白竜の棲む山 ドラゴンドロップ 1
「それなら、俺はこのまま、黒竜島を目指す事にする。ここからならその方が早いから」
俺が言うと、白竜が頷く。
『あやつは困った奴ではありますが、その実、人間に対して執着が強い。ですが、気分屋でもあるし偏屈者です。私の様に簡単にお前に味方するとは思わぬ方が良いでしょう』
白竜にそうクギを刺されたが、そんな事は承知している。そもそも、創世竜に会う事自体が無謀な冒険なのだ。
それはそうと、さっきから白竜は黒竜の事を無茶苦茶けなしている気がする。なのに黒竜を推すのか・・・・・・。
「わかった!ありがとう、白竜!」
『うむ。万一、黒竜の承認を得たなら、その時にまた会いましょう』
「え?」
『約束です』
また会うって、またこの白竜山に来いって事か?!結構無茶な要求だな。でも、受けるしか無い。
「わかった。約束する」
『良い心がけです。では褒美としてこれをあげましょう。手を出しなさい』
何だろうと、俺は手を差し出す。創世竜が俺の手の上に首を伸ばしてきて、大きな牙で挟んだ小さな赤い宝石を俺の手のひらに器用に落とす。
ちょうど卵大の大きさの、赤くて透き通ったきれいな宝石だ。見る角度によって赤の色味が変わって見える。
「これは?」
『ふふふ。我ら創世竜が希に生成する、所謂『排泄物』です』
「うわ!?これ、アレ?」
俺は思わず赤い宝石を放り捨てる。仲間たちも俺と宝石から跳び退る。
謎の男が「やれやれ」と首を振りながら創世竜の排泄物である赤いウ○コを拾い上げて、とても大事そうに俺の手のひらにのせて握らせる。
「・・・・・・そういう言い方をされると、大抵こうなるが、これは恐らくはドラゴンドロップだろう」
ド、ドラゴンドロップ!!!??
確か、国宝級の宝石で、魔法道具の素材として最高の万能素材でもある、伝説の宝石だ。
俺の祖父の装備と同等以上の価値を持つアイテムではないか!?
『その通りです。「排泄物」と言っても我々は人間や他の生き物とは造りがまるで違います。我々の力の絞りカスであるのは確かですが、そこにはまだまだ利用できる力が凝縮して残されているのです。もちろん汚いものではありません。これからの冒険の役に立つでしょう』
「そ、そう言う事は早く言ってくれ・・・・・・」
ウ○コではないのか・・・・・・。俺は一度投げ捨ててしまった物の価値を知って、持っているのが恐ろしくなる。
白竜が笑う。わざと紛らわしい事を言って楽しんでいたな。
『宝石として売るので無ければ、割ろうが傷つこうが機能に関係ありません。必要なら小分けにして持っていてもいいでしょう』
そう言われても扱いに困るのは確かだ。これ、加工を頼むとしたら、一体いくら必要なんだ?そもそも、今の時代に、これを加工できる魔具師っているのか?伝説級の魔具師以外は魔法道具に加工できないはず。真っ先に思い浮かぶのは最近話題の「ムンク」という魔具師だが・・・・・・。
そもそも、ドラゴンドロップなんて代物は、非常に高価すぎるんだよ・・・・・・。冒険者的にあまり持っていたくない。
俺はファーンのリュックに入れてもらおうと、多分情けない顔でファーンにドラゴンドロップを差し出す。だが、ファーンも多分俺と同じぐらい情けない顔で首を振る。
リラさんなら一番しっかりしてるから保管してくれるのではと、リラさんを振り返るが、露骨に顔を逸らされた。
ミルは・・・・・・止めとこう。
仕方なく、俺のウエストバッグに入れようとするが、何とウエストバッグは無くなっていた。竜との戦いで中の道具ごと焼失してしまったようだ。
仕方が無く、何ともいい加減な扱いのようで心苦しいが、ズボンのポケットにそのまま突っ込む事にする。一応ポケットが破れていない事は確認した。
『それでは、カシム。そして、仲間たちよ』
「ありがとう、白竜。俺を認めてくれて。そして助けてくれて。ついでに仲間たちの名前も覚えてくれたら嬉しい」
そう言うと白竜が声を立てて笑った。
『そうですね。では名乗りなさい』
白竜の前にファーンが進み出る。
「オレはファーン・ストミー・ストーン・ユンダだ」
次にリラさん。優雅にお辞儀をする。
「私はリラ・バーグです」
白竜が頷く。ミルも前に出て2人に並ぶ。
「あたしはミル・アブローシア・レル・カムフィー!」
ミルの自己紹介の後に、白竜はランダの方を向く。
「・・・・・・いや。俺は仲間では無い」
男が首を振る。
『そうでしょうか?あなたの振る舞いは、仲間のように見えましたよ?』
白竜の言葉に、ファーンが男の所に走り寄り、その背を叩く。
「そうだぜ、ランダ。経緯はともかく、オレはあんたを仲間と思ってる」
ファーンの言葉にリラさんもミルも頷く。俺は経緯は知らないが、助けられたのは確かだ。男がこっちを見るので、俺も頷く。
「ランダ・スフェイエ・ス」
白竜が頷く。
『覚えましたよ、ファーン、リラ、ミル、ランダ。次に会う時を楽しみにしています』
俺たちが手を振り、きびすを返すと白竜が呼び止める。
『お待ちなさい。せっかくなので送って行ってあげましょう』
「え?!」
全員が驚く。
『竜騎士では無いので背には乗せられませんが、掴んで行きましょう』
そう言うと、白竜が俺たちを両手で掴みあげる。
白竜の大きな手は、フワフワの羽毛に、何と肉球もある。プニプニの手で、右手に俺とリラさんとミル、左手でファーンとランダを包み込むように優しく握る。
そして、大きな翼を広げるや、一つ羽ばたくとフワリと浮き上がる。
全長30メートルほどの巨体だというのに体重を感じさせないような飛翔を見せ、洞窟内を滑るように上昇してゆく。
「うわわわわわわっーーーーー!」
俺は思わず叫ぶ。リラさんが俺にしがみつく。ミルは楽しそうだ。
ファーンの方を見ると、あいつも叫んでいて、ランダにしがみついている。ランダは高さ自体は平気そうに見えるな。ただ、突然の展開に驚いているようだ。




