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エレス冒険譚~竜騎士物語~  作者: 三木 カイタ
第二十巻 英雄たちの唄
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英雄たちの唄  アインザーク事変 2

「不可能です!!不可能ですって!!闘神王って、1人で数万人の兵士を、ゴミ屑みたいに切り伏せた化け物ですよ!?何言っちゃってるんですか?頭にウンコ詰まってるんですか?!」

 クララーの顔面は、蒼白を通り越して土気色になっている。

「お・こ・と・わりっ!!しますっっ!!!」

 そう言ったが、職員は表情を変えない。

「依頼主は、剣聖ジーン様です」


 クララーは頭を抱え込んだ。

「ジーン様かぁ~~~。ジーン様かぁ~~~」

 クララーは、密かにジーンに対して大きな借りがある。それも一つや二つでは無い。

 シャナを助けるために、魔界に潜り込んだときも、ジーンの手助けがあっての事だし、脱出の時にルシファーを止めたのも、ジーンに丸投げしたのだ。それはジーンにとっても命懸けだったはずである。それを無報酬で快諾してくれたのだ。


「足止めって、どれくらい?」

 クララーが尋ねる。

「わかりません。ただ、ジーン様はすでにアインザークに乗り込んで、事件の原因を探っております。ですので、歌う旅団の皆様には、グラーダ国軍がアインザーク国に進軍するのを止めて欲しいと依頼してきました。足止め時間は、グラーダ軍の進行速度と、ジーン様の解決速度によるでしょう」

 残酷な言葉を職員が言う。


「ジーン様の解決が早ければ、実際には何もせずともクエスト達成となり、報奨金もとんでもない額が貰えます」

 職員は最高の結果だけを話す。

 ジーンの解決が遅ければ、瞬殺必至の相手と、何日も戦わねばならなくなるのだ。


「・・・・・・一応、形だけは引き受けます。上手くいく保証は無いし、ヤバくなったら逃げます。それこそグラーダ条約の無い国にまで」

 この依頼は、国際お尋ね者になる可能性が高いのだ。

 それで行けば、ジーンはグラーダ国軍最高責任者である総長だったが、本来であれば、軍を率いて進軍すべきはジーンであってグラーダ国王では無い。軍務を放り出してジーンががアインザークに単独で事件捜査に来ていることが解せない。

「あれ?ジーン様、なんでアインザークに?」

 これはジーンも立場はマズくなる可能性がある。

 クララーの質問に、職員は答えず、表情も変化させない。


「アインザークは、ドルトベイクに進軍中ですが、これはアインザーク国王の独断らしく、数人の評議員や、将軍が説得して国境を越えないように足を遅らせるよう努めています。グラーダ国王本軍も、まだアインザークには進発しておらず、現在は各地の騎士団が、アインザークとの国境付近にあるエスタ・ダクシェー砦に集結中との事です」

 そう話したのは、おそらく所長だろう。

「事態は刻一刻と危険な状態に進んでいるため、グラーダ国王が本軍を率いてリル・グラーディアから出陣するのも時間の問題と思われます」


 エスタ・ダクシェー砦は、グラーダ国とアインザーク国の境界付近にある大規模な砦である。そこにはユース・アルトゥン将軍率いる灰狼騎士団が常駐している。


「アインザーク軍がドルトベイクの国境を越えたら、アインザークは滅びるか・・・・・・」

 呟きながら、クララーは考える。

『いや・・・・・・。闘神王は、アインザークを滅ぼしたくなど無いはずだ。何故なら、闘神王が愛した王妃アメリアは、アインザーク国出身だからだ』

 世界の覇王としては、個人的すぎる感傷だが、クララーはそう確信を持った。

「ならば、やり様はあるか・・・・・・」



◇     ◇



 シヴァルス山脈から枝分かれして西に延びるロドワーズ山脈を回り込む形で北東に進むとドルトベイク国に至る。

 アインザーク王都ガイウスから進軍すると、規模や練度にも寄るが、およそ15日で国境にたどり着く事になる。

 その途中にレーへ砦がある。その砦の前面に、一軍団が陣取っていた。

 それはアインザーク国の宿将カスパー・パンツァー上将軍だった。

 無骨な容姿のパンツァー将軍が、表情を変えずに見据えているのは、アインザーク国国王軍2万5千の兵達、そして、その兵達を指揮するアインザーク国王だった。


「何故我が軍に対して布陣しているのですか、パンツァー上将軍?!」

 問うたのは、国王軍を率いるエッケハルト・フォン・クラインシュミット上将軍である。こちらは、国王直属軍であるため、上級貴族出身の将軍である。身なりも上品に整えているが、武力にも、指揮能力にも貴族ならではの金の掛けようで、非常に優秀である。


「我はアインザークの軍である。アインザークを滅ぼすが如き過ちは見過ごす事が出来ぬ!!」

 パンツァー上将軍が答える。

「過ちと申すか?だが、我等は国王が率いる親征軍である。パンツァー上将軍は、反逆者の汚名を着たいと申すか?!」

 クラインシュミット上将軍は、静かに、説得する様に語る。

「叛逆では無い。国を憂いての事である。けいには我が意を陛下に伝え、ほんを促して貰いたい」


 パンツァー上将軍の背後に、騎乗した男が進み出た。

「私の言葉は届かなかった。エッケハルト殿。そなたの言葉ならば、或いは聞くかも知れぬ」

 痩せた容貌の男は、45歳になろうという王太子だった。

「・・・・・・この場に姿を現すとは、浅慮に過ぎますな」

 思わずクラインシュミット上将軍は呻る。

 

 この数年、国王と王太子は、度々意見が対立しており、第一王位継承権を持つ王太子だが、それを廃して、ひ孫のヘルガー王太曾孫(おうたいそうそん)に王位を譲ろうと言い出したのだ。そのヘルガー王太曾孫は、いまだ2歳の乳児である。

 

 クラインシュミット上将軍も、この数年の国王の変貌振りには戸惑いを隠せないでいる。

 偏執的になり、過激な意見を一方的に通そうとする。評議会の決定を無視する事も度々であり、年老いた国王の交代を誰もが望んでいた。


 王太子が反逆者と手を組んだと捉えられる・・・・・・いや、現実としてそうなってしまったのだ。

 

「一先ず承知した。私からも、もう一度陛下にお話しする。だから、殿下方も、くれぐれも軽挙妄動なされぬように」

 クラインシュミット上将軍も辛い立場である。本心で言えば、ドルトベイク侵攻など、何の利も無い事であり、アインザーク国を滅ぼしかねない暴挙なのだ。だが、立場としては、国王直属の軍団の将軍である。主命には逆らえない。

『国王陛下は、魔女に唆されている・・・・・・』



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