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エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第二十巻 英雄たちの唄
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英雄たちの唄  アインザーク事変 4

「ようし!状況は読めた!」

 ギルドの司書面会室で、幾つもの地図をテーブル一杯に広げたクララーは、机を叩いて言う。

「僕たちはアメルからエスタ・ダクシェー砦の中間にある、処刑海岸沿いのリア街道でグラーダ三世を迎え撃つ」

 クララーは地図の一点を指さす。

「迎え撃つったって、軍隊相手じゃ、オレ様達でも勝てねぇぜ?」

 マイネーが首を傾げる。

「そもそも、闘神王相手に勝てるとも思えねぇ」

 マイネーの言葉に、クララーが頷く。

「それはやり様だよ。それより、ジーン様が解決してくれるのは良いけど・・・・・・」

「解決してくれる事が前提の作戦って、どうなのよ?」

 アインが暗い表情で言う。出来れば逃げたいと思っているのだろう。

「時間はまだ掛かると思う。だから、マース!」

 話しは全く聞いていなかったが、いきなり呼ばれてパインは驚いた。


「な、なに?」

 クララーは、パインに地図を見せながら言う。

「アインザーク軍は、この道を通る。だから、ここで足止めを頼めるかい?」

 指さしたのは、アインザーク北東のエミーリア湖のほとりである。

「足止めって?」

 パインが尋ねると、クララーはニヤリと笑ってパインに耳打ちする。

「・・・・・・出来る」

 パインは少し不安そうにしながら頷く。

「結構遠いけど、どの位で辿り着ける?」

 馬を飛ばしても、現在地からでは一ヶ月はかかるはずだ。

「明日には着く」

 パインは額の瞳を輝かせると、平然と答えた。現在はすでに夕刻である。

「じゃあ、頼んだよ」

「わかった」

 そう言うと、他のメンバーがポカンとしている間に、パインは外に出て行った。

「ちょっと、待てマース!!おいクララー!マース1人で行かせるな!!」

 マイネーが怒鳴る。

「あの子に無茶させないで、クララー!」

 ピフィネシアも叫ぶ。

「大丈夫だよぉ。マースなら出来るから。それに、闘神王と戦うよりはマシでしょ?」

 クララーは意味深な笑みを浮かべる。

 

「ダメだ。飛んで行った」

 パインを止めるべく後を追ったシャナが首を振って戻ってきた。

 シャナも、魔神王の鎧(ルシファーメイル)を身につければ飛べるが、飛行速度は速くない。だが、パインは、恐るべき速度で飛んで行ったそうだ。だが、それほどの飛行能力を持っている事など、クララー以外は知りもしなかった。

「さて、僕らはグラーダ闘神王がやってくるまで、街道沿いでのんびり待とう」

 そう言うと、広げた地図をそのままに、クララーは面談室を後にした。



◇      ◇



 剣聖ジーンは、アインザーク王都ガイウスに来ていた。黒い鎧姿で、無地のマントを身に付けている。

 人々から聞き取った噂から、アポロン神殿が怪しいと乗り込んだのだ。


 他の神殿よりも立派な神殿は、天井まで15メートルもある大きな建築物だった。

 礼拝堂の天井に、ジーンは黒いシミのようなものを見つけた。ジーンで無ければ気付かないくらい微かなものである。

「見つけたぞ」

 ジーンは剣を抜く。

「な、何ですか、あなたは?!ここは神殿ですよ!」

 咎める神官達の声を、ジーンは無視して壁を駆け上がり、天井のシミ目がけて、剣を突き立てる。

 そのとたん、天井全体が揺らぎ、炎の髪をした男が出現した。


「アポロン様!!」

「アポロン神!!」

 神官達が歓喜の声を上げ、ついで、剣を抜く不埒な侵入者を咎める声になる。

「神を怖れぬ不埒者を懲らしめてください!!」

「神罰を!!」

 

 だが、アポロン神は「ジャアアアアアーーーッッ!!」と奇妙なうなり声を上げた。

「愚かな。これがアポロン神などであるわけが無い」

 ジーンは、どうやってか天井に左手でへばりついて、安定している。


『我を畏れよ。我を敬え』


 遅れて声が神殿内部に響き渡る。

「笑止。声の位置が違う」

 そう言うと、ジーンは再び天井を走り、アポロン神とは違う場所を斬り付ける。

 するとそこから黒い靄が出現し、空気の中に霧散していった。


「声の主は地獄の使い魔だ。そして、そこにいるのは地獄の魔物。炎のような髪をしているが、ただの擬態だ」

 ジーンは神官達に告げる。

 それを証明するかのように、アポロン神は着せられていた服を破り捨てる。

 胴体の部分から、半円形の鉤爪が付いた、昆虫のような腕が左右4本ずつ飛び出した。

 全身が炎のような見た目をしている。そして、アポロンに似た頭の部分がしぼむ。代わりに、腹に一つの大きな目と、裂けた口が出現した。

「ジャアアアアアアアアッッ!!」

 もはやアポロンの面影など微塵も無い。


「よいか、神官達よ!お主等は地獄の魔物に騙されておったのだ!お主等が地獄教徒で無いならば、この事を広く伝え、己等の身の潔白を示せ!!」

 ジーンは叫ぶ。

「そ、そんな!?アポロン様ではなかったのか?!」

「奇跡の数々も、我等を騙すためだったのか?!」

 明らかに動揺する神官達の中に、何人かの神官が忌々しそうな顔をしてその場を去ろうとしたのを、ジーンは見逃さなかった。

 鎧に付けた投げナイフを投じて、不審な神官の足を貫く。

「奴等は地獄教徒の疑いがある!捕らえよ!!」

 神官達に命じる。だが、神官達は戸惑うばかりで動かない。


「ワシは、白銀の騎士ジーン・ペンダートンである!!我が武を以て、我を信じよ!!」

 そう言うや、ジーンは天井を走り、偽アポロン神の魔物に斬りかかった。


 魔物も抵抗を試みるが、ジーンの敵では無い。

 一瞬のうちに手足を切り裂かれ、床に落ちる。

 まだ生きている魔物に、神官達は恐れ、逃げ惑うが、そこへジーンが飛び降りてきて、剣の一突きで止めを刺した。



 それからジーンは、自らの身分を明かし、アインザーク国の評議員や兵士を動かし、地獄教徒や魔物への対処を命じた。

 王宮や評議会にまで、魔物の使い魔は出没しており、それらを一掃すると同時に、地獄教徒の洗い出しをさせなければならなかった。

 その過程で、アインザーク国王自身が、地獄の使い魔によって洗脳されている可能性が高い事がわかった。

 従軍している神官長が、地獄教徒の可能性も高い。


 全ての陰謀が、地獄勢力によって仕組まれたものだと、誰の目にも明らかとなった。



「思ったよりも時間が掛かってしまった。間に合わぬか?!」 ジーンは呻る。今からアインザーク国王軍を追っても、到底ドルトベイク国に至るまでには間に合わない。

 それでも、証人を連れて国王軍に向かわねばならない。

 証人は、神殿の神官と評議員のアルガー・フリック。そして、子どもの様な老人であるアウグスト・カーマン大臣。カーマン大臣は、アインザークにとって、なくてはならない要人である。

 同行者の年齢と体力では、トリ獣人による空路は厳しい。駿馬の馬車で駆けつけねばならない。

『旅団の連中に期待しよう』

 ジーンは口の中で呟いた。


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