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第16話 勝負の行方


 翌日になり、ピクシブのダッシュボードにて時間経過による反応を確認した。


 野々花の小説はアップロードしてすぐに閲覧数が一日で百になり、さっそくいいねとブクマも数件ついていた。


 一方、音乃の小説の閲覧数は六十八 やはり圧倒的に野々花の閲覧数が上がっていった。


この勝負は、やはり野々花の一本勝ちに見えていたような気がした。

「やっぱり野々花に勝てるわけないか」

勝負には乗ったものの、やはり音乃の実力で敵うものではないということは目で見えた。


 そのまま3日間、その差は歴然だった。

 勝負の期限である一週間、その間音乃は毎朝ピクシブをチェックすると、自分の差が出ることに、ガッカリしていた。やはり野々花の閲覧数には差がある。


「このままじゃ負けちゃう……けれど仕方ないよね」


 こうなるのは仕方ない。勝負に乗ったとしても、やはりうまくはいかない。


これまで小説を書いて来た熟練者と最近始めたばかりの初心者では歴然とした差がある。

「どう考えても野々花には負けちゃうよね。その時は素直に負けを認めよう」

 音乃はすでに諦めの境地になった。

 

 そのまま数日が過ぎて行き、その差は埋まることはなかった。


しかし変化は起きた、それは金曜日の夜だった。


「あれ? 私の作品の閲覧数が上がってる!?」


 ダッシュボードを確認すると、突然音乃の小説の閲覧数が+52という短期間でありえない数字をはじき出していた。


「何これ、見間違い!? なんでいきなり!?」

 今まで10前後しか閲覧数の伸びなかった音乃の小説が、突然に閲覧数を上げた。


「あ、あれ? 何か通知来てる?」


 ふと通知欄を見ると、通知が来ていた。それはブックマークとコメントの通知だった。さっそく見ることにした。


 そのコメントにはこう書かれていた。

「最新話からの新鮮なネタでとても新しい気持ちで読めました。この展開いいですね! まさにアミエルがロシウスを想うからこその台詞ですね」


 音乃はそのコメントを見た途端、この小説をちゃんと読んでくれた人がいたのだと実感した。


「そうだよね、私の書いた話だって、ちゃんとストーリーになってるんだ」

 音乃はそのコメントが励みになった。


 二次創作とはあくまでも、自分の理想の話を書き上げ、それを読んでもらうことで同士と愛を共有できるのがいいのである。いかにどう自分の趣向を楽しめるかだ。

 音乃はこれだけで、自分はこの小説を書いてよかったと思えた。


「これだってちゃんと物語になってるんだもの。勝負に負けたって、私の小説を楽しんでくれた人がいるんだから、これは無駄なんかじゃない!」


 音乃はそのコメントを見て、閲覧数で敗北しそうだというく悩みから解放された気がした。


「でも、本当になんで閲覧数が急に伸びたの?」


 この小説を読んだ者がいるとわかっても、それがなぜ急激に閲覧数を増加させたのかはわからなかった。

「何が起きたかわからない。そうだ、このコメントくれた人のプロフィール見てみよう」

 ふと音乃はそのコメントをくれた人のプロフィール画面へ飛んでみた。

 どうやらアミロシ好きな人らしく、この人もまた絵描きなようだ。

「あれ、この人、ツイッターやってるんだ」

 そのユーザーのプロフィールページにはツイッターアイコンがあり、そのアカウントのリンクが貼られていた。

 コメントをくれた人のアカウントを覗いてみた。


 すると、その人のツイートはこう表示されていた。

「マジ感動するアミロシ小説見つけた。最新話からの2人の別れの前の話。アミエルの言葉で前向きになるロシウス尊い。みんなに読んで欲しい」


 そうツイートされ、音乃の作品のピクシブのリンクが貼られていた。


 ピクシブにはツイッターを連携して、お気に入りの作品へのリンクをツイートに張り付けて「この作品はよい」といった具合にフォロワーに見てもらえるようにできる機能がある。


