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第20話 二人の共同執筆


 話が決まり、2人で今後の計画を決めることにした。


 企画の締め切りは2週間後。ストーリーはワードでいう原稿用紙約30枚分の短編だ。


 つまりは大体3万文字の小説である。短編ならその期間で書けないこともない長さだ。


 その日に集まった小説から図書委員会がその中で優秀賞を選ぶ。


 そしてその一週間後に結果発表だ。


そこで選ばれた小説は小冊子として発行し、全校生徒に配られる。


この日から音乃と野々花の修羅場が始まった。


 自宅のパソコンの通話ツールであるスカイプでお互いに連絡を取り合い、チャットでアイディアを出し合う。

これならば互いのアイディアをチャットで文字として書き起こすことで、目に見える形ですぐに次の段階に移ることができる。


「まずはテーマを決めることになるけど、野々花。なんかいいアイディアある?」


 ストーリーを作るのにはまず、テーマとコンセプトを決めることが大切だ。


「そうだ! 野々花の今まで書いて来た小説を見せて! 野々花がどんなオリジナル小説を書くのか見てみたい! どんな分野が得意とか、それでわかるかも!」


「じゃあ、まず中学時代に書いた3本を送るわ」


 野々花がメールに添付したファイルは三本の短編小説だった。


「じゃあこの3本、明日までに読ませてもらうね」


 音乃はそう言って、添付ファイルの短編小説を頑張って読むことにした。


『私の花をあなたに届けたい』

『僕らは今日もサッカー試合をする』

『闇夜に映える月光』


 それらのストーリーの見せ方や文章表現も見事なものだ。


「私の花を」は花屋を経営する主人公が客である男性に一目ぼれして、花を届けに行く話だ。  

 そのすれ違いにモヤモヤしながらも、最後にはハッピーエンドになる。


「僕らは今日も」はサッカー部に所属する少年たちが同じサッカー部の部員を皆ライバルとして、普段から対立し、結果的にはチームワークを結成させる。


「闇夜」は現代社会において闇の中、つまり表社会には出ない稼業に所属する主人公が月光というチームに所属し、現代日本の暗闇へと光を述べると言う通り、慈善活動をしている話だ。


 恋愛小説ならばそのときめきが表現され、友情ならば対抗心がありつつ、その葛藤を描くことで得られるストーリー性、現代日本が舞台の現代ドラマでは、現実世界の哲学的な部分がストーリーに出ている。



 それらを読み終えた音乃は、自宅のパソコンから野々花に感想を伝えた。


「すごおい、やっぱり野々花はオリジナルも上手だね」


「まあ、色々なジャンルを書いてみたかったからね」


「じゃあさ、恋愛要素もありつつ、野々花の好きなライバルみたいな対抗心を持つ主人公二人を作って、それが最後は和解して実る話ってのはどう?」


 野々花の得意ジャンルであるライバルの2人に溝があるという要素を入れるが、二次創作のような対抗心ではなく、コンクール用として最後はハッピーエンドにする。


「いいかもしれないわ」


「それじゃあライバル関係の二人ってのはどういう人物にしようと思う?」


「例えば、育った境遇が全く違う二人が、いて。その一方は幸福な主人公に嫉妬して、素直に仲良くなることができないみたいな」


「それいいかも! じゃあそれをどう最後はハッピーエンドにするかだね。二人がいがみ合う、一方が嫉妬するみたいな状況になるにはキャラをどんな設定にする?」


「ファンタジー要素を入れるなら、お互いが同じような特殊な部分があるとかどう? 例えば二人がある血族の末裔とか、同じ研究所の遺伝子操作から生まれたとか、もしくはある研究により生まれた生命体が人間の姿をして社会に溶け込んで生きてるSFみたいな要素とか」


