黄金の髪の魔王 連鎖 1
王城を後にした俺が帰宅すると、すでにパーティーは始まっていた。
「遅いぞカシム!主役が遅れてはいけないな」
キースが酒を片手に握手を求めながら出迎えてくれた。
俺が握手を交わしていると、オグマもやって来て、俺の肩に腕を回す。
「まあ、今回はリラさんが主役と言っても過言ではないかもしれないがな!」
すでに酒が入っている。そしていつもスキンシップが暑い。
「ああ。ちょっと着替えて風呂入ってから来るよ」
そう言うと、盛り上がっている食堂の声を後ろに聞きながら自室に向かった。
風呂には少しのんびり入った。
結局休み無く動き回っていたし、気疲れもある。
風呂に入っていろんな事を考える。
これは休暇じゃ無い。
明日も王城に行く事になっているし、遠からず祝宴会をまた開く事になるだろう。
それまでの間に出来る事をしなければならない。
まずは祖父に修行を付けてもらう事。
少なくとも「無我」を見抜く術を身に付ける必要がある。
「圧蹴」の使い方、「月」シリーズ、闘気の技など今更ながら覚えたい技や技術が山ほどある。
時間はかけられないが、とにかく修行だ。
それから、アールの事もある。
養子に迎えて貰う話しで取り敢えず動いてもらい、アメルに連れて行って洗脳を解く方法を見つける事。その後のケアとかもあるな。
別行動出来るなら、アールにはアメルに居て貰った方が良さそうだが・・・・・・。
ファーンもアメルで歌う旅団と会う約束になっていたな。あいつ、ついに「探究者」から「マスター」になるんだろ?
それと、エルフの大森林にも行く必要があるよな。
リラさんのためにも獣人国のエレッサの街に立ち寄ってあげたい。
それらが終わってから、ようやく竜騎士探索行の再開だ。
考えただけで疲れてくる。
俺は深いため息と共に、湯船に頭まで浸かった。
着替えて食道に向かうと、もう使用人のほとんどは退勤のため宴会場から帰っていた。
今回もベアトリスとリアは執事長のバルトと共に残っている。
後はメイドが2人いるな。
ん?1人見覚えがあるメイドがいるぞ?いや、ペンダートン家の使用人だから見覚えあって当然だが、そうじゃない。
「あ、あの・・・・・・。メアリさん?」
俺が尋ねると、その若いメイドは頬を赤らめて頷く。
「はい、メアリです、若様。覚えていて下さったんですね?」
「おいおい、カシム。その子は新入りだぞ?!知り合いだったのか?」
オグマが尋ねてくると、バルトが咳払いして説明する。
「メアリはペンダートン領でのメイドの研修を、短期間で非常に優秀な成績で終えました。それで、本人の希望とカシム様からの手紙によって、ペンダートン邸のメイドとして働く事になりました」
ええ?本当にペンダートン家に来たんだ。
「はい!わたくし、ペンダートン領では、伝説の先輩ヨーメイ様から直接教えていただけたので、大変早く仕事を覚える事が出来たのでございます」
俺は腰が抜けそうになった。ヨーメイが伝説?!それってアクシスの事だよな!?何が何やらさっぱりだ。
「そ、それは良かったですね、メアリさん」
取り敢えずそう伝えると、メアリさんは優雅にお辞儀をした。
その辺りで、仲間からの視線が冷たくも鋭い。
「お兄ちゃん、その人知り合いだったの?!」
ミルが真っ先に噛みついてきた。
「ああ。ギルド戦争で・・・・・・」
俺は簡単に説明した。
メアリ・アン・クリュートは、北バルタのクリュート伯爵のご令嬢だ。
だが、聖バルタ共和国を僭称するヨールド自称大統領に捉えられ、凄まじい暴行を受けていたところを俺が救い出した。
そして、冒険者ギルドに身元を預けた際に、家族も無くし、領地も破壊されたメアリさんのために、「何かあったらペンダートン家を頼るといい」と手紙を渡したのだ。
その際に、ギリギリで初キス出来そうだった事は言わない。
「カシムの冒険譚は、本当に面白いな」
キースが嬉しそうに言って、何故かオグマと杯を打ち合って飲み干す。
「油断も隙も無い!メアリさん!お兄ちゃんはミルのだからね!!」
そう言うと、素早くキスしてこようとするので、頭を鷲掴みにして阻止する。
「そういう事するからお子様なんだよ」
俺が言うと、ミルはメアリさんに「グルルルル」と威嚇する。
だが、そんなミルも、俺はとっても大好きだ。こんなミルでいて欲しいという願いがある。できれば俺と一緒に。
まあ、今は言わないけどな。
「お兄ちゃんはお子様が好きだから良いんだよ!」
ミルがブツブツ文句を言う。
・・・・・・そうじゃ無いぞ。やはり胸の大きい女性に憧れる気持ちは強い。それが男というものだ。
俺はチラリとランダを見るが、ランダはそう言う事を気にしなさそうだ。
次にキースとオグマを見る。
キースは女の人にモテて、いろんな人と食事に行ったりしているみたいだけど、実際に誰かと付き合ったという話しは聞かない。どれも「社交辞令さ」と笑っていた。
オグマはいつも部下や男の友人と騒いでいるイメージだ。
食事をしながらその辺りを聞いてみる事にした。
「兄さん達は、結婚とかしないの?」
俺の言葉に、2人は目を丸くして互いに視線を交わす。
それから、呆れたような顔をして言う。
「あのな、カシム。次期当主であるお前が結婚もしていないのに、なんで俺たちが結婚出来るんだよ?!」
は?
「お前が結婚してから、ゆっくりするさ」
オグマとキースの言葉に、父が無言で頷く。
は?バカじゃ無いのか?




