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第3話 《錬金術師》のプロローグ

投稿し忘れていた……だと?!

 その瞬間進は目が覚めた。

 

 しかし、いまだに彼女との会話は鮮明に進の中で残留している。

 夢のようにぼやけて、やがて消えてしまうことはない。

 

 まるでつゆ払いされたかのようにはっきりと、意識は浮上していく。


 

 序章が、やっと始まる。


 

 言野原進にとって、人生とは不思議な毎日の繰り返しだ。

 だからこそ、朝は希望に満ちている。



「見慣れない部屋……、ってことはさっきまでのことは本当に夢じゃないんだな」


 

 一つ一つを確かめるように周りを見渡す。

 そして、自分の声が出ることに少し驚きを覚える。


 当たり前のことなのに、さっきまで心の中で思ったことだけで会話をしていたからだろうか。


 

 現在時刻は、午前五時十三分。



(さすがに早すぎるな……)

 


 いまから外へ出かけてもどこも開いていないだろう、それでも意識は覚醒してしまったのだからしょうがない。

 何かすることはないか、と進は考える。



(あれ、なんか微妙に体がだるい? もしかして転移初日から熱とか? ただの笑いものじゃん)


 

 若干、躊躇しながら体温計に手を伸ばして……



(いや、どこだ?)

 

 

 そういえば進はまだ家、いやこの部屋のどこも把握していないのだ。



 《錬金術》で作ってしまえば、と思うかもしれないが、あいにく彼は体温計の内部構造など知らない。

 知らないものは作れない。



「て、ことは。《異世界転移》一つ目のミッションは体温計を探す、か。そもそもここにあるのか?」


 

 周りを見渡してみて、冷蔵庫も、炊飯器もその他もろもろもあったので多分あると考えたのだが……。



「メモリーいわく、金のことはあんま心配しなくていいらしんだよな。どうしてかは知らないけども……、っと、発見、発見。ここにあったのか、体温計」


 

 ピッというまで電源ボタンを押し込んだらわきに挟む。

 使い方はどうやら向こうと変わらないらしいと。

 三十秒ほどするとピピピ、と音がした。

 

 本当にただの体温計だったことが進の目によって確認された。

 つまらないったらありゃしない。

 

 そんなことを進は思ったが、慣れているのと変わらないのはいいものなのだ。



(……三十六度六分。なんだ、平熱か。よかったよかった)


 

 一番初めから格好悪い転移なんてしたくない。

 底辺転生とか好きじゃないし、と結構的外れなことをつぶやいてみた進は改めて部屋の中を見渡した。


 どうやら、だるいのはただ寝起きで、体のほうが覚醒していないかららしいと理解する。

 動いたらいいのだろうか。



「今や、世界中に知られるラジオ体操もこの世界では存在しないのか」


 

 なんというか、THE・男子高校生みたいな感じの人間ではない進だが、ラジオ体操をしているという割と珍しい若者である。(しかも、東京という大都会で。わざわざラジオで。)



(まぁ、リズムなんてなくても体がやることは覚えているからな。時間もあるし、やっておくか)


 

 さっきよりちょっと時間は進んで今は、五時十七分になっている。

 とはいえ、外はまだ暗い。



 《オリジン》は《セカンド》より戦いや、諍いが多いらしいということを進はメモリーから教えられていた。

 

 そこらへんに不良がいる場合もあり、祭りや、行事の時でさえも夜遅くや、朝早くだとさらわれることもあるそうだ。

 そのため、こんなにも暇だとしても、進は家の中でひたすら我慢するしかないのだった。


 よほど腕に自信がある、A級、やS級と呼ばれる人間や、大人たちは出歩くこともあるらしいが、進は自分の力量をそこまで思ってはいないし、A級でもS級でもない。


 いまはまだ、ただの一般人Aだと自負していた。


 ふぅ、と息を吐きだし、最後の深呼吸を終わらせた進は、トントン、と軽くジャンプする。

 

 体のだるさは消えて、ようやく、新しい世界での新しい朝が始まったんだな、と実感するまで至ることができた。

 グッ、と体を伸ばした後には柔軟体操。



(体を柔らかくするといろいろとけんかの時に役立つ)

 


「よし、いつもの日課完了。こっちでも続けていけるかな?」


 

 そんなことをつぶやきながら、進は《ウエポン》を試そうと手を、グーパーしてみる。


 メモリーによって分けてもらった知識によると、《ウエポン》を使うには、《能力の核(オーブ)》と呼ばれるところから全身に流れるものを制御しなければならないらしいな、と進は心の中で反復してつぶやく。

 

 

 わかりやすく言うと、《能力の核(オーブ)》というのは魔力のようなものだ。

 

 

 そして《ウエポン》という魔法を使うためには《魔力制御》を覚えろ、ということだろうと進はオタク脳をまんべんなく使って考えた。


 

 また、メモリーは進に《オーブ》は《万能元素》ともよばれ、この世界の空気の半分はそれで満たされていると教えてくれた。

 


 他の元素のように周期表に収まらず、状況と環境によってその性質が変わってしまう特殊な元素。

 

 上記した通り《ウエポン》にも《オーブ》が使われるが、その性質が一つなのはそれがその人の体から放出される、という固定的な条件があるからだ。


 

「……まったく、無茶苦茶な。まぁ、ありとあらゆるファンタジーの主人公が頑張ったことだ。彼らの心理描写をもとにすれば、案外楽なんじゃねぇの?。」



(そう思った時期が、確かに俺にもありました。結果、そんなわけありませんでした。人生が、そんな簡単なヌルゲーなはずありませんでした。サーセン)

 


 心の中でどこかの誰かさんに訳も分からず謝った進は、ふぅとため息を漏らしながらつぶやいた。



「で、ですよねぇ。そんな簡単に使えてたら、こっちがびっくりしとったわ」


 

 そして二時間ほどたった午前七時四分。

 いまだに何の気配もない自分の能力に苦笑を含めながら進は再びそう思った。

 

 そもそも、今まで感じたことのない感覚を手探りで探す感覚というのが進には分らなかった。

 

 それはたった一人で、自分の第六感を開花させるようなもので、つまりほぼ不可能にすぎない。

 そんなことを進はとっくのとうに悟ってしまっていた。



「……実際に《ウエポン》を使っている人のなんかを見たらいいのか?。百聞は一見に如かず。って、ことで」


 

 ということで、と一つ前置きをこぼして進が取り出したのはユー●ューブ。

 現代人が、動画を視聴するなら、これでしょ、と進は例の赤四角に再生マークのついてあるアプリを立ち上げる。


 こっちにも一応存在するらしいと進は不思議なものを見るような目で、見慣れたそれを見た。



(つーか、おれのスマホが勝手にこっちの世界の機種になっている件)


 

 どうやらこれも、メモリーが用意してくれていたらしいと理解する。

 さすがにあっちのスマホは使えなかったか、ということも同時に。



(ん? 何だこれ。メッセージ? 契約が更新されました? 三万Etpが支給されました?)



 進はなるほど、お金は《pt(ポイント)》制になっているということらしいと知った。

 

 実はメモリーから与えられた基本的な知識の中に入っていてそれは分かったが、いったいptの前のEは何なのだろうかと気になった。

 そう思って『Etpとは』と調べてみる進であった。


 わかったことであるが、なるほど《Enn poinnt(円ポイント)》の省略でEtpらしい。



(つまり、普通の日本円の一円と1Etpは変わらない、っと。リョウカイ、リョウカイ)


 

 分からないことが分かったおかげで本題に戻れそうだ、と進は思った。

 

 動画配信サイトに戻り、検索欄に《ウエポン 使い方》と打ち込む。

 進は兵器やゲームについての詳細は出てこないことに世界の違いを感じた。



(流石にな)

 


 そもそも《オリジン》と呼ばれるこっちの世界では俗に、兵器と呼ばれるものはあちらほど存在しないという知識を進はメモリーから受け取っていた。


 おそらく、そんなに高性能な兵器を作るよりも、銃と《ウエポン》を持った人間を戦場へ送り出したほうが効率がいいからだろうと進は考える。

 

 それくらい、二つの世界はかけ離れているのだ。

 

 

 日本人らしい例を出してみよう。

 


 1945年8月6日と9日。

 


 この日がもし何の日かわからないのなら(それがもし、小学校三年生以上なら)歴史の教科書を広げろと言った方がいいかもしれない。

 

 ……そう、《セカンド》で広島と長崎に原子爆弾が投下された日だ。

 それがこの世界には存在しなかった。

 

 代わりに、だろうか。

 どうやらこっちの世界では、何の前触れもなく、住民の過半数以上が原因不明の身体の突然の爆散で、死んだらしい。

 

 その後、処理が追い付かなかった死体や、血液のせいで病が流行し、その後も、関係者がどんどん死んでいってしまったらしい。


 何が原因なのか解明されたのは最近で、その正体はガス爆弾に偽装されたようなウエポンの圧縮体。。

 

 どちらのほうがましだったか?

 そんなことを比べてはいけない。

 

 どちらにしろ、数えきれないくらいの人間が亡くなったことには変わりがないのだから。


 話がずれにずれまくったな、と進は思う。

 

 本題に戻ろう。《ウエポン》についてだ。



(へぇ、魔法陣。とかは存在しないんだな。詠唱らしい詠唱はないけど、無詠唱も逆に非効率……っと)


 

 ゲーマーの思考だろうか。

 進は、どこか攻略本を見ながらキャラクター操作をしているような感じだな、と思った。

 

 ちなみに、普通攻略本には頼らない彼でも今回はお手上げである。



「ん、じゃぁ、こういうことか。……ちょっとまだ不安はあるけど。《錬成》。っと、お? 成功したのか?」


 

 彼の前に石でできた剣……《短剣(ショートソード)》が《錬成》された。



「おぉ~。って、刃の部分まで石だと、全然格好良くないな。つーか、石だと全体的に格好悪いな。鉄にしてみるか。《錬成》っと。オーケーオーケー。じゃあ持つ部分は手に負荷がかかりすぎないように……っと」


 

 この世界では、銃刀法というものが《セカンド》ほど厳しくはない。

 銃はだめでも、刀剣類なら許されている。

 

 それを明らかに脅しや、犯罪などに使ったとしたら話は別だが、自己防衛や他人を助けるために使い、最悪相手を殺してしまっても罪は重くないらしい。

 

 犯罪を起こそうとしたやつが悪い。

 それ以外は関係ない、ということだろうか。



(いや、《セカンド》の日本じゃ考えられないことには変わりはないか)

 

 進はそう考えてから、意識を手元に戻す。



(本当はステンレスとかで作ったほうがいいのかもしれないけど……。まぁ、《鉄の短剣(ショートソードFe)》の完成だな。あーとーはー、さやが欲しいところだけど……)


 

 早速、さやを《錬成》してみたが、微妙に大きさのずれが生じてしまった。



「ありゃぁ、なんでやねん。ちゃんと大きさ同じように定義づけていたはずなんやけどなぁ」


 

 若干エセ関西弁っぽくなりながらも首をかしげる進。

 おそらく、誤差が生じるのはまだ《オーブ》の操作能力が低いからだろう。



(こりゃまた、めんどくせぇ《能力(ウエポン)》を持っちまったなぁ)



 一夕一朝ではいかないのが《錬金術師》なのだろう。

 ほかにできることも試してみた進だったが、やはり、微妙な誤差は生まれてしまった。



(……細かいことをするには、訓練が必要そうだ)

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