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第28話 《錬金術師》の戦闘

週一更新再開です。

 目が覚めると、そこは数多くの機材に囲まれた薄暗い場所だった。

 

 何を言っている、と思う人も多いかもしれないが進の現状はそんな感じだった。

 体は拘束されていてかろうじて動かせるのは首くらいだ。



(……あれから、何があった?)

 


 目の前にいる男を倒した瞬間に後ろから何かされたのはわかった。

 何をされたのかまではよくわからなかったが。

 

 しかし、と進は考える。

 《ハンター》はどうして彼を生かしているのだろうか。



(……殺すことが、目的じゃなかった?)

 


 捕虜にされたのだろうか、と進は思った。

 いいや、捕虜というよりは人質か。

 

 そのメリットは思い浮かばなかった。

 確かに彼が攫われれば《流星学園》や《警察》は動きを見せなければならないが、



(だとしてもどうして俺だ? だって、俺は一番この世界の人間と関わりのない人間だぞ?)

 


 それが進にはわからなかった。

 疑問として残っていた。

 

 よくよく考え直してみれば、その世界でたった人が一人攫われてたくらいで、そんな騒ぎになるはずがないのに。



「……目が覚めたか、言野原進」

「お前は……」

 


 進がそんなことを考えていると、少し先にあった扉の向こうから男が入ってきてそう、進に話しかけた。

 

 進はそんな男に言葉を返す。



「《ハンター》……か?」

「あぁ、そうだよ」



 対する相手は何も包み隠さずにそういった。

 隠す必要性を感じない、ということだろう。

 

 進と同じ黒の双眸が無機質にそちらを見ていた。

 進はゾッとした。



「気分はどうだ?」



 そんな進に相手はそう聞いてきた。



「あんたらのせいで最悪だよ」



 それには、精一杯の皮肉で返すと、ハッそうか、と男は返してきた。

 

 物静かなこの部屋の中で二人の会話は虚しく響く。

 声自体が冷たさを帯びるような感覚に陥ってしまう。

 

 進は、どうにかしてここから抜け出さなければと思ったがこの調子だと難しそうだ。

 代わりに最も聞きたかったことを聞いてみる。



「……俺を殺さないのか?」



 そう聞くと、相手は薄く笑った。



「俺がお前を殺したいのは山々なんだけどよ。どうも、上からの命令でお前を殺しちゃいけなくなってるんだ。だからこうして拘束しているわけだ」


(……上? つまりこいつらはただの下っ端ってことか。いい情報は持ってなさそうだな。しっかし、)

 

 

 拘束とはどういうことだろうか、と進は考える。

 《ハンター》の人間が進の《ウエポン》を把握してないなんてことはあり得るのだろうか。



(だってこんなベタな拘束、《変形》させれば一発で抜け出せるわけだし)



 進は普段、《錬成》と略しているがあくまでもそれには《変形》とその他諸々が含まれたものである。

 そもそも論、《錬金術》という能力さえ知っていればそういうことも可能だと、一発で理解することができると進は思ったのだが。



(別に、この世界に《錬金術師》ってのがいなかったわけじゃないし)

 


 《セカンド》と違うからと思ったのだが、それはない。

 この世界では逆にオカルト的なそれはあちらよりも研究されている。



「あんたら《ハンター》はいったい何が目的だ。どうして俺を殺さずに生かしている?」  


「それに対しては黙秘権を切らせてもらおうか。いいや、俺は知らないと言った方が正しいか?」

「やっぱりあんたらは下っ端の構成員か」


「ま、そんなところだ」


 

 進は拘束されながらも、チッと舌打ちを返した。

 意識を失っている間は気にすることはなくても、意識が戻ってくると段々とこの拘束具は鬱陶しくなってくる。



「あぁ、そういえば上はこんなことを言っていたような気がするなぁ」



 嘲笑うかのように、《ハンター》は言った。



「記憶をもらっていく、とな」

 


 唐突なその言葉に進の思考は空白を生んだ。

 理解が追いつかなかった。



「……記憶をもらっていく? 何をするつもりだ?」

「いいや、正確にはもう終わってるよ。その作業は」


「え、いやでも。全然何も変わっていないけど……」


 

 メモリーによって消された、転移前の記憶はいつも通り朧げに思い出せるし、《オリジン》にきてからのことも、進は正確に思い出すことができた。

 


