走るイメージだ。
「さて、最後に口を付けたのはあたしでしょうか?それともリラでしょうか?」
「・・・・・・くっ」
何という選択肢だろうか?ミルが最後なのだとしたらたいした問題では無い。ミルは子どもだし、これまでに数回、強引に唇を奪われた事もある。これをミルが最後に使ったのであれば気にしない。
しかし、リラさんが最後に使ったのだとすると・・・・・・。
よ・・・・・・よ~~~し。やってやる!俺はやってやるぞ!黒竜との交渉も賭けなら、その前の一勝負。
俺はやってやるーーーーー!!!
「やめなさい!!!」
口を付ける寸前で、俺の手からストローが奪われてしまった。
「・・・・・・ああ」
ミルはリラさんに頭を叩かれていた。
リラさんは俺から奪い取ったストローを水筒の水で念入りに洗ってしまう・・・・・・。そんなに丁寧に洗わなくっても良いじゃないか・・・・・・。そんなに嫌だったのかなぁ?
軽く落ち込む俺に、リラさんが苦笑を浮かべながら、洗ったストローを手渡す。
「いえ・・・・・・、その。ほら、ずいぶん前の物だから、洗ってないとなると、ばい菌とか付いていておなか壊しちゃうかもしれないでしょ?」
た、確かにそうだ。リラさんは俺の為に、優しい気持ちで洗ってくれたんだ。
俺は力を取り戻して、改めて躊躇無くストローをくわえた。気持ちだけでもリラさんとの間接キッスを想像しながら。
ファーンが腹を抱えて笑っているが放っておこう。
俺は神経を集中してスフィアを吸い上げる。
スフィアは簡単にストローに吸着して、そのままリラさんが広げた巾着の中に落とし込む事が出来た。
俺は巾着を受け取り、紐をきつく絞って腰のベルトに吊す。紐も袋も丈夫なので、なくす心配は無いだろう。
ストローはリラさんが回収してくれた。
巾着の中でもスフィアは回転を始めたようだ。微妙に袋が震えている。これはポケットに入れたらくすぐったそうだ。
あと、吸い上げてみたところ感じたのは、見た目のイメージよりも少し重たい気がする。材質は鉄ではないのだろう。
「ふう。・・・・・・にしても、これ大丈夫なのかな」
思いもかけずに、俺は黒竜の宝を手にしてしまった。不吉な予感しかしないが・・・・・・。




