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第1話 《日常》の壊れる物語

 大前提として述べておこう。

 

 これから始まるのは、とてつもなく長い物語でこの序章がどれだけの意味合いを持つのかそれは誰にも予想できたものではないだろう。

 

 否、敵はもう物語の《裏側》で動き始めているのだった。

 

 

 すべての授業の終了後。

 SHRショートホームルームの始まる前に持ち帰る荷物と持ち帰らないものを分けていた進に隣の席の人間が声をかけた。

 


 茶髪に黒髪の混ざった髪をしている幼馴染だった。



「ん、そっちから話しかけてくるなんて珍しいな、どうした急に?」

 


 彼女の名前は小都里奈。

 昔からの腐れ縁という腐れ縁で結ばれて、進と今回も同じクラスになった人間だ。



「それだと進が私にずっとアプローチしてて、そんな中私が声をかけて喜んでるけど必死に落ち着いた風を装ってるラブコメの主人公っぽいイメージに頭の中で変換されるけど?」


「いや、長い長い長い。もっと、ショート、ショーター、ショーテストに。この場合は最上級でショーテスト。つぅか、俺とお前は今までもこれからもラブコメルートに入ることはないだろ」


 

 そう、彼らの関係はいつだって(・・・・・)幼馴染だった。

 それ以上でもそれ以下でもない。

 ……少なくとも彼らはそう公言している。



「しかし、そういいながらも進は私を家の中へ連れ込み、服を……」

「ちょっと待ってね。何そのいけない同人誌みたいな展開は。それ以上はアウトだろ」


「え、いいじゃん。別に、ただ服を着替えに言っただけだよ? 何変なことを考えてるの、変態?」

「くっそ、そういうところ面倒くせぇ。……つか、よく考えてみたらお前、そういうの興味ないだろうしな」


「いや、あるけど。割と興味津々ですが何か?」

「嘘でもいいから否定しろよ!」


「なぜ?」

「興味があってもいいけどさぁ。なんか触れてはいけないものに触れてしまった感じが半端じゃないんだよ」


 

 そう言いあって、二人はくくっとわらう。



「で、マジで何の用だよ。学校でお前が話しかけてくるなんていつ振りかわからねぇし」


「……別にいいでしょ。私がどこで声をかけても。って、ストップ。進、宿題とか何もメモしてない。夜に電話されるのもめんどくさい」

「……え、あ、すまん。やべぇな、なんかぼーっとしてた」


 

 進ははぁとため息をついた。


 進は今日の間ずっとこんな感じだった。



(授業には教科書を忘れていくし、今みたいにいつもやってることを忘れてぼーっとしてしまう……)


「大丈夫? 何かにとりつかれたような顔をしているよ? いつもの顔じゃない。」


「っち、なんだこれ。何なんだ? この喪失感? というよりかは……。意識していないと自分が消えそうだ。まぁ、俺が消えることになってもこの世界には何の未練もないがな」


 

 冗談交じりに放った言葉あながち間違ってはいなかったのかもしれない。

 これから起きる出来事の前置きとしては。


 その夜の話だ。

 言野原進という人間がこの世界から退場したのは。



《行間》


 

 その夜、進は相も変わらずぼーっとしてしまうことが多く何事にも集中できずにいた。

 

 ちょうど満月の夜で、もしここが田舎だったのなら月が明るい夜、と表現されたのだろう。

 

 だが、ここは東京。

 現代社会において大都会と呼ばれる場所であり、いつでも町は明るい。

 

 どこかで、ガタンゴトンと電車が線路を走る音が進の耳に歪に届いた。

 静かな夜など、いつまで起きていようと訪れない。



(今日は全体的に俺、おかしかったよなぁ。いや、おかしいのはいつものことか?)


 

 そんな心の声を進は笑い飛ばしながら、それとは反面ハァ、とため息をつく。


「俺が主人公だったら、多分この時点で異世界転生にあってかわいいヒロインと出会ってるんだろうな。そうなってないってことは、俺はしょせん誰かの物語の脇役でしかない……か」


『多分本物の脇役太郎君は進みたいなことを考えないと思うけどね。ほとんどの場合』

「誰?! って、電話? あ、里奈か。すまん、取り乱して。つか、俺、いつ電話に出た?」


『え、さっき私が電話したら三回くらいでつながったけど……、え、無意識? 何、そんなに私のこと好きだったの?」


「電話越しでもわかるぞ。お前、絶対今ドン引きしてるだろ。あと何? なんで最後のところだけちょっと感情こもってんの? え?」


『フン、進ったら自意識過剰なんじゃないの。その幻想からぶち壊しとく?』

「ちょい待て。そういうネタはよくないと思う。著作権でーす」


『でも、物語の途中にパロディは必要だよ』


「いや、そうかもしれないけどね」

『けんかと賭けとバカのない世界は退屈じゃん?』


「分か……らねぇわ! それを俗に平和って呼ぶんじゃないでしょうかね! そっちの道に行こうってんならなぁ、悪いけど、ここは通行止めだ」


『結局、パロディに走ってんじゃん! っと、ところで進君』

「ん、なんだよその何か言いたそうな声は。はっきり言って気持ち悪いぞ?」


『ヒドッ! ま、いいや。問題です。進と私と見広君とクラスメイトの全員が誘拐、および捕獲されました。さて、この中に嘘をついてみんなを裏切った人間がいます。それは誰でしょう』