 何一つ、忘れてなどいなかった。



「記憶をもらうのに、個人の記憶の有無は関係ない。記憶は失おうと、体のどこかに刻まれている。なくなる、なんてことはない。……お前の場合はもっとな」

 


 どういうことだ、と進は呟いた。



「……いや、待てよ? 記憶?」



 進は、目を見開いて相手の方を睨んだ。



「まさか、あんたらの狙いは……。俺個人でも、S級でも、表社会でも何でもなくて……、《世界の記憶(メモリー)》だっていうのか!」


 

 反響した声は、普段の数倍まで跳ね上げっているような気がした。

 進は、その拘束具の可動域全体を使って相手に詰め寄る。



「……あんまり動かない方がいいぞ? こちらからの指示でお前の大切な友人を殺すことだって可能なんだ」

 


 そんな進に対して《ハンター》がそう言った。

 そうして____ドローンのだろうか___映像を見せつけてきた。

 

 リアルタイムのものではないだろうが、手も足も出ないと言ったふうな映像だ。

 しかし、進が本当に目が入ったのはそんなことではなかった。



「一週間も立っていたのか?」

 


 映像の右下に表示されていた日付と時刻の方だった。



「嘘だろ? 俺は一週間も寝ていたのかよ……。馬鹿野郎」

「……意外だな。彼らがやられていることには驚かないんだな」

 


 敵の方が驚いたようにそう返してきた。

 進は一度目を上げると言葉を返した。



「あんたらが、S級に勝つために作ったやつなんだろう? だったら、ちょっとやちょっとあいつらが苦戦したところで驚きはしないさ」



 それでも進は久しぶりに戦慄した。



「仲間のやられるところを見ても、戦慄こそするものの恐怖はしない。それが、言野原進、か」

「あぁ、そうだよ《ハンター》。俺は意外と冷淡なんだ」


「いいや、お前は冷淡なんかじゃない。後ろも前も見ていないだけだ。何も感じないんじゃない。感じようとしないだけだ」


「……意外と、ちゃんと理解してるじゃないか」



「当たり前だ。お前は我々の《ターゲット》だったのだから。ハハ、これで詰みだ」


 

 その言葉に、進は下を向いた。

 諦めたのか。いいや違う。

 

 では何なのか。



「カッハハ、アハハ、アハハハハ。詰み(・・)だって? 何言ってやがる」


 

 進は、笑っていた。

 まるで狂ったかのように。

 

 《ハンター》の方はついに頭がおかしくなったか、とでも言いたげな目で見つめ返してきた。



「あぁ、いや。一応詰んだのか。俺たちという面では。けどさ、それはただのチェックだ。チェックメイトじゃない」


 

 相手は案の定進に対して疑問を返してきた。



「どういうこと……」

「テメェは、どうして俺を団体だけで考える? ここは別にルールに則ったチェスの盤上じゃないんだ。すまないけど、ここからは自己中でいかせてもらうぞ?」


 

 ガシャリと《変形》させた拘束具を進は床に投げつけた。

 相手はそれを見てもちろん目を見開く。



「貴様! 仲間がどうなってもいいっていうのか!」



 それに対しての進の答えは決まっている。



「仲間がどうなってもいい? そんなはずないだろう?」

「では……」


「それでも、俺は俺を優先する。あいつらなら、どうにかするって信じてるからな」


 

 ウエポンなどそんなもの関係ない、一発の拳が相手を襲った。

 それを相手は慌てずに最小限の動きで避けた。



「へぇ、あんたも体術でついて来れるんだ」

 


 皮肉でもなく進は本当に感心したような口調でそう呟いた。

 やはり裏社会にもなると、表社会のように自身の《能力(ウエポン)》だけでは生きていけないのだろうか、とそんなことを考えた。

 

 相手は、その言葉を挑発とは見なかったらしい。

 余裕のある表情で、切り返してきた。



「シュッ!」

(……ここで柱を、《変形》!)