「それ、すっごくいい! あえて現実離れした設定を入れるからこそ、物語に深みが出そう!」

「コンセプトは『同じ特質体型で、衝突しながらも、お互いの魅力に気づき、最後は結ばれる』ってのはどうかしら」


 それで2人が作ろうとしている大まかなストーリーの全体図ができた。


「キャラクター名は?」


「一方が熱血漢な少年だから、卓也とかどう? ここはあえて普通の人間らしい名前がいいと思うわ」


「じゃあもう1人のヒロインの女の子はどうする?」


「こっちは少し変わってる名前がいいから……「愛栖」とか。漢字で書くと「愛」のアイと氷のような冷たい「アイス」とのかけあわせとか」


「なるほど、あえて変わった名前にすることでミステリアス感を出すんだね!」


 音乃と野々花の打ち合わせは順調に進んでいった。


「じゃあ大体のあらすじはまとまったね」


 音乃と野々花は考えたあらすじをワードにまとめた。


2人の少年少女・卓也と愛須は現代日本に生きるある血族の末裔。


 彼らは遺伝子操作によって生まれたアイライズ。見た者を鑑識してしまい、人の出生・性格・経歴といったプロフィールがわかってしまう特異体質。その血を受け継ぐ子供。


 人々の経歴を一瞬で見れるからこそ、初対面の人々の性格を見抜けてしまうので、それに対し相手のプライベートを見抜ける奇妙な性格により、人々から避けられていた。


 ある日、愛須が卓也の学校に転校してきて二人は出会う。すぐに同じ特異体質とお互いが気づき、そこから物語は始まる。 


愛須はその血族の母親と一般人の父親との間に生まれたが、母親を亡くし、一人になった父親は奇妙な特異体質の娘を化物の娘として少女を捨ててしまった


親戚に預けられるも、やはりその特性からあまりいい境遇ではない上に、人を信じられなくなる出来事が起きて、愛須は心を閉ざし、1人になってしまった。現在は一人暮らしだ。


一方少年の方もまた血族の父親を亡くしているが、こちらは母親が忘れ形見として少年を大切に育てており、割と幸せな生活をしている。少年は持ち前の性格で人々の秘密がわかっても、決してそれを表面に出さないコミュニケーション能力を持っており、うまく生活でやりくりしていたために、交友関係にも恵まれている。


そんな境遇の違いに愛須は自分にはないものを、なんでも持っている卓也に嫉妬し、最初は衝突してしまう。不幸と幸福な逆の環境の2人は溝がある。愛須は少卓也が親に愛されている嫉妬心、周囲に受け入れられている環境でそれで距離があった。


お互いが血族の親を亡くし、2人だけの生き残りだからこそ、近くて遠い関係。


卓也が愛須に近づこうとしても、それは断られるばかりだった。


 ある日、愛須は血族の力を暴走させてしまう。それにより、一般人たちに怯えられ、偏見の目で見られる。人に見られたことにより、愛須は1人、家出をして、どこかに消えてしまう。


 卓也は愛須を探した。社会に居場所をなくしたことにより、愛須は自殺しようとしていた。


 それを卓也が見つけ、愛須を助けようとした。


2人だけの生き残りだからこそ、お互いは近いようで正反対な関係。


しかし卓也の想いにより、これまで誰も信じられなかった愛須が、初めて心を開いた。

試練を乗り越えて2人は結ばれる


「いいんじゃないかなこれ」と音乃は全体のあらすじを見て言った。



「野々花が得意なライバル的に男の子を見ている女の子が、嫉妬したりする部分がまた最後のストーリーの盛り上げになってると思う。ここからどう話を繋げるかだね」


学校では二人で合作をしていると周囲に知られない為に、あえてなるべく人のいる場所では二人で話さないようにしているが、家ではお互いのパソコンでメールにファイルを添付して原稿を見せ合う。ビデオ通話でお互いの状況と共に作業していく。そしてファイル送信で二人の文章を繋げていく。


「ここは、こうがいいんじゃないかな」


「ほら、野々花のアミロシ小説によくあるような、突っ張ってる感じで相手を蔑むみたいな」


「愛須がいじめられてて、それを卓也が助けるけど『あなたに助けてなんて頼んだ覚えはない!』ってこうやって跳ね返す性格だからこそ、後半のデレがまたツンデレっぽくていいわ」


「こういう展開を入れるのはどう?」


「ストーリーの物語の盛り上げとして、力で天国の愛須のお母さんと繫がり『あなたは普通の人間として生きればいい。人を好きになったらその人と結ばれてもいい』っとか言われるの」


