第2話 あるいは《日常》の存在しない物語
幸いストックはあるから、いっぱい小説をいじれるね!
どうか、これからもよろしくお願いします。
それくらい天智見広という人物は、進にとって……。
(なん、だ? そこまでして俺があいつを追い続ける理由は、見つけ出そうとする、意味は? いったい、何、だ?)
進には分からない。
進には自分がどうして彼の影を追っているのか、全く分からなかった。
少なくとも進は、そう感じたはずだった。
そもそもいくら親友だからと言ってここまで執拗に追いかける必要があるのかもわからなかった。
(ちがう。見捨てるなんてやっぱりできねぇ。あいつだけは。あいつを親父と同じみたいに俺の前から消すなよ。神様)
一人で抱え込んできた。
表には出さないようにしてきた。
心に閉じ込めてきた。
進の思いは周りには気づかれなかった。
否、目の前にいるメモリーという例外中の例外を除けば。
そんな進をメモリーは見る。
「……やっぱり、彼の記憶は邪魔になる……か。天智見広……天智家の血筋はいったいどこまで世界そのものに影響を与えるのやら」
メモリーはそうつぶやいた。
そして何かを考えるようなポーズをし、その後、進に申し訳なさそうな顔を向けた。
その後も何か迷ったように顔をゆがませたが、意を決したように進の頭に手を向けた。
進が、意識を失いどさりと地面に落ちた。
「……ごめんね進君。あなたに迷いを生ませる人間がいるのなら、その記憶は必要になるまで、私のほうで預かって……っ?! 何なの、これ!」
決して失敗してはいないはずだった。
メモリーにとってそれは得意分野だったから。
ではどうして。
まるで、何者かに介入されたかのような。
《行間》
(ここは、どこだ? あぁ、俺は寝ていたのか。この果てしない図書館の中で。……ここは夢じゃないのか)
いったいどれくらい眠っていたのだろうか、と無意識に進は考えた。
太陽も月もない、ただ真っ白なこの空間が輝いているだけのここではそんなことは分からない。
時など、あってないようなものだから。
「起きたね。……で、早速で悪いんだけどあなたをここに呼んだ本題に入っていいかな?」
(いい、ぞ。問題、ない)
「ありがと。じゃぁ、というか、まぁ。君、数千年後の別世界に行くことになってるの」
(おう、テンプレ的なあれだな。異世界転移。いいぜ? 数千年後に……数千年後ぉ?! はぁ?)
寝ぼけながら答えようとした進はメモリーのその一言で目を覚ました。
(ちょっと待て、数千年後ってどういうことだ?!)
「大丈夫。技術自体は《セカンド》とだいたい同じくらいだから」
数千年という言葉の重みを、メモリーはその一言で済ませてしまった。
「《オリジン》のほうが戦争とかばっかりで科学技術っていうのが発展しなかっただけだから」
それはまた、進には反応しずらいものであった。
「建物とか高かったり、仮想空間的なのがすごかったりするのは大目に見てほしいけど。だいたいそっちと変わらないから」
そうくくりつけて、彼女は進をまっすぐに見た。
「やっぱり、《ウエポン》ありとなしじゃ、歴史の方向性が異なってくるしね。……それに、世界ができた順番的にズレができてるんだよ」
(い、いろいろ分からないことが多いんだが…、さっきからお前の言っている《オリジン》、とか《セカンド》……それに《ウエポン》って何なんだ?)
「あぁ、そっか。そこから説明しないといけないんだったね。忘れてた。いいよ、この私が直々に教えてあげよう」
(いや、なぜに上から目線? 助かるけども。そこを知っとかないと、絶対話についていけないってことが分かったし)
チュートリアルは大切であると進は思う。
何もわからずに進めるより、それを終わらせてからのほうがゲームを理解しやすいからである。
だから、めんどくさいからと言ってそれをスキップするのは間違っている、と進は勝手に思い込んでいる。
「OK、まずは《オリジン》と《セカンド》の違いからかな。《交差世界》ってわかる?」
(いや、よくわからねぇな。《平行世界》とは違うのか?)
「うん、まったく。俗に平行世界と呼ばれているものは、ありとあらゆる《IF》が連ねられているだけの同じ世界で、《交差世界》はその平行世界すべてに対して垂直に交わる全く別の世界」
(……アナザーワールドってことか?)