「……あ、そんなの。一番みんなを裏切りそうなやつ……、俺しかいないだろ。それで、どうだ」




『残念、不正解だね。この場合はノーヒント。つまり問題を出した私が嘘つきで裏切り者だよ』




「意味わかんね。でもまぁそうだな。……みんなを切り捨てられそうな人間は俺とお前以外にいなさそうだしな。あ、いや。ここには見広もいるのか」


『フフッ、進はもう大丈夫だもんね。これから何が起こっても。……おやすみ、私の進』

「おやすみ。最近ヤンデレ気質に目覚めそうな俺の幼馴染の里奈」


 

 最後にそう交わして二人は電話を切り、進はいつもと同じ時間に目覚まし時計のタイマーが鳴るようにセットして、その意識を手放した。


 

 さよならの言えない別れなんて、この世界にはいくらでも存在するのだから。



《行間》



(ここは、どこだ。あるいはどうしてここにいる)



 意識がもうろうとしたまま進はそう思う。



(おれはことのはらしん。しゅっしんはにほんのしゅと、とうきょう。じゅうななさい。いまおれのいるべきばしょはおれのいえのべっとのうえだ。ここじゃない。もどらないと、あしたもはやいぞ。……ここ、どこだ、おれの知らないところだ)


 

 やっと、周りを理解できるくらいに脳が追い付いてきたのを進は感じた。

 でも結局、何が起こっているのか彼にわかるはずもなくて茫然したままあたりを見渡した。

 


(じゃあ、本当にこの場所は何だ? 恐ろしいくらいに大量の本がある。図書館? いや、そんなにちっぽけな場所じゃぁない。本の終わりが見えない。この本棚はいったいどこまで続いている? いや、この本棚に終わりなんて存在するのか?)


「存在するよ。まぁ、どんどん遠くなってはいるけどね」

(は、誰だ? ここがどこか知っている人間か?)



「……誰、か。やっぱり進君は私のことを知らない……か。当たり前だよね。《セカンド》の人間が、《オリジン》の知識を持ち合わせているはずがない。うん、私は《メモリー》。この図書館の管理者」


 

 本棚の隙間から黒髪の少女が出てきた。


 日本人らしい顔立ちだ、と進は思った。

 同時に、どこか住んでいる次元が違うとも。

 

 そんな彼女は手に持っていた本を棚に戻し、進にこっちにおいでよ、といった。

 

 彼女が進をどこに招こうとしているのか予想はつかなかったがそれよりも、何か神秘的なものを見て気がして。



(夢、か? いや、夢ならこんなに意識をはっきりと保っているのは難しいはず。……じゃぁ)



 半信半疑であったが、彼女についていきながら進がそう考えていると、まるで心を読んだかのようにメモリーと名乗った少女は言った。



「そういえば、君にはまだここがどこか説明していなかったね。いま、進君と私のいるこの図書館は、ある一種の《精神世界》で、その中でも《神世界》によった場所。あ、あと、私は心を読めるから。」


(……自慢げに話してくれたのはいいけどよぉ、半分くらい何言ってるかわからなかったな。《精神世界》に《神世界》って……ファンタジーですか? 中二病ですか? てか、マジで何なんだこれ、新手の誘拐か?)


「そうだね……まぁ《神隠し》って言ったらわかるだろうけど。そうだね、半分誘拐に近いかも。だって君は今、《セカンド》に存在しないし」


(神……隠し?。……一般的にそれにあった人間ってのはここに来るのか?。例えば、天智見広とか……)



「天智……見広? 天智未来じゃなくて? ん、えーと。天智……、あぁ、魔を喰うもの(マナイーター)のことか」

(あ、あいつのことを知っているのか? どこにいる、その反応だとここにはいないんだろう?)



「うん、ここにはいないね。ここはあくまで、通過点だから。でも、彼はここさえも通らなかったらしい」


 

 言野原進は天智見広を探している。

 それは間違いない。

 

 誰に何を言われようとあきらめきれない。

 


 心のどこかでもう会えないとはわかっていたし、そもそもこれから自分の《物語》に彼がかかわってくることはないということも感覚的に理解していた。


 この世界は創作の世界と違って奇跡なんておこるものじゃないし、テンプレなんてものもないのだから。


 

 それでも、彼を心の支えにするくらいはいいだろうと進はある意味すがるような思いで必死に言葉を探した。

 

 それくらい進にとって天智見広という人物は……。

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