「凄くいいんじゃない? その台詞があるからこそ、愛須は卓也のことを好きになっていいんだって自覚できる」


「ここでこんな台詞を入れるのどう?」


『君にだって。君にしかない魅力があるんだ』

『あなたは人間として生きればいい。いつか大好きな人が現れたら、その人と幸せになって。お母さんはあなたのことを見守っている。そこに壁なんてない』


 そういった形で原稿を次々と書き進めていく。


『私、あなたのことを信じていいの?』


『当然だ。僕は君を愛する。他の誰かが君のことを奇妙だって言っても僕は君の味方だ』


『これからは普通の女の子として生きて行けばいいんだ。もう一人じゃない』


愛須は崖から飛び降りようとして、いたが思いとどまるも、事故で本当に落ちそうになる。そこを救う


『僕は、君と生きたい。同じ種族だからとかじゃなくて、愛須の事が好きなんだ』


『私、今までこの力のせいで誰も信じられなかった。けど、あなたのおかげで、私は変われそう』と泣きながら本音を話す。


誰も信じられなかった愛須が初めて人を信じることを知る。


「最後はキスシーンを入れるのはどうかしら?」


「それはちょっと、大胆過ぎない?」


「こういったストーリーには最後はそういう愛を感じさせる要素も必要よ」


 小説をたくさん書いて来た野々花がそう言うのならそうだな、とも思えた。


最後にキスをして、物語は終わる、というピュアな終わり方にすることにした。


一番の盛り上げであるラストシーンも決まり、あとは本編の執筆だ。


そこに行きつくまでの本文は野々花の丁寧な心理描写が登場人物の心情をよく表している。


このストーリーの土台は、やはりラミレスの丘の影響を受けている。


 わだかまりのあった2人が同じ血族としてわかりあい、成長していく様はロシウスとアミエルの音乃の好きな兄弟のようでありながら、野々花の好きな溝がある関係という似たような部分があり、あの作品もまた、こういった試練を乗り越えていく話であり、2人の主人公が力を合わせていくものだ。


ぱくりのようなものではなく、要素の一つとして、あくまでも影響を受けたということれあそこから閃いた物語であり、この小説は当然内容は2人のオリジナルだ。


まさに野々花と音乃の2人の好きなシチュエーションが合わさって表現された作品であり、この2人だからこそ書くことができる物語だ。


「この文章はこういう表現の方がいいじゃないかしら?」


「ここではあえて愛巣の冷酷さを入れる為に、きつい言葉を投げかけるとか」


「ここの描写はもう少し過激なくらいがいいわ」


やはり野々花の表現力は見事で、それがどんどんストーリーとして描かれていく。


二人はそうやって協力し合いながら一本の小説を執筆していった。


それはもう苦行だった。日中は学校に行き、家に帰れば夜は遅い時間まで起きていて二人で作業に集中する。それは深夜遅くになることもあるが、翌朝は学校に行かねばならない。


限られた時間の中で原稿を進めるには、身体に鞭打ってでも疲労より目的が大事だ。


しかし学校で眠そうだったり、疲れている様子を他の者に見られてはいけないと気を張った。


何か疲れを見せてしまえば、2人がある計画を進めているとばれてしまう可能性がある。



そうして日数をかけて進めていき、いよいよ締切の前日になり、最後は推敲だ。


「ここ、誤字がある。こっちは脱字」


 最終確認として2人で念入りに推敲し、間違いを修正していく。


そして、いよいよ最後にはタイトルとあらすじを入れれば完成だ。


 タイトルは「君と僕のアイは昇る」「愛」と特殊能力の「アイ」をかけているのだ。


 つまり、主人公・卓也とヒロインである愛須の2人の運命という意味だ。



そして、その作業もついに終わった。


「できた! 完成したね!」


パソコン画面上で、最後の打ち込みが終わると、ようやく長い作業から解放された。


「ええ……これで私達の小説が完成したのね」


 二人の間にはなんとも言えない達成感と解放感が包み込んだ。


 ここしばらく身体に鞭打ってでも苦労して書き上げた原稿が完成したのだ。


 二人には連日の疲労もあり、もはやふらふらだったが、それでもこの為に、どんなに苦しくても頑張ってきたのだ。これでようやく提出できる、自分達の作品を見てもらえると。


あとはこれをプリントアウトして提出すればミッション完了だ。



名前欄に「1年5組。市宮音乃・日村野々花」と記入した。


 その出来上がった原稿を肩ひもで閉じ、封筒に入れれば完成だ。


 原稿用紙30枚分のずっしりとした重さの封筒だ。図書委員会の委員長に提出だ。


「これ、私が明日図書委員長に提出してくるね」


「ええ、よろしく」


 長らくの疲労から解放され、2人はようやく落ち着いた睡眠をとることができた。

 

 翌日、学校の図書室にて、自分の業務をやっていた図書委員長に話しかける。


「あのう、校内小説コンクールに参加したいのですが。まだ間に合いますか?」


「はい。まだ募集は間に合いますよ。原稿、持ってきます? それを顧問の先生に提出します」


「これです」


 音乃は原稿の入った封筒を渡した。自分達の、努力の結晶を。


「これですね。ばっちり受け取りました。ではこれはコンクール用作品として提出させてもらいますね。結果発表は一週間後ということで、しっかりと選考させていただきます」


 しっかりと2人の原稿は締め切りに間に合ったのだ。


「野々花、ついに私達、できたんだね」 


 家に帰り、野々花とスカイプで話し合う。


提出しても発表までは二人だけの秘密だ。


「ええ、あとは結果発表を待つだけね」


今回の応募作は28本とのことだ。その中から選ばれる。


 やはり図書委員会や文芸部といった元々文章を書くのがうまい生徒達が多く参加しているようで、果たしてそれらに対抗できるものなのか。


 しかし野々花の小説の腕前と、音乃の協力により、自信はあった。


「早く結果発表が待ち遠しいね」



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