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第23話 《呆気なく》

《如月みこと=エンゲージ終了》


《言野原進=エンゲージ終了》


《目標捕獲》

《全目標達成》



「……し……ん」


 

 如月みことは、薄れた意識に中でそれでも意識を失わないようにしながら、うめくように呟いた。

 今の瞬間、何が起きたのだ、とみことは両目を動かした。



「《ハンドガン》?」


 

 そこにいたのは、銃を構えた一人の男だった。

 

 顔は上手く識別できないが、こんなことをしている時点で、一般人じゃないのはわかりきっている。

《ハンター》か、あるいはまたべつの共犯者だろうと予想が付く。


 

 だから、それだからどうした、とみことは歯ぎしりをする。

 力が、入らない。


 

 肩の痛みから見るに、軽めで細い麻酔銃でも撃ち込まれたか。


 ここにきて、みことは、もうろうとした意識が、薄れ始めたのを感じた。

 

 ヤバイ、と気が付いた時にはもう遅い。

 眠気とは関係なくやってくるそれに、たまらずNo5も意識を投げ出した。


 

 その瞬間、ズドン! と、爆音が辺りに響き渡った。


 

 ハンターら面々がみことの方を、ハッと振り向く。



「痛……、できるだけ弱くしておいたはずなんだけどなぁ」


 

 進との初陣から、みことがずっと使い続けている、一般的にして高火力の《災害》。

 それは、世界最速の光にして攻撃。


《落雷》を、自分の体に落としたのだ。

 

 電気は人の命を奪うものと同時に、AEDのように人の命を救うものでもある。

 雷は、ほとんどの場合、前者に分類されると思うが。



(意識を完全に手放す直前に自分で自分に攻撃して、それを相殺しない程度に打ち消す、か。我ながらやばい方法をとったものだな)


 

 みことは、失笑した。

 そもそも、笑うことができるだけの体力が残っていない、というのもあるが。



「No5?! まだ、意識を保っていられてのか!」


 

 銃を持った方が狼狽えている。

 どうして、と言いたいらしい。


 

 カハッと、みことは息をこぼした。


 

 おおよそ、声を出そうとして失敗したのだろう。

 それを見た相手は、みことを笑い飛ばす。



「ハハハッ、天下のS級様がこんなにもボロボロだぜぇ? ザマァ見ろ」


 

 みことは、そんな敵の言葉を聞く耳を持ってはいなかった。ズドン、と《落雷》が一発。

 

 最悪、周りにも被害が出かねない、殺気をもったさっきとはまるで異なるタイプの攻撃。

 そうしておいて、みことはジッと敵を見据える。



「なっ」

 相手は、言葉を詰まらせた。


 

 まさかここまで、如月みことがして来るとは思ってなかったのだろう。

 流星学園のS級において、一番好戦的じゃない性格をしているという情報を持っていたから。


 

 しかし、それには少し誤りがある。

 


 みことは決して好戦的じゃない、わけではない。

 普段は、確かに他のS級と比べれば、表立って行動することは多くないが、ただ動かないだけである。


 

 みことの《能力(ウエポン)》の性質上、こういうところでの戦闘は周りのことも考えなければならなくなるから。

 

 逆に、周りのことを一切考えなくてもいい戦場ならば、誰よりも好戦的まであったりする。

 あぁ、特に仮装戦闘スタジアムの中では。



「チィッ」

 という舌打ちとともに、銃声。

 


 とはいえ、普通では考えられないくらいの小さい音で。

 

 それをみことは、スイッと、流れるような動きで回避した。


 

 しかし、

「なんだよ、その目は」

 と、相手が呟いたのをみことは聞いた。

 


 みことの目がオッドアイになっている、わけではない。


 

 あぁなるのは、なぜだかは分からないが進だけだ、とみことは考えた。


 みことの場合は、ただ単純に、目のハイライトが消えていた。


 

 緑の両目に、黒が混ざったように感じるのは影がかかっているせいだろうか。

 

 銃を、相変わらず構えたままの敵が、そのままジリジリと後退を始めた。

 と、同時に進に殴られて、気を失ってしまっていた方の目が、うっすらと開いた。



「α15、目覚めたか」

「……α2か。状況は、どうなっている?」


 

 そう言いながら、あたりを見渡して。




「……嘘、だろ? どうして」


 


 α2も首を横に振った。



「どうして、No5があれを喰らってまだ立っていられるのかは、分からない」


 

 それに対して、α15は



「馬鹿野郎が」

 と、いった。



「俺が言っているのは、そういうことじゃない。」

 そして、つぶやく。掠れた声で、はっきりと。




「……撤退だ。あれには、《最高傑作(・・・・)》には絶対に勝てない!」


 


 そう言った瞬間だった。

 

 忽然と、二人の姿がみことの目の前から消え失せた。

 同時に、みことも限界を迎える。

 

 彼の意識もスッと暗闇の中へ沈んでいった。



 

 次にみことが気がついたとき、そこはゴツゴツとした硬いアスファルトの上ではなく、フカフカとした柔らかいベットの上だった。

 

