白竜の棲む山 白竜祭 4
「ところでな、カシム」
「なんだ?」
「・・・・・・あのよ。さっきみたいなのやめてくれよな」
ちょっとしどろもどろにファーンが言う。なんだっけ?
「さっきみたいなのって?」
「ほら、オレをあんまり誉めんなよ」
そう言われて思い出す。ああ。ファーンを乗せる為に褒めちぎった事か。コイツはやたらと照れていたな。
「何でだよ。いいじゃないか」
「いや。悪くは無いけど・・・・・・。そういうのはリラやミルに言ってやれよな」
ええ?「お前が必要だ!大切だ!」って?!リラさんに?
「言えるか!!」
俺の女性への免疫の無さを知らないな!俺はお前みたいに誰とでも平気で話したり出来ないんだよ!!と、怒鳴ってやりたかったが悲しくなるだけなのでやめた。
「だから、カシムはダメダメなんだよな~~~」
なんだよ・・・・・・。俺はふてくされて黙る。
「お前は顔は良いんだから、ちゃんと誉めるべき人を誉めてやれよな」
顔「は」ってなんだよ。他はダメみたいじゃないか。
「誉めるさ。リーダーだからな」
「そうじゃないだろ。男として女を誉めてやれって言ってんの。・・・・・・でも、あれか?パーティー内恋愛禁止派なの?お前って」
「ブッッ!!??」
俺は思わずむせて吹き出してしまった。
「おまあ~、なにいってんだぁ~」
まともにしゃべれない。恋愛とかって何?そんなん出来るか!?いや出来るのか?この俺に?
・・・・・・まさか。
「ミ・・・・・・ミルの事か?」
恐る恐る言ってみた。あいつは俺と結婚する気満々でいる。だが、あいつは子どもだ。13歳という年齢以上に幼く見える。
「いやあ~。どうかなぁ~。でも女を子ども扱いしたら、後で泣く事になるから覚えとけよ」
うわっ!すっげぇドキッとくる言葉だ。胸に刺さる。怖い怖い。
肝に銘じとく事にしよう。それが生かせる気はしないが。
ファーンはその後も1時間近く風呂を楽しんでいた。
夜になった。
全員が防寒具を並べて、慣れない防寒具の着方をチェックする。インナーとかマフラーとかも。
ミルは少し厚めのマントだけで大丈夫と言う事だ。ハイエルフは暑さ、寒さにも強いらしい。感じるのだけど、それで辛くなる事は無いらしくて、出来るだけ身軽にしておきたいそうだ。ハイエルフってすごいなぁ。
そして、今夜は祭りだ。俺たちは広場に繰り出した。
祭りなので、装備は置いて身軽な恰好になっている。とは言え、リラさんとミルはいつもの恰好と大差ない。
広場には篝火が焚かれていて、明るい。舞台の横のテーブルには食事が山盛りになっていて、誰でも好きにとって食べて良いそうだ。俺たちも遠慮せずに食事をごちそうになる。
その代わりに俺たちは村人に冒険の話しをしたり、魔法を見せたりする。
俺は「無明」の技を使っての目隠し投げナイフを見せて村人たちを喜ばせる事に成功した。投擲ばかりが得意な「戦士」ってどうなのかとも思うが・・・・・・。
だが、なんと言っても、一番村人が喜んだのはリラさんの歌だった。村人みんなに請われて舞台に上がったリラさんは、精霊そのもののような神々しさで、しっとりと歌を歌い上げる。
更に、俺が昼間おばちゃんに聞いたカルピエッタの話しも知っていたようで、しっかりと物語を歌い上げたもんだから、村人はみんな大喜びしていた。おかげで、俺たちへの待遇もとても良かった。
ミルは、村の子どもたちと同じ踊りの衣装を着せてもらって、みんなに交じって踊りを楽しんでいた。白に青の模様が入った可愛らしい服だ。リボンが沢山付いた長いスカートが普段のミルとギャップがあって、ミルがおしとやかな女の子に見える。
実際、この衣装を見せに来た時のミルは、恥ずかしそうにかしこまっていてとても可愛かった。
広場の白竜像も頭と翼が取り付けられていて、それっぽく見える。
ファーンは子どもたちに人気で、もみくちゃにされていた。
俺たちはその夜を楽しんだ。
そして、翌日。5月1日は朝から太鼓の音が村に鳴り響き、村の若い衆が大きな車輪の付いた荷車に、ワラで出来た白竜像を乗せ、山車にして村中を引いて回る。
村を隅々まで3周するらしく、中々大変そうだが、みんな生き生きと、汗びっしょりになりながら引いている。途中途中休憩をして、その間に願い事を書いた木札を村人たちが刺しに来る。
俺たちも木札をもらったので、それぞれに願い事を書く。ファーンは当然「マスターになる」だし、リラさんは「唄を見つけたい」。ミルは「忍者マスターになりたい」と「カシムお兄ちゃんと結婚する」の2つだ。
みんなそれぞれ冒険者としての願いを書いている。だが、俺は迷う。何と書いたら良いのだろうか?
ファーンにも言われたが、俺は俺の冒険者としてやりたい事を見つけなければいけない。いや、見つけたいのだ。
でも、俺には本当に未来は有るのだろうか?
有ったとして、この先、何の為に冒険するのか?
俺の願いは何なのか?
ファーンに言われた時から、実はずっと考えている。俺の願い。叶えたい強い願い。
それは竜騎士になることか?アクシスの願いを叶える事か?祖父のような立派な騎士になる事か?
俺が真面目に悩んでいると、ファーンがやってきた。
「何だよ!まだ決まんないのかよ!オレが代わりに書いてやる!」
ファーンがオレから木札を奪っていった。
「おい!」
オレが追いかけて行って奪い返したが、遅かった。
『大きいおっぱいが好きです。カシム』
「ふざけんなーーーーー!!!」
怒鳴った俺から、ミルが盗賊らしくすごい速さで木札を奪っていき、リラさんに告げ口する。
固まる俺の方をリラさんが見てにっこり微笑んで、無言で木札を山車ぶっ刺した。
終わった・・・・・・。