黒き暴君の島 黒竜の宝 2
・・・・・・にしても、これからまた絶望的な死地に向かうのに、こいつらは、そして俺も何て脳天気なのだろうか?
白竜山に向かう時でさえ、決死の思いだったのに、白竜と違って凶暴で恐れられている、創世竜の中でも最大の竜、「暴君」黒竜に会いに行くのだ。その旅は「死」を意味している。
だが、俺はもう「自分は死んでも良い」とは考えていない。俺も、仲間もみんなで生き延びるのだと考えている。今も、当たり前のように、帰って来る事を考えていた。
それは良い事だが、そうだな・・・・・・。元より油断出来る状況では無いが、気を引き締めた方が良いだろう。
「いいか。これから白竜の時以上の危険があると思う。でも、絶対に誰も死ぬ事無く帰って来よう。会合なんて失敗しても良い。出来なくても良い。生きて戻る事を第一に考えて行こう!」
俺の言葉に、パーティーメンバー全員が表情を引き締めて、その瞳に決意の光を宿して頷いた。
そんなシリアスは、黒竜の領域に入る瞬間に崩れた。
「アッピャ!?ヒャウ~ン・・・・・・」
リラさんが身もだえして高い声を上げた。
ファーンもミルも笑う。俺も笑う。
「・・・・・・みんな、やってくれましたね?!」
リラさんが真っ赤になって俺たちを睨む。
リラさんが一番最後に、黒竜の領域に侵入したのだが、俺もファーンもミルも、示し合わせたかのように、領域に侵入した時に感じる違和感を、グッと我慢してノーリアクションで境界を通過した。
そして、人一倍領域に侵入する時に感じやすいリラさんの、天然な反応を楽しんだわけだ。
ここには白竜の時の様に、境界を示す看板なんて物は無い。境界を越えて領域内に侵入した時の、ゾワゾワするような感覚は突然やってきた。
にもかかわらず、良くも息が合ったものだ。これぞパーティーの連係プレイと言えよう。
俺とファーンとミルでハイタッチをする。リラさんは顔を真っ赤にしている。
「もう!見てなさいよ!!」
リラさんがフンッと力を入れると、境界をまたぐ。
「んんんっ!ックゥ~ン!」
身もだえしつつ、またおかしな声を上げる。そして、また境界をまたいで黒竜の領域に入る。
「ヒィ、フ~~ン・・・・・・」
「おお!がんばれリラ!!」
「リラ。かっわいい~~!!」
何とか境界を越える刺激に耐えようと、何度も境界を行き来するリラさんを、ファーンとミルが応援するような、茶化すような・・・・・・。
リラさんは、慣れる事も無く、何度もおかしな声を上げては、顔を真っ赤にさせつつ、唇を噛みしめて境界越えの試練に挑んでいた。
それにしても、黒竜の領域は殺伐としている。
西には、高い岩だらけの山がいくつもそびえていて、一番西の山の頂からは煙が上がっている。何でも山頂に火口が有り、マグマが溜まっているそうだ。数年に一度噴火するという。
その西の連山が鉱山となっている。
そして東には背の高い針葉樹の森が広がっている。その森の中に、レンガや瓦などを作るのに適した土が取れる場所があるらしい。
俺たちが進む南には、針山のように切り立った岩山がそびえていた。そして、その先に黒竜の棲むデナトリア山がそびえている。
デナトリア山はこの島で一番高い山だが、頂はこの島に立ちこめる煙でよく見えない。
ここからなら、距離にして半日程度で行けそうだが、いかんせん足場が悪い。
俺たちの足元には、黒い大小の岩が転がっていて、道などは無いので歩きにくい。リラさんは、いつものサンダルをやめて、今日は足首を保護してくれるショートブーツを履いている。
岩も、小さな気泡が空いていて、表面がザラザラしているので、転んだりするとケガをしてしまいそうだ。
この島を覆っているほとんどの岩は溶岩なのだろう。草木はまばらに生えているが、俺たちの行く手には、木々はほとんど見当たらない。
曇っているのか煙なのか定かでは無い曇天に、黒と白のこの景色はなんとなく重苦しい気持ちにさせてしまう。
待ち受けているのが、凶暴で知られている黒竜なのだから尚更だ。
そんな雰囲気を明るくしようと、ファーンたちはにぎやかに騒いでいるのかも知れない。
デナトリア山を見て、次にファーンたちを振り返り俺は考える。これは無理せずに進んで、デナトリア山の手前で野宿をする方が良いかもしれない。
領域に侵入した時点で黒竜は俺たちの事を把握しているかも知れないので、出来れば迅速に行動したいが、黒竜が、話が通じない様なら一目散に逃げるつもりだ。なので、陽の明るい内に黒竜に会うべきだろう。
それに、途中で野獣たちとも遭遇するはずだ。
創世竜の領域は、彼らにとって都合が良いような生態系が出来ている。住処に近付けば近付くほど、大型の野獣が多く住み付いていて、その生態系の頂点に創世竜がいるようになっている。
創世竜の好物は野生の竜だが、この黒竜島では、竜は島の南側に多く棲息しているそうなので、今回はもしかしたら竜種との遭遇は避けられるかも知れない。
竜との戦闘など、もうこりごりだ。白竜島では俺は単独でトレボル・ドラゴンと戦って瀕死の重傷を負ったし、ファーンたちもエッダ・サラマンダーという亜竜種と戦い、高レベル黒魔導師のランダがいなければ勝てなかっただろう。今はランダはこのパーティーにいない。強敵との戦闘は避けなければいけない。
「さあ、そろそろ行こうか!」
俺がそう言って振り返ったが、踏んでいた石がズレてバランスを崩す。転ぶ事は無かったが、つんのめってしまった。
「大丈夫か?」
ファーンが俺に声を掛ける。
リラさんとミルとで、まだ境界越えでふざけ合っていたようだ。
「ああ」
俺は手を上げて答える。それにしても歩きにくい地面だ。戦闘になったら、この足場の事も考えないといけないな・・・・・・。 そう思いながら地面を見た時、目の端に何かおかしな物が見えた気がして、もう一度地面をよく見てみる。
どこだ?黒っぽい大小の岩がゴロゴロ転がる地面の中に、銀色に光る何かがあったような気がする。