外伝 黎明の旅人 遙かな宇宙の旅 4
たちまち、移民船内部はいくつもの派閥によって分断される。
一つ。
このまま「TOI700d」の惑星改造に着手しつつ、近辺の宙域を探査し、より移住に適した星を探す派閥。
一つ。
他国の向かった移民先の惑星に進路を変更して旅を進める派閥。
一つ。
地球に戻る派閥。
一つ。
新たな移民先を選定して、そちらに向かう派閥。
一つ。
いっその事、集団自決をする派閥。
分裂は内部抗争になり、武力での衝突を産むまでになった。
多くの人々が命を落とす中、集団自決をする派閥が強行的な手段に出た。
移民船「武蔵」と「伊勢」に毒ガスを散布して、両移民船内にいた220万人の内、50万人を巻き添えにして自決したのだ。
これによって、武力による衝突は一時収まった。狂気が冷静さを取り戻すきっかけになったのである。
そして、直ちに次の移民先を見つけるべく、広大な宇宙の探索を開始する。
当時の技術の粋を結集して深宇宙探査望遠鏡が開発され、更に「TOI700d」に至るまでに放出してきた探査船からのデータをかき集めて5年を掛けて研究した結果、ついに理想的な惑星を見つける。
それは「TOI700d」から1万4千万光年先の惑星だった。
この惑星を、仮称として「旭」と名付けた。
しかし、この距離である。
せっかく収まった抗争が再び始まった。
遠すぎるのである。たどり着くまでにどれだけ時間が掛かるか分からない。3代、4代では済まないのは間違いない。
現時点で、もはや地球を知る者などとっくに宇宙葬されている。
結論から言えば、船団は二つに分裂した。
主流派は、他国が向かった移民先に向かう道を選んだ。
ただし、その行く先に希望が薄いことは、今回の大捜索によって判明している。
どの星も、新しい技術で分析したところによれば、人が住むにはかなり手を加える必要があり、人の手に余る点がいくつも判明していた。
恐らくは、日本移民団が到着する頃にはとっくにたどり着いている他国の移民団達が、何らかの手段を講じているのではないだろうかと、淡い期待を抱いての旅となった。
一方で、新移民先の惑星「旭」に向かう移民団は少数派である。
移民船「出雲」、「加賀」に乗り込んだ人員は全体の一割の150万人に満たない。
旗艦である「日本丸」と共に、常に日本移民団の心の拠り所となっていた天皇も、他国の移民惑星に向かう決断を下した。
◇ ◇
「旭」に向かう移民団は、徐々にその数を増やし、船も常に最新の技術で増改築し、再び七つの移民船団を持つに至る。
長い宇宙の旅の中で、様々な新発見があった。
それまで最少の物質単位とされていた素粒子よりもさらに小さい物質が大量に発見された。
物理法則も、宇宙の場所や時によって一定では無い事もわかってきた。もっとも、移民船団の移動可能範囲では、物理法則変更点には到達出来ていない。
しかし、それらの発見によって、画期的な技術革新もあった。
それはブラックホールエンジンの実用化であった。
超小型の人工ブラックホールをエネルギー源として、無限に近い動力を得たのである。
更に、最少粒子の観測や利用が可能になり、超ナノ技術も大いに発展した。
技術の発展により、光速を越える速度での移動も可能になっているが、通常宇宙空間では、秒速3万㎞を越えることはなく巡航し、ワープの為のエネルギーを溜める。
そのエネルギー充填に掛かる時間は、3年程度にまで短縮出来るようになった。
悲報もあった。
地球を含む太陽系の消滅を確認したのだ。
更に、袂を分かった移民船団の消滅も、である。
日本丸を含む移民船団も、旭を目指す移民船団と同じく、度々内紛、内乱、分裂などを繰り返し、時に疫病に苛まれ、時に未知の宇宙現象に悩まされながらも、移民先に向かっていたのだが、突発的な「宇宙震」に遭遇して「日本の・・・・・・」を最後の通信として消滅したのだ。