 よく見ると、その音乃の作品のピクシブリンクのツイートがそこからすでに18リツイートもされていたのだ。

「え、わ! なんでこんなに反応が!?」


 音乃の作品のリンクをツイッターに貼ったこのアカウント主は絵描きとしてはアミロシ好きでフォロワーがたくさんいる人だった。そのフォロワー数は682人。


 音乃はそのユーザーのツイートで音乃の作品のピクシブリンクをリツイートした人のアカウントも覗いてみることにした。


「ラミ丘最新話ネタの小説。書いた人神。最新話からこんな妄想できる」

「きっと今の展開なら今後こういうこともありそう。アミエルもはや女神」

「マジやば、何これ素敵。ロシウスを励ますアミエルの優しさがたまらん」

「読んでいて幸せな気持ちになれた。ロシウス頑張れって応援したい」


 それらのユーザーは引用リツイートにて、どれも音乃の小説を評価していた。


 つまり、フォロワーの多いユーザーが音乃の作品のリンクを自分のツイートに貼り付け、それを見たユーザーがその作品を読んで、またそのユーザー達がリツイートするという形で、あっという間にアミロシ好きのユーザー達に広まったというわけだ。


「だからいきなりあんなに閲覧数が伸びたんだ……」


 原作の最新話からのストーリーというのがよかったのだろう。


 原作ですでに過去にあったエピソードだと、みんなそこから話を考え、どうしても似たり寄ったりな話になってしまう。


 しかし最新話からのネタということは、まだ考えていた者が少ない話ということだ。それだけで注目を集めた。まだ書いてるものが少ないからこそ需要が高まる。


 金曜日の夜というものは翌日が休みなユーザーも多く、その為に夜にピクシブ巡りをして作品を閲覧するユーザーも多いのだ。


 そのタイミングであのリツイートは、ますます音乃の小説に関心を集めることになった。

 それが閲覧数の急上昇に繋がっていた理由だろう、


「もしかして、このままいけば、野々花の閲覧数に追いつくかも……!?」

 そんな可能性も出てきて、音乃は興奮してきた。


 その勢いが収まらず、土日という休日でさらに音乃の作品は閲覧数が上がっていった。


 金曜日にリツイートしたものが、さらに多くのユーザーの目に入ったようだ。いいねやブクマ数も上昇していく。


 それがいつの間にか野々花の閲覧数に並んでいた。


「やばい、まさか……」

 音乃は可能性に希望の光が見えてきた気がして、興奮が収まらなかった。


「これだけ私の作品も読まれたんだから、もう十分だよね」

 もう勝負の結果より、これだけ読まれただけでも満足だ。これでいいような気もしてきた。


「それに、野々花の小説だって。面白かったし。勝負とかじゃなくて、これは凄くいい経験になったよ。きっとこれでよかったんだ」


 音乃は勝負に負けそうになった不安が薄れたことと、これはこれでよかったと思うことにして明日に向けて、ベッドで横になり、眠りにつくことにした。



 月曜日の朝、いよいよ勝負が決まる日だ。


「いよいよだね。ドキドキするなあ」


 朝から音乃はスマートフォンを持つ手が震えた。


 今ここでピクシブのダッシュボードを見て自分の閲覧数をチェックし、野々花の小説の閲覧数をチェックすれば一瞬で結果がわかる。


 昨日までの閲覧数的に、二人はほぼ並んでいたのだ。それが今日、結果が出る。


「よし、覚悟はできた。勝っても負けても、その時はその時だ」


 音乃はいよいよ覚悟を決めて、ピクシブを開いた。そして自分のダッシュボードを確認する。


「私の小説の閲覧数は258、いいねが23、ブックマークが27」


 音乃はまず、自分の小説の反応を確認した。なかなかの数字だ、

 そして、次はもちろん野々花の小説の反応を覗いてみる。


