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第21話 私達、できたのかな?


1日1日が結果発表のことでドキドキし、やはりダメなこともあるかもしれない、と不安になったり、もし幸運ならば、と考えたり、とにかくこの数日間は落ち着かなかった。


 しかし、もうすぐ結果は出る、あとはそこにかけるまでだ。


 音乃と野々花は久しぶりに部活にも顔を出した。


 ここに来ていれば、いつも通りの自分でいれるような気がするから。


 先輩達となんの変哲もない話をしているだけで、気分を和ませられる。少しはドキドキした感情をおさえることができるような気がした。


 しかし、クラスメイトや先輩達の前では音乃と野々花はその話をしないようにした。


それはあえての約束だ。もしも二人で話しているのを見られてしまっては、二人が手を組んで何かをしていたということがここでばれてしまうかもしれない。


 それだと発表にて落ちたとわかった時にただがっくりするだけである。


 そんな日々は続き、いよいよその一週間後が来た。

 

 朝、自室の部屋で音乃はいつもより少し早く目が覚めた。


 この日がいよいよ結果発表だというと、緊張してよく眠れなかった。


 少し早いが、音乃は学校へ行くことにした。


 いつもより早い時間の登校は、まだ来ている生徒も少ない。


 どうやら野々花も音乃と同じ気持ちだったらしく、早くに学校に来ていたようだ。


「いよいよ今日が結果発表だね」


二人で廊下の隅で話した。この時間帯ならば、まだ来ている生徒も少ないために、二人で一緒にいるところを他の生徒に見られる心配もない。


今日の朝礼で、その発表がされるということだ。


「ええ。もしも選ばれなくても、私達はやり遂げたんだから。それだけで満足よ」


結果発表までのこの短い時間も、二人にとっては長く感じた。

 

そして、全校生徒が体育館に集まり、クラスごとに二列に並び、朝礼が始まる。


朝なのでまだ眠そうにあくびをする生徒もいれば、女子同士でこっそりヒソヒソ話をする生徒もいる。話を真面目に聞こうと、ちゃんと態度を乱さない生徒もいる。


しかし、音乃と野々花にとっては、今日はそれどころではなかった。

この朝礼こそが、いよいよ結果発表の場なのだから。


まずは教師達の挨拶から始まった。


今週の校内行事の話や、今後の予定、生徒にとって退屈な話もあれば、為になる話もある。


しかし、音乃にとっては早く小説の結果が知りたいということで頭がいっぱいだった。


教師達の話が終わり、次はいよいよ各委員会の話になる。委員会の話となれば、今週はもちろん図書委員会の話が出てくる。


図書委員の挨拶から始まり、いよいよ発表だ。


「わが校恒例の企画で校内小説コンクールにて、作品を募集しました。今回の応募総数は28本。どの作品も素晴らしく、皆様の力量を見せつけられました。我々図書委員と先生達とで審査をさせていただいたところ、その結果を発表したいと思います今年も力作が集まり、選考は苦戦しましたが、その中でも最優秀賞に輝いた作品を発表させていただきます」


(ついにきた!)


とうとう発表の時だ。音乃は心から祈った。


心臓はバクバクと鼓動し、正気をたもてるかすらも不安になる。


野々花も同じ気持ちだ。二人の努力の結果が、今まさに明らかになる。


ほんの数分もかからないはずのこの時間帯がもやもやする。


「今回の校内小説コンクールにて最優秀賞に選ばれたのは……」


 その次の瞬間まで、二人の心臓は破裂しそうになるほど鼓動が激しくなった。


 そして、いよいよその結果が図書委員の口から発せられる。


「一年五組、市宮音乃さんと同じく一年五組である日村野々花さんの合作による「君と僕のアイは昇る」に決定しました!」


 それを聞いた時、音乃は心の奥が弾けそうになった。自分達の作品が選ばれた。


「え、や……嘘、ホント!?」


心の中で何かがこみあげてくる感覚がした。これまでの苦労が一気に報われた。


「1年生の市宮さん、日村さんおめでとうございます」


 全校生徒の前で自分の名前が呼ばれたことにも、自分達の作品がそれで選ばれたのだと。


 しかも最優秀賞ということは、その中でももっともよかったものにと選ばれて全国コンクールにも出してもらえるというわけだ。


「最優秀賞に選ばれた作品は、二日後に小冊子として配布します。ぜひみなさんも選ばれた作品を読んでいただきたいです。以上、図書委員会からでした」


図書委員の話が終わり、その後の朝礼に、音乃は話が全く入ってこなかった。


 もはや、嬉しさにより舞い上がって、話を聞くどころではなかったのだ。


 早く野々花と話がしたい、自分たちの作品が選ばれたのだと喜びを共有したい、と。


 朝礼が終わり、教室に戻る途中、綾香が言った。


「音乃、小説書いてたんだね! 日村さんとそんなことしてたなんて驚き。音乃ってそんなに小説書けたんだ。前に二次創作やってるってのは聞いてたけど。オリジナルも書けたなんて」


「今回は、野々花とだからできたことだよ」


 そして、クラスメイト達も先ほどの朝礼のことを口にしていた者もいた。


「校内コンクールで選ばれたのうちのクラスの子だよね? 日村さんと市宮さんって小説とか書いてたの? あの二人、いつから仲良くなったんだろう。でも最優秀賞って凄いよね」


「うちのクラスの人が小説書いてたなんて知らなかったよな。そんなの文芸部とかしかやらないと思ってたし」


 そんな声が聞こえて、音乃は内心こっそり嬉しかった。


 昼休み、音乃と野々花はまたもやあの体育館裏に来ていた。


「野々花……。やったね。私達の小説が選ばれたね」

「ええ、まだ信じられないわ。私達の小説が最優秀賞だったなんて」


 二人にはもはや、これまでの執筆にかけた苦労を上回るほどの幸福感で包まれていた。


 二日後に二人の小説が載った小冊子が発行され、それが全校生徒に配られた。


 クラスでその小冊子を配る際に、担任教師がこう言った。


「今回選ばれた作品はうちのクラスの市宮さんと日村さんの作品です。素晴らしい小説だと、現代国語の清水先生もオススメとのことです。皆さんもぜひ読んでみましょう」


 担任教師は笑顔でそう言った。自分のクラスの生徒の作品が選ばれたことも嬉しいのだろう。


 それも現代国語の教師も推したということは、それだけのクオリティな作品だ。


しかし、音乃の後ろの男子生徒が他の者と話しているのが聞こえた。


「ふーん、小説かあ。俺、小説ってちょっと苦手なんだよな。読むの時間かかるし、漫画みたいに読みやすくないし」

「だよな、やっぱ活字って読むのしんどいよな。俺も文章読むの好きじゃねえ」


小冊子が発行になったからと、それは誰でもがすぐに読んでくれるわけではない。


 生徒には活字媒体である小説を読むのも苦手な者もいる。


 漫画は絵でストーリーを追うので読みやすいが、小説という活字媒体は10代には敬遠される部分もあるのだ。元から本を読む習慣のある者には読んでもらえるとしても、普段から小説を読まない者は、同じ学校の生徒が書いた小説とはいえ、わざわざ読みたいという気にはならない者もいるのだ。


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