「うん。そして、一つしかない《交差世界》を《オリジン》、無数にある《平行世界》を《セカンド》って呼んでるの」
(垂直に、交わる世界ってのは?)
「すべての平行世界に関係していて、同じじゃない。平行世界内なら同じ人間は複数、それこそ数えきれないくらい存在するけど、交差世界はそうじゃない。ま、難しいから覚えなくてもいいけどね」
(じゃぁ、その《交差世界》の《平行世界》は……)
「うん、存在しない。交差世界に、もしもは存在しない。……あとは、《単一世界》っていうのもあるんだけど……。いや、まぁそれはいいか。とりあえず、《オリジン》と《セカンド》について覚えてくれていたらいいよ」
(そっか。ん、じゃあ、《ウエポン》ってのは何なんだ? 直訳すると、確か兵器って意味だったよな)
「うーん、多分その訳し方で間違っちゃいないよ。そっちの世界で言うところのスキルってやつだね。《ウエポン》は」
(スキル……。あの、異世界転生系のラノベでよくあるあれか?)
「そうだよ、それ。生まれた時から人間が必ず一つ持っている力。それが《ウエポン》」
(《ウエポン》……か。じゃあ、ウエポンのない《セカンド》に住んでいる俺は、どうなるんだ?)
もちろん、進たちの住んでいた《平行世界》こと《セカンド》にはそんなもの存在しない。
そもそも、超能力や魔法というものが空想上の存在とされているような世界だ。そんなもの持っている人間がいるはずもない。
この話自体、『天智見広』の神隠しという前例がなければさすがの進でも信じられなかっただろう。
「大丈夫だよ進君。《能力》は遺伝するものじゃないし、あっちの空気に触れれば自然と開花するよ」
続けて、君のウエポンは《錬金術》らしいね、とメモリーは言った。
(……わかる、のか?)
「私は、ね。進君、この本たちはね、世界中のありとあらゆる知識なんだよ。だから永遠に増加し続けるし、なくなることはない。未来のことは完全には分からないけど、相手の持つ能力くらいはあてられる」
知識は武器。
どうやらこのメモリーという少女はそれを実現化させているらしいということを進は知った。
(《錬金術》、ねぇ。《万能型》、もしくは《創造型》ってところか?。なんにせよ直接的な戦闘が起こったとしたらちょっと不利……、いや、使い方によっては有利、か? ま、面白そうな《ウエポン》だ)
「オッケー、オッケー。ほかの知識は、脳に直接叩き込むからいいとして……」
(は? 脳に直接って、え? どういうこと? 何するの? ……いや、ちょっと待てって、落ち着け。早まるな!)
トン、と進の頭の上にメモリーの右手が置かれた。
それから彼女はにやりと意味深に笑う。
「大丈夫、大丈夫。痛くないからねぇ。ちょっと頭がクラッとするだけだから。……多分、おそらく」
(最後のやつのせいで安心できねぇよ。つーか、表情から俺は安心できないのですが。怖いよ!!)
「本当の本当に大丈夫だから。そんな数千年分の記憶とか、そんなんじゃないから。よっと」
クッ、っとそれに力が込められた。
どうやら知識が受け渡されたようだと理解する。
進は目を見開いている。
当たり前だろう?
一か月や二か月かかって覚えることが一瞬で頭に入ってくる感覚なんて、進は今までに経験したことがないのだから。
「どうどう? 別に、廃人になったりしなかったでしょ? すごいでしょ。」
(なんていうか、あれだな。……不思議な感覚がするっていうやつ。……《錬金術》ってこういう)
「にしし、結構すごいでしょ、あなたの《ウエポン》。いいよね《完全万能型》」
ニッ、と笑う彼女だったが、次の瞬間にはこの部屋、いや、この《大図書館》が薄れ始める。
最初、進は目がおかしくなったのか、と思ったがどうやら違うらしい。
「……時間だね。そろそろお別れの時間だ。まぁ、これから会えなくなるわけじゃないし、私は寂しくはないや。じゃぁね、進君。《交差世界》を楽しんでね。私はきっと_______________________」
《行間》
進のいなくなった空間でメモリーはつぶやく。
「今度は必ず追い付いて見せる。……前回と同じ、敗北はしない」
この少女は分かっていたのだ。
言野原進、彼の記憶から____と____は失われていないことに。
(それに、イレギュラーなのは《無限》……か)
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