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エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第三巻 白竜の棲む山
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白竜の棲む山  白竜祭 1

 雨はすっかり上がっていた。

 雲が晴れると、意外と近くに白竜山が見えた。平野の中にぽつんとそそり立つ白い山だ。

 見事な三角錐をしている。

 標高1400メートル程だと言うが、そもそもこの辺りが海抜950メートル程なので、山の高さとしては550メートルといったところだ。

 朝日にキラキラと輝いて見えるあの山に、創世竜の白竜が棲んでいるのだ。俺たちが向かうべき山だ。

 

 俺たちが白竜山を眺めながら歩いていると、道の先に看板が立っていた。

 近付いて見てみると「ここより白竜領」とある。

 つまり、この先は白竜の棲息エリアとなる。エルフの大森林のような、別の世界という事になる。

 だが、見た感じは何の変化もなく、これまでと同じ景色が続いている。

「何にも変わんないね」

 ミルがつぶやいて、看板の先に進む。


「あっ!ひゃぁん!」

 何か可愛い声を出して身もだえた。

「どうした!おう?!」

 ミルを心配して俺も足を踏み出したとたん、俺の背筋が一瞬ゾクゾクした。

「うひょお!気持ちわる!」

 ファーンもブルブルッとする。


 なるほど。領域を越える時に「必ず分かる」って言われたのはこの事なのか。確かにはっきり違和感を感じた。違う世界に侵入したって事だ。

 そして、看板の向こう側にいるリラさんに全員の視線が集中する。その視線を受けてリラさんが真っ赤になる。

「もう!何ですか、みんなして!」

 俺たちがニヤニヤする。

「気にすんなよ、リラ。早く来いよぉ」

 ファーンがうさんくさい感じに言う。リラさんはどんな反応をするかな?


 みんなの期待を受けて、リラさんが唇を噛みしめる。絶対に何の反応も示してやるもんかと覚悟を決めた様子だ。そして、足を踏み出す。

「はっ?!う~~んっっ!?」

 背中をくねらせる。色っぽい。そして、変な声を出してしまった事で真っ赤になるリラさん。可愛いなぁ。

「ウヒ!リラ、いろっペ~!!」

 ファーンが喜んで手を叩く。俺もミルもクスクス笑う。

「・・・・・・」

 リラさんは無言で歩き出す。

「おこんなよ、リラ!お前の反応が一番良かったってば!カシムなんかダメダメだったんだから!」

 ファーンが笑いながらリラさんに続く。

「お兄ちゃんはダメダメだったね~!」

 ミルも笑う。俺も笑う。そして、リラさんも吹き出す。

 俺たちはみんな笑いながら白竜の棲息エリアに侵入していった。




 結局、休める場所を見いだせないまま惰性で歩き続けて、午後に俺達は白竜のエリア内に唯一ある人の住む村「カルピエッタ」に到着した。

4月33日、13時だ。


 ミルとリラさんの服はもう乾いているが、俺とファーンはまだ湿っていて、蒸れている。流石に血や泥は洗い流されていて、匂いもそれほど気にならなくなったが、湿っているのが不快だ。ミルとリラさんは、精霊が乾かしたりきれいにしてくれているそうだ。ずるいなぁ。精霊って便利だなぁ。


 ちなみにミルは精霊魔法を使えない、または使わないようだ。「忍者」だからと本人は言うが、実際の所は謎だ。それでも精霊は普通に見えるし、加護は受けているようだ。そもそも俺達にとって精霊や精霊魔法なんて物は謎だらけだ。


 カルピエッタの村には柵が無い。普通は野盗や魔獣などの侵入を防ぐ為に、村や町には柵は必須なはずだ。

 特に恐ろしいのが、ゴブリンなどのモンスターだ。

 しかし、この村には柵が無いし、警備に当たる自警団もいない。それでも平気なのは、この村が白竜によって守られているからなのだそうだ。そもそも白竜のエリア内にはモンスターはいないのだ。


 実際には柵はあるが、それは村の範囲を示す為だけの低い柵がまばらに設置されているだけなので、何かの侵入を防ぐ役にはまるで立たない。


 家は木造。壁は白く塗られている。屋根は瓦で青。統一されていてきれいだ。

 村の中央に広場が有り、そこで祭りの準備がされていて、大変賑わいがある。

 皆忙しそうに準備しているが、穏やかな笑顔で嬉しそうだ。平和でのどかな村の景色に、疲れた身だが笑顔になる。


 広場では、ワラを束ねて大きな像を作っているようだ。

 テーブルやイス、舞台も設置されている。屋台が建ち並び、食べ物や飲み物、服や装飾品の店が出されている。祭りに合わせて町から商隊が来ているようだ。


 

 俺たちはまず宿を求める。

 有り難い事に、この村にはいくつか宿屋があった。白竜山があるので、冒険者が絶えない為、宿屋は大きく、繁盛しているようだ。

 俺たちの泊まる宿も大きい。大部屋を頼み、1階にあるその大部屋に入ると、部屋の中を物色するように見ていたファーンが興奮したように叫ぶ。


「おいおいおいおい!リラ!風呂だ!風呂がある!!」

「ええ?!本当?!」

 リラさんも興奮してファーンと一緒に風呂を見に行く。

「わああ!」

 2人で大喜びしている。上下水道ほぼ完備のグラーダとは違って、他国にはまだそういった設備が無い国も多い。

 グラーダは公衆衛生に対して、世界で最も進んだ国だから、風呂やシャワーは当たり前となっているが、他国ではそうもいかない。

 俺たちもこれまでの旅では、川での沐浴や、宿でもんだ水で体を拭く程度だったりした。温かい湯につかるのは久しぶりだ。


「なあ、早く飯食いに行って風呂にしようぜ!!」

 ファーンが喜ぶのもよく分かる。

「じゃあ、食堂に行って飯にしようか」

「水道は無いみたいだから、オレ水汲んでくるよ。飯、適当に注文しておいてくれ!」

 やたらと張り切ってるなぁ。

「じゃあ、俺も手伝ってくるから、リラさんたちで頼んでおいてください」

「おお、サンキュ、サンキュ!!」


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