白竜の棲む山 創世竜と地獄と聖魔戦争と 2
『この文明は長く続きました。現在のエレスよりも文明は発展していました。
その頃は、エレスの大陸は1つではなく、4つの大陸がありました。無論、今唯一残っているこの大陸の地形も、現在とは少し違っていました。
ところが、この文明も、せっかく我らが閉じた地獄の蓋を、魔神と人間が開けてしまい、滅びたのです。地獄からの干渉を受けた魔神と人間が裏切ったのです。その裏切りによって、今度の聖魔戦争の被害は甚大に過ぎました。
3つの大陸は海に没し、エレスにはこの大陸のみが残る事となりました』
衝撃的な話しだ。そもそも、エレスに他の大陸があったとは思いも寄らなかった。
『地上に住む者は、絶滅に近しい状況にまで陥り、残った人類による文明再建までかなりの時間を要する事となりました。人々も石器時代にまで文明レベルが後退してしまっていたのです』
「聖魔戦争は2回あったと言うことか?」
『その言い方は正確ではありません。聖魔戦争は200年前のを入れると3回です。200年前の聖魔戦争は竜騎士アルによって未然に破滅的結末を避けられただけに過ぎません』
そうだった。
だが、世界崩壊が過去に2回あった訳だ。その理由も聖魔戦争。つまり地獄勢力との戦争だ。
『地獄の階層は全部で第七階層あります。
地獄は階層が深くなればなるほど、そこに住む魔物は強大になって行きます。
最初の聖魔戦争では第5階層、そして大に文明を滅ぼした聖魔戦争では、第六階層の魔物が、一瞬だけ地上に出現しました。その一瞬で文明が滅びたのです。
我ら創世竜が太刀打ちできるのは第五階層の魔物まででした。
そして、第六階層、第七階層には「魔王」と呼ばれる、その階層においてとても強い力を持つ者たちがいるのです』
創世竜が地獄について語る。
その驚異はもはや明確である。
『もしも魔王がこの世界に出現したら、エレスは一瞬で破壊され尽くす事でしょう。さらに恐るべき琴葉、地獄にはそうした魔王達が、地獄には何十万、何百万といるのです』
衝撃を受けるが、もはや想像の埒外だ。あまりにスケールが大きすぎる。
『次の聖魔戦争は、恐らくそんな深部の魔物どもを地上に出現させてしまうでしょう。それを止める為には竜騎士が必要になるのです』
白竜の語りに俺は息を呑む。闘神王も同じ事を言っていた。次の聖魔戦争は「聖魔大戦」となる、と。
そして、当然の疑問を口にする。
「なぜ竜騎士が必要なんだ?竜騎士がいなくても、あなたたちが戦いに参加してくれればいいんじゃないか?その深部の魔王とやらが出てくる前に。・・・・・・これまでの聖魔戦争でもそうだったんだろ?」
そう言うと、白竜は目をすがめる。困った顔をしているのだろうか?
『私はそれでも良いと思っているのですが、他の竜たちは地上を、この世界そのものを愛してはいない。執着はあっても、いざとなれば違う次元に移り棲めば良い程度にしか思っていないようです』
「違う『次元』?」
聞き慣れない言葉だ。
『ふむ・・・・・・。「次元」について説明せねばならないですね』
白竜は、少し面倒くさそうに呟く。
『我々創世竜の棲む領域は、そもそもがこのエレスとは違う世界に存在しているのです。
お前たち地上人が住む世界「エレス」、そしてこのエレスの周囲に果てしなく広がる星々の世界を「宇宙」と言います。
その宇宙全体を一つの「泡」としましょう。
この世には、そんな「泡」が無数に存在しています。おびただしい数の並行世界です。
この世の世界の構造は、いくつもの階層に別れ、高くそびえています。
世界の「泡」は、それぞれ決まった階層に存在していて、高い階層にある世界から低い階層にある世界には干渉できますが、低い階層から高い階層には、決して干渉できません。見上げても決して見えず、手も届きません。
そんな性質の階層構造の事を「次元」と呼び、これが「次元」の基本的な概念です。理解できましたか?』
話の内容は分かった。理解は出来たが、受け入れるのに時間が掛かりそうだ。
白竜が話しを続けた。
『我々創世竜が本来住むのは、エレスのある階層よりも高い階層にあるのです。
つまり、エレスのあるこの世界の住人は、決して我等の本来の世界には干渉できません。
ならなぜ、お前達がこうして私と話しているのかと問われれば、「高次元」の存在たる我らがが、「低次元」のエレスの世界に合わせた低次元体となって顕現しているのです。領域にしても同じ事です。自分の世界の影を落として、そこに自分の望む世界を創造しているのです。
我々は、いつでもこの結びつきを解いて、高次元に戻る事が出来ます。
そうなると、この低階層の次元の存在は、決して我々に干渉できなくなります。
この世の仕組みとしては、低次元より、高次元の世界の方が、この世界の感覚で言わせてもらえば「広い」のです。
そして、地獄の魔物は、どれほど強大であっても、所詮は低次元の存在です。我々が元の次元に戻れば、決して干渉する事は出来ないのです。
例えこの宇宙全てが滅んでも、我々創世竜の高次元世界は一切の影響が受けませんので、危険を冒してまでエレスを守るために戦おうなどと言う創世竜は半数にも満たないでしょう』
何だか分からないが、創世竜が特別な存在である事はわかった。
「その『自分たちの世界』って事は、神々の『天界』、魔神達の『魔界』、精霊達が住む『エルフの大森林』もそうなのか?」
俺は尋ねてみた。
天界と魔界は、特別な扉で行き来出来る異世界だ。
『彼らは我等の高みまで達していません。我らから見れば、神も魔神も、ハイエルフも、一括りで「地上人」です。その為、彼らの世界も等しく地獄の侵攻を受ける、この階層に属した泡の一つです。当然地獄の侵攻を受けます』