「野々花の小説は閲覧数が246でいいねが21、ブックマークが26」

音乃はその数字を見て、スマートフォンを持つ手が震えた。


「え……私の方が、多い……!?」


 なんと、ほんの僅かな僅差で、音乃の小説の方が反応が多かったのである。


「嘘、私があの野々花を超えたの? この私が」

 小説を書き始めてまだ間もない音乃が、熟練の野々花を超えた。


 あのリツイートの効果だろう。それだけ多くの者が音乃の小説に注目したのだ。


「今日、学校に行ったら野々花になんて言われるかな……」


 予想していたのはやはり、音乃が負けて野々花がさらに見下す態度をとる光景だった。しかし現実は違った。音乃が逆転したことにより、どういった反応になるかはわからない。


「でも、私だって野々花に伝えたいことがある。学校でそれを言ってみよう」

 音乃は学校へ行く支度をした。


 学校に着くと、教室に入れば珍しく野々花が早くに来ていた。

 まだ朝のホームルームよりずっと前なので教室にいる生徒数は少ない。


 教室に音乃が入ってきたのを見た野々花はこう言った。

「音乃、ちょっといい?」

 朝のホームルーム前に音乃は野々花に呼び出された。


 野々花とは普段、部活以外では教室で話すことは少ない。

 お互いの友人にだって実はこの2人に交流があるということも言わないようにしている。野々花はもちろんで、音乃も野々花の態度的に言わない方がいいだろう、と気を遣ってだ。


 今日は朝早くに登校してきた為に、綾香も野々花の友人も登校してきていないので互いの友人に二人が話しているところを見られる心配はない。

 そして、やはりどうしても野々花は音乃に言いたいことがあったのだろう。


 野々花は早速、他の生徒達に見られない場所ということで、音乃を体育館裏へ連れて行った。。会話の内容を他の生徒に聞かれないようにするためだ。


「今日の朝、ピクシブの閲覧数を見たのだけど」

 突然出た予想通りの言葉。やはり野々花もすでに今朝、ピクシブをチェックしていたのだ。

 ということは、僅差で音乃の小説の反応数が多かったのも見たということになる。


「反応の数からして、あなたの勝ちよ」

 不機嫌そうに、野々花はそう告げた。


「ふん、素直に負けを認めるわよ」


 野々花は表面ではプライド的に冷静を保っているが、恐らく心の中では悔しいのだろう。


 自分から勝負をふっかけておいて、結果は負けたのだから。

 しかし、音乃は勝ったところで誇らしいという気持ちよりも、別の気持ちがあった。


「私のこと、見下しなさいよ、笑いなさいよ」

 何も言わない音乃に対して、野々花はそう言った。


 しかし今の音乃は相手を見下すといったちっともそんな気持ちではなかった。


 そして、思っていたことを素直に答える。


「野々花、私ね、勝負の期間中に野々花の小説読んだの」


 音乃は素直にそのことを告白した。


「なっ、あなた勝負中に相手の作品を読んでいたの?」


 野々花はあの状況で自分の作品を見ていたのかと驚いた。


 そこで、音乃は野々花の小説に思ったことを伝えることにした。


「あのね。野々花の小説、とても面白かった。初めて読んだ時、文章とか表現が、私の書く小説と全然違って、その完成度でとてもびっくりしたの」

 音乃にとって、野々花の小説の印象はこうだった。


「アミロシへの解釈も、他の人が書くのとはちょっと違う見せ方だからこそ『こういう受け取り方もあるんだ』ってのがとてもわかりやすく表現されてて、アミロシはこういう楽しみ方もあるってことがとても新鮮だった。ちゃんと原作にも合っていて、それでいて、ラミ丘が大好きなんだって気持ちが作品で伝わってきて。原作のイメージを崩さないままに独自の視点での物語、本当に面白かった」


