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エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第三巻 白竜の棲む山
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白竜の棲む山  竜 3

 ケイブベアが、その2本の太い前足を左右から挟み込むように振って突進して来る。

 俺は大きく跳び退しさって避ける。だが、岩の出っ張りにぶつかりそうになる。足元も悪いので、あまり避けてばかりはいられない。

 戦う空間を選んではいられない。剣を振るのにもデコボコの地面や天井、壁を気にしなければ致命的なミスをしてしまう事になる。

 となれば超接近戦で、最小限の動きで倒すしか無い。


 ケイブベアは、見た目以上に動きが素早いし、発達した前足での攻撃力はとんでもない破壊力がある。

 とは言え、「悪魔の鎧」程では無い。

 ケイブベアが威嚇いかくの為に前足を地面に降ろして吠える瞬間に、一気に間合いを詰める。突然の接近に驚くケイブベアの脇腹を剣で切りつける。

 浅い。それでも手傷を負わせる事が出来た。

 すぐに前足の反撃が来るが、驚いて振り上げただけの攻撃だ。当たるはずが無い。その太い前足にも切りつける。

 ケイブベアは怒って立ち上がる。俺と同じくらいの頭の高さだ。


 ケイブベアが下からすくい上げるように右前足を振るう。

 俺は後ろに下がらずに、ケイブベアの左脇に密着するようにしてかわす。攻撃をいなした後、身を屈めて足を切りつける。

 すると、ケイブベアは上からののし掛かりをしようとする。つぶされたら身動きが出来なくなってしまうが、ケイブベアの動きには隙が多い。俺はのし掛かられる前にケイブベアの左前足の付け根に剣を当てて滑らせるように切り裂きながら、ケイブベアの左脇に抜け出る。


「ゴアアアアアアアアアアアアア!!」

 ケイブベアの咆哮。ケイブベアの左前足が切断される。

 もがくケイブベアの左側面に立ち、俺は全力で剣を一閃する。完全切断とは行かないが、ケイブベアの首がほとんど切断され、ケイブベアが絶命する。


 地響きを上げて倒れるケイブベアを見て俺は呟く。

「ごめんな・・・・・・」

 ケガをさせて引いてもらう手もあったが、確実では無い。引いてくれなければ、手傷を負った事で逆に凶暴になる事もある。

 そうなると、また不測の事態にならない為にも、ここでケイブベアを仕留めておく必要があった。

 それでも俺の方が侵入者なのは確かで、この山の生態系にとっては異物なのだ。

 このケイブベアの死体も、きっと他の生物の糧となり土となって、この山に帰っていく事だろう。でも、それでも不必要に命を散らしてしまったという気持ちはぬぐえない。


 そんな事を考える俺は、騎士にも、戦士にも、冒険者にも向いていないのだろうと思う。覚悟が足りないのかも知れない。

 でも、生き物を殺す事に何も感じなくなる様な覚悟なんているのだろうか?俺が軟弱なだけなのかも知れないが、割り切る事は、少なくとも今は難しい。

 


 俺はケイブベアの亡骸を後にして、下っていく道を進んだ。

 すると、足元に穴が開いているのを発見する。

 穴の側に行き、手をかざしてみると、暖かい空気が流れてくる。

 深部に続く穴だ。

 深さは把握できないが、穴の先が明るいようだ。

「行くしかないかな」

 俺はウエストバッグからロープ付きフックを取り出して手近な岩の隙間に引っかけると、ロープを穴に垂らして降り始める。

 穴は数メートルで抜け、大空間に出た。



 その空間は、白竜山の中心である火口状の縦穴が近いようで、中心側の岩壁に何カ所も穴が開いていて、そこから光が幾筋も洞窟内に入り込み、結構明るい。よく見ると壁面に大きなクリスタルがあり、それに光りが当たって乱反射しているようだ。

 そのおかげで景色がよく見える。



 地面から天井までは40メートルはあるだろう。

 壁面に開いた大きな穴から見るに、幾つもの通路があるようだ。

 多分だが、どこかの道が、あるいは幾つもの道がこの山の中央の白竜の棲み家に続いているのだろう。


 真下の通路は、20メートルくらいの道幅だ。その壁面は泡立つようにブツブツと小さな穴が沢山空いている。まるで高熱で溶かされたようだった。

 その壁面を見て俺はゾッとする。この通路は、白竜の炎が溶かして出来た空間なのだ。

 今、ここには白竜の姿はないが、いよいよ近付いている事を実感する。


 ロープを降りて行くが、後10メートルを残してロープの長さが足りなくなる。だが心配いらない。フック付きロープと別に、ロープ自体も数メートル分だが持っている。俺は常にロープもバッグに入れている。掴まっているロープを足と肩に巻き付けると、ロープを取り出して端をしっかり結ぶ。そしてまたスルスルと降りていく。

 地面にはあと5メートルほどだが、この位なら問題ない。

 ロープから手を離して飛び降り、地面に着地する。



 それから、中心と思われる方向に向かって歩き出す。

 広い通路の端には地下の川が流れていた。

 この川は、地下水脈にこのまま流れ込んで、100年以上の年月の後には、麓で湧き出したりするのだろう。透明で澄んだ水のようだ。だが、いかんせん暗いので底までは見えない。


 周囲には生き物の姿は見えない。せいぜい天井付近をコウモリが飛んでいるくらいだ。

 いや、コウモリも司書が忠告していたなぁ。あれはそのコウモリなのだろうか?

 天井付近のコウモリに注目していて、俺は気付くのが致命的に遅れてしまった。

 突如として、横を流れる川の中から長い首を伸ばしてきて、俺を正面から見つめるその生き物に気付くのが遅れた。

「あっ!?」


 巨大な顔に、大きく裂けた口にはずらりと鋭い牙が並び、顔の横にひれ。頭にもとさか状のひれが有り、黄色く濁った目は瞳孔が縦に切れている。

 そして全身が緑色の鱗に覆われていて、頭には2本の角が生えた怪物。

 最強の魔獣である「竜」がそこにいた。



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