 


 その錬成によって地面から、柱が生えてきた。

 進がやったのは奇しくもみことを襲った《ハンター》と同じようなことだった。



「クソッ。鬱陶しいな《錬金術》ってのは!」



 進はそのまま、いつも通り《短剣》を《錬成》して降りかかるが……、ガキン、とそれは相手の肌に弾かれた。

 相手の肌がまるで岩か鉄かのように硬くなっていたのだ。



「なっ」



 切り込めずに、弾かれた短剣と腕が少し上にはね上げられた瞬間にそこを掻い潜って相手の拳が飛んできた。



「ガハッ!」

 


 それで撃ち抜かれて、進は肺から空気を漏らした。

 人間の拳で出ていいような威力ではなかった。

 

 いいや、素手では。



「《身体強化系》……か!!」

「正解だ。正確には《硬化系》。自身の耐久力を極限まで高めることができる能力だ」


 

 だから、最初の剣撃も通らなかった。



「そっちこそ、面倒臭い」

 


 遠距離攻撃がないからいいものの。

 進に相手に勝つ決定打がないというのは変わらない事実だった。

 

 それは、まさに鉄壁。


 それでも、進は自身の攻撃を止めることはない。

 弾かれても弾かれても、延々と攻撃を続ける。



(そうやって、相手の《ウエポン》の継続時間が途切れた時に勝負を決める!)

 


 そう思った進だったが、相手がそれを見透かしたような目をしていたのを見てゾワリと鳥肌がたった。



「なぁ、《錬金術師》こういうのを知ってるか?」


 

 そう言って笑った相手の手の中には、



(手裏……剣?)

 


 それが、投げられた。

 直線的に投げられたそれを進は回避するが……



「?!」



 クイッと、それは途中で曲がって進の方向へと飛んできた。

 たまらず、進はそれを剣で撃ち落とす。

 

 どういうことだ、と驚きに満ちた表情で。



「……《硬化》の能力じゃ、なかった?」



 それに対しての答えはこうだ。



「いいや?」



 進は意味がわからない、と言ったふうに首を振る。

 それじゃぁ、敵は今何をした?



「《硬化》だけが、その《ウエポン》の能力じゃなかった?」

「それも、否だ」


 

 それならば、本当に何なのだ。



「まさか、《ウエポン》は人間一人につき、一つしか発芽しないという大前提を覆した?」



「是、だ。そもそも、《能力》の仕組みがわかっているのならそれを無理やり発芽させられるような環境を整えてやればいい」


 

 それこそ狂っている、と進は思った。

 つまりたった能力一つを開花させるためだけに、人体実験を行うということだから。



「まぁ、これは元々世界が行なっていた実験を我々が引き継いだだけなのだがな。あぁ、我々が完成させたわけではないぞ? 開発したのは政府だ。まぁ、その人間は化け物になったがな。ハハッ」

「テメッ」

 

 

 進は知っていなかったが、そういうことがあったことにより全世界で人工的な《ウエポン》の開発は禁止されている。

 それでも、裏社会までその規制が効くかと言われればそれは否であるが。



「《第二能力(セカンドウエポン)》。俗にはそう呼ばれるものだ」


 

 さらにもう一度、手裏剣が投げられた。

 やはり、直線的に投げられたそれは進の方へ侵攻方向を変えてきた。

 

 それを進は撃ち落とそうとするが、



「そんな単純な攻撃でだとでも?」

「ヒィ!」


 

 拳との、マッチした攻撃に進の声が裏返った。

 かろうじて二つとも避け切った進は一度地面を《変形》させ、壁を作る。



(あっぶね。何だよ《セカンドウエポン》って)



 どうするか、と思案する。

 このままだと、打てる手に有効打を見出せずに進は負ける。

 

 要するにジリ貧ということだ。

 《錬金術》という特性上そうなってしまうことは元々わかっていたことだが……。



(ん?)


 

 数分考えたあと、進は壁に阻まれているそこにあったものに手に伸ばした。



(これなら……)

 


 そう思った時、相手が壁を突き破った。

 その絶対的な防御力で延々と壁を殴り続けたのだろう。



「さぁ、これでテェックメイトか? 《錬金術師》」

「あぁ、チェックメイトだよ。《ハンター(クソ野郎)》」


 

 パチン、その空間に向かって進は炎ともいえない火を投げ入れた。

 そのまま、壁を変形させると外へと避難した。



「流石に、死ねよ。速攻で作った《水素爆発》だ」


 

 ドン、とそこが吹き飛んだ。


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