 これは音乃の本音をそのまま伝えている。


「あまりにも野々花の小説に感動して、一気に野々花の作品全部読みたくなった。そしたら他の小説も面白かった。そしたら野々花ってこんなにも凄い才能があるんだって感動した。凄くストーリーにのめり込める内容で、何度も読んだほどだよ」


「ふん、そんなお世辞を言っても無駄よ」


 野々花はそれを素直受け入れる態度ではなかった。それでも音乃は続ける。


「お世辞とかじゃないよ。野々花の小説、とっても魅力的で素敵だった。私の小説とも全然違うし、野々花はこんな凄いお話が作れるんだって。凄く尊敬する」


 威圧的な態度を取られても、音乃は話を続けた。


「だから、私は野々花を尊敬してるよ。野々花はとても凄い魅力があるんだってわかった。

他の人達も、きっと野々花の小説が大好きなんだ人がたくさんいるんだと思うよ。きっとこれからも野々花の小説を楽しみにしてる人はたくさんいると思うし。もちろん、私も。互いの好みを押し付け合うんじゃなくて、わかる人にだけわかればいいんじゃない?」


 音乃のその言葉を聞くと、野々花は表情が固まった。すると顔をうつむけた。


「どうしたの?」

 野々花の様子がおかしかったので、音乃は聞いた。


「私、今まで周囲には小説を書いてることは秘密にしてて……。そんな風に感想を言われたの、初めて……」


 野々花は音乃に聞こえない声でそう言った。こんな感情、聞かれたくなかったかのように。


「ねえ野々花。こういうのって勝ち負けで争うっておかしくない? みんな自分の好きな形を表現して、反応とか閲覧数とかじゃなくて、『こういう話を私が書きたかった、それを同じ趣向の人に読んでもらえる』が二次創作の醍醐味だと思うの。勝ち負けとかじゃなくてさ、野々花はより多くの人に楽しんでほしいって気持ちもあるんでしょ? だから野々花の小説を読みたい人がたくさんいる」


 音乃にとって、小説を書くと言うことで、学習したことを伝えた。


「私も、今回小説を書いててそれに気づいたんだ。評価や反応を気にするんじゃやんくて、自分がこんな話を書きたいと思って、それを読んでもらえたってのが嬉しくて、そこには反応じゃなくて作品への愛が一番なんだって思った」


 現に音乃も、今回のことで自分が小説を書く楽しさをもっと感じ、なおかつ野々花の作品の良さに気づけたのだ。


「こういうのに勝ち負けなんてないんだよ。お互いが楽しめればいいんだよ。見下すとかじゃなくてさ、お互いのいいところがわかればいいんだよ。勝ち負けとか気にしなくていいんだよ。ほら、二次創作ってさ、同人小説ってもいうじゃん?」


 同人とは「趣向が同じ人に読んでもらいたい」それならば自分と嗜好が同じ人に読んでほしいのだ。音乃の小説を、音乃の解釈と同じ者が楽しめるように、野々花の小説もまた、野々花の解釈が好きな者が楽しめる。

 受け入れられる人だけに受け入れられればいいのだ。それぞれの嗜好と解釈が合う者に。


そして、言った。

「私は、野々花の小説も好きだよ」

「……っ!」

 それを聞いた野々花は一瞬顔を赤らめた。


 野々花は今の感情を音乃に悟られたくなかった。その言葉に、謎の衝撃がある、と。


 しかし、野々花はすぐに態度を持ち直した。


「でも、やっぱりあなたが書く話は私にとっては地雷だわ」

 野々花は、決して音乃の作品を認めないという態度だった。


「覚えてらっしゃい。今度はきっとあなたに負けない小説を書くわ」

 野々花はそう言って、音乃に背を向けて去っていった。


 残された音乃はふう、と息をついた。


「うまく、伝わらないな」

 結局野々花はああいう態度なのだ。音乃の気持ちは伝わっていなかったのかもしれない。


「あーあ、どうやったら野々花と分かり合えるんだろう。やっぱり無理なのかな」

 と、そうつぶやいた。


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