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エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第三巻 白竜の棲む山
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白竜の棲む山  二つの戦い 2

 リラたちは巨大カエルとの戦闘を辛うじて切り抜けて、ようやく白竜山の最深部に到着していた。

「おお。何だか道が広くなってきたような」

 ファーンが小声で呟く。最深部にもなると、出てくる野獣ももう、手に負えなくなる。絶対に遭遇しないように、細心の注意を払っていた。

 リラの魔法のおかげで、リラとファーンも完全な闇状態ではなく物が見えているが、念のためにファーンはミルに手を引かれ、リラはランダにエスコートされて真っ暗闇の中を密かに進んで来ていた。


「明るくなってきたね。中心が近いのかも」

 ミルも囁く。

「カシム君、いませんね」

 リラがランダに囁きかける。

「さすがにまだ白竜とってはいないと思うが・・・・・・」

 ランダは難しそうな顔をしているのを、リラは意外そうに見つめた。

『あれ?この人、もしかして焦ってる?』

 自分たちが焦るならともかく、このエルフの男性が焦るとは意外だった。依頼の為に行動しているだけと思っていたが、案外カシムの事を気にかけていたのだろうかとリラが首をかしげる。



 周囲が明るくなってきたので、4人は手を離して歩く事にする。


「おい。川が流れてるぜ」

 ファーンが道に沿って流れる川を見て囁く。

「気を付けて!何かの気配がビンビンする!」

 ミルの警告に、全員が水辺から離れる。

 そのとたん、水を押しのけて、巨大な黒っぽい生き物が出現する。

 全身がヌルヌルした粘液に覆われた、のっぺりとした筒型の生き物である。頭からしっぽまで同じくらいの太さで、短い手足が生えている。全長5メートルほどだが、胴体が太いので小山のようにも見える。顔のサイズに比しても大きな裂けた口から、だらしなくのっぺりとした舌を垂らしている。


「エッダ・サラマンダー!?」

 リラが叫ぶ。

 エッダ・サラマンダーは炎の上位精霊のサラマンダーとは無関係で、見た目は巨大なサンショウウオである。かといって、サンショウウオでも無く、竜亜種レッサードラゴンの一種である。


 翼も無く炎も吐かないが、腐っても竜種である。力と耐久力が強い。

 そして、体を覆う粘液で、斬撃、刺突武器のたぐいは効果が弱まる。また、炎や氷属性の魔法耐性も持っている。

 厄介なのは回復力が高く、傷付いてもしばらくすると治ってしまうそうだ。

 更に、炎の代わりにしびれる息を吐くという。


「ああああ。だからさ、オレ、ヌルヌル系は苦手だって言ったよなぁ~~~」

 ファーンが青ざめつつも2本のダガーを抜く。だが、ファーンはさっきのカエルとの戦闘でも、カエルの注意を引き付け続けるという役目を自らに課し、それによりパーティーを勝利に導いたのだ。実際には戦っておらず、逃げ続けるのがファーンの役目だった。


「気を付けて、ファーン。こいつの攻撃はさっきのカエルの比じゃ無いと思うわよ」

 ファーンはゴクリとつばを飲み込みつつ、無言で頷く。軽口を叩く余裕はもう無い様だ。


 先手必勝とばかりにミルがエッダ・サラマンダーに突っ込んでいく。右に左に激しく動いて翻弄する動きを見せ、一気にエッダ・サラマンダーの背後に回ると2本の短刀で連続して切りつける。エッダ・サラマンダーの動きは遅い。

「!!??」

 ミルが自らの武器を見て絶句する。その瞬間、ミルは背中を、ひれのついた太く短い尾で叩かれる。

「あぐぅ!?」

 ミルは吹き飛ばされて地面を転がる。


「「ミル!!」」

 ファーンが駈け寄り、リラは魔法の詠唱を始める。

 ランダの腕が一瞬ぴくりと動くが、ゆっくりと腕を組んだ。ここでも傍観ぼうかんに徹するつもりらしい。

「大丈夫か!?」

「うん。何とか・・・・・・。でも・・・・・・」

 ミルが刀を見せる。刀にはべっとりエッダ・サラマンダーの粘液がこびりついていた。

「最初の一太刀以外は刃が通らなかったよ」

 ミルは悔しそうに刀の粘液をズボンでぬぐう。

「じゃあ、次は一緒に行こうぜ!!」

「うん」


 2人は頷き合って左右に分かれてエッダ・サラマンダーに迫る。

「たあああああああ!」

「ひいいいいいいい!」

 2人がエッダ・サラマンダーに切りつける直前に魔法の斬撃が飛ぶ。

 リラの魔法だ。

 魔法の刃がエッダ・サラマンダーの額を切り裂き、のけぞらせた隙にファーンが2本のダガーをエッダ・サラマンダーの胴に突き刺し、ミルが短くて太い腕に一撃ずつ切り傷を付ける。

 ミルの刃はやはり小さな傷を付けるのみで、すぐに切れなくなる。

 一方でファーンのダガーは、エッダ・サラマンダーの分厚い脂肪に突き刺さり抜けなくなる。


「嘘だろ!?抜けない!!」

 エッダ・サラマンダーがのっそりとファーンを巻き込んで地面を転がった。

「ぐああっ!!」

 巨体に押しつぶされたファーンは、ダガーを手放し、地面に倒れたままだ。

 ミルが助け起こそうと駈け寄った瞬間、エッダ・サラマンダーが身震いすると、それまでのっそりと鈍足だったのが信じられない勢いで跳躍し、矢のように2人に体当たりする。


「「!!!!!」」

 当たる瞬間にファーンがミルを庇ったようで、ミルは横に弾かれて、ファーンは直撃をくらい、エッダ・サラマンダー共々岩壁にめり込む。

 ブヨブヨしているエッダ・サラマンダーには、壁への激突によるダメージは無いが、ファーンは虫の息だ。壁から剥がれ落ちるとピクリとも動かなくなる。

 すかさずリラが回復魔法をファーンに飛ばすが、エッダ・サラマンダーがファーンに向かって口を開ける。

 そのエッダ・サラマンダーの頭頂部に跳躍したミルが2本の刀を突き立てる。脳を攻撃するつもりだったが、刀は頭蓋骨にすら届かない。


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