外伝 黎明の旅人 星去る刻 2
追い詰められたある国が打ち出した政策は、世界中から凄まじい程の非難の的となった。
いわゆる「小児性愛症の社会的承認、小児性愛症者の恋愛推進法案」、一般的には「ロリショタ御免法案」と呼ばれる法案の可決、推進である。
この法案の正式な名称は「結婚年齢引き下げ法案」である。
結婚可能年齢を男女とも12歳に引き下げ、9~10歳の子ども(幼成人と言う)に対しての自由恋愛の許可、推進を政府主導で行ったのだ。
これに歓喜したのは最後まで性的趣向の差別を受けてきた小児性愛症の男女だった。
すでに一般成人のほとんどが、異性に対して性的興奮を覚えない体になってしまったのに対して、小児性愛症の患者だけが、異性に対する性欲を過剰に抱え込んでいたのである。
無論、無条件で幼成人に対して性行為を行うことが出来るものでは無い。
まずは性教育の低年齢化を徹底的に行い、性的知識を身に付けさせ、その危険性や問題点も理解させる。
そうした教育を履修した幼成人に対して、政府が設けたマッチングシステムにより、複数の希望者が公的に面会を果たし、その結果如何によっては、その後の交際に発展する事が許可される。
利用者は男女、成人、幼成人問わず、定期的に政府に報告書を出し、マッチングが完了すると、本格的な交際を行うことが出来る様になる。
また、成人した男女には、より厳しい条件がある。
基本的な生活習慣、生活力、就労、年収等々、様々な面がチェックされ、必要に応じて改善指導が徹底的に成される。
そして、マッチング完了し、交際、結婚をした後も、定期的な監査や指導がなされるのだ。
これらのマッチングシステムを通さない恋愛も可能だが、いずれにせよ政府への報告義務は生じ、それによって指導プログラムに参加しなければならない。
無論、強姦などは年齢いかんに関わらず重罪であるり、それらに対する刑罰はそれ以前より遥かに重罪化した。
低年齢の子ども達の安全を守るために、政府はさらに多岐に渡った体制を構築したが、やはりいくつもの問題は生じた。その都度、その国は世界からの痛烈な批判を浴びることになった。
しかし、衰退していく他国に比べて、出生率の向上は目を見張る程の成果を上げる。
一時は世界の敗者とまで言われた滅亡寸前の国は、40年を待たずに世界の最盛国になったのである。
その国とは、日本だった。
その結果を受けて、他国も同法案を次々可決していった。さらに、多重婚までも認め、後に様々な問題を残すことになった国もあった。
とは言え、その制度にも、結局問題はあった。
成人男性と少女の結婚はおおむね良好だった。男性は少女を終生にわたって深く愛し、非常に大切にした。少女は大人になってもいつまでも大切にされる事で、結婚生活に大いに満足していた。
ただ、成人女性と少年との結婚は長く続かなかった。少年は、自らが成人すると、いくら大切にされても結婚相手に満足出来なくなり浮気をした。
立場的には成人女性の方が、離婚すると不利になる法案である。そのため、泣き寝入りをする女性が多かったと言う。
ただし、少年の浮気が上手くいっていたかというとそうでも無く、低年齢結婚の影響で、ただでさえ精神的な成熟が男性より早い女性にとって、同年代の男性に対して、全く魅力を感じなくなっていた。
精神的に圧倒的に幼い男性は見向きもされず、結果として、小児性愛症となってしまう男性が増産されたと言って良い。
いくつかの問題点はあったものの、果たして、世界人口も、滅亡まっしぐらだった人口曲線を回復し、再び世界の環境を逼迫するほど人類は増えた。
増えると起こるのが戦争である。
2100年代に入ると、人口と生産性に余力を得た人類は各国で中、小規模の戦争を起こすようになる。
同時に、再び人権問題も考えられるようになり、真っ先に子どもの権利について検討され、人口回復に多大な寄与をした法案が悪法とされ、男女の結婚年齢が20歳に引き上げられた。
そして、社会的風潮は再び2000年代に加熱した「平等」、「脱差別」、「姓の多様化」を押しつける情勢に戻っていった。
これは、結婚低年齢化が推し進められた際に、低年齢で結婚をしなかった女性議員主導により推し進められた法改正だった。
30代を過ぎてから、精神年齢が過去よりも低くなったままの同年代の男性と結婚し、結婚生活に不満が溜まった人たちが議員となって世論を動かしたのだ。
法案が始まったのも日本であれば、最初に撤廃したのも日本だったのは皮肉と捕らえるか、日本らしいと捉えるかは人によって違う。