 ツンと、鼻に来る臭いから病院に運ばれたのか、とみことは一瞬考えたが、どうやら違うらしい。



「あ、みこと。気がついたんだ」

 


 そばには、力無く笑うNo7、結がいた。

 みことは、現状自分がどうなっているのか、まだ理解できていない。



「痛ぅ。っと、すまんな結。ここは?」


「学校の保健室。道端で倒れていたから回収してきたのよ。本当は光も一緒なはずだったんだけど、今はちょっと用事で出かけてる」


 

 結は、そんなみことを心配しながらも、関わりすぎないようにと距離を保ちながら語っていく。

 話を聞くに、あの《ハンター》たちは、逃げていったらしい(・・・)



「……進、は?」

 

 

 みことは、ハッとしたように尋ねた。

 結は、目を逸らしながら答えた。



「進、か。私はよく誰だか知らないけど、少なくとも私たちがそこにたどり着いたときには、あなた以外は誰もいなかった」


 

 ドクン、とみことの心臓が、変に大きな音を立てた。

 そのせいで、撃たれた場所が、ズキンと痛み、顔を歪ませる。



「俺は、あいつを守れなかったのか?」

 


 そうして、みことはそう呻いた。

 その言葉に乗せられた感情は、後悔を自責以外になにがあるだろうか。

 

 そこでやっと結は、淡々とした言葉に少しの感情を込めた。



「ここで悔やんだとしても、もう何にもならないよ」

 


 それでも、棘のあるその物言いに、みことは突っかかりそうになったが、やめた。


 守るために一緒にいた自分が、それでも最終的に守ることができなかった自分が、目の前の少女に言い返していいことなんて、一つもないのだから。



「じゃぁ、どうすればいいんだよ」


「……これはあくまでも私一個人の考えで、必ずしも百パーセントとは限らないけどさ。彼は、殺されないよ。殺されない。それはあなたが一番わかってるんじゃないかな? No5」


 

 結はみことに意味深に会話を振ったが、みことは



「そうかもな」

 と、短く返すだけだった。



「うん、そうだよ。絶対」

 そう思うと楽になる、とでも思ったのだろうか。

 


 No7は微笑むがみことは逆に俯いていく。



「……《ハンター》どものクズに殺されることはないだろうな。それは、わかった。そうかもしれない。じゃぁそれならば、安心できるか?」

「……それは」


 

 結の方が言葉に詰まった。

 微笑みが消えたみことから目を逸らす。



「答えは、否だ。あいにくさま、お前の言う通り俺は《ハンター》について詳しい。なんなら、奴らの下っ端構成員なんかよりもずっと、な」


 

 みことの言葉に、結は言葉を返してきた。



「何をされるの? 監禁? 拷問? それとも……えっと」


「《人体実験》、もしくは《洗脳》。まぁ、進の場合は歳のこともあって前者だろうな」

 洗脳の方は、もう少し年齢が低かったとしたら行われていたと思うぞ、とみことは言った。



「その進っていう人が自力で帰ってくる可能性は?」

 


 結の問いに、みことは即答する。



「ゼロだ」



「っ……」

「と、本当なら言うんだけど、変に絶望してもらったら困るしな。おおよそ一パーセントとかその辺りだと思うぞ」


 

 あるいは、あの《オッドアイ》の時の異質さならどうにか。



(いや、あれはそういうのじゃないのかもしれない)

 


 みことは、自分の考えを否定した。

 結はそれを聞いて、そう、というと目を伏せた。


 一パーセントという数字を聞いたので、それがどれくらいなのかを考えているのだろう。

 みことは無感情にそれを見る。

 

 いくら考えても無駄なことだ、と。


 確率とは、あくまでも起こりうるかもしれない(・・・・・・)もの、であるから。

 仮に、それを百回繰り返したところで、結局最初は一パーセント。

 

 それが一度も成功しない確率は、約三十七パーセントだ。


 最良と、最悪はいつも隣り合わせで生きているのだ。




《行間》


 


 ダンッとアスファルトを踏み締めて、星見琴光は年の中をもう一度駆け回る。


《セカンド》よりも人口は少ないとはいえ、日本の総人口の約三分の一が集まるこの年の中を。


 そうしながら、やっぱり発展しているなぁ、と意味のない現実逃避を行なってみる。


 それが本当の意味で現実と向き合いたくない、ということを表しているのは光の表情を見れば一目瞭然だった。



(バカか。いや、バカだ私は。わかっていたじゃない、《ハンター(暗部組織)》どもが、あんなに簡単に退くはずがないって!)


 

 地面を蹴って、加速する。

 まだ、この近くに敵が残っているかもしれないという、微かな希望を持って。


 いいや、その可能性はほとんどないということに気がついているから希望ではなく願望か、と光は思いながら浅く唇を噛んだ。


 

 ビルから相手を突き落とした時の《転移》によって、《空間》に干渉する系統の能力を持った人間が共犯関係にいるというのは確認しているのだ。


 

 それの支援を受けていた、ということは近場に身を隠しただけだとか、せっせと足を使って逃げているとかそういう間抜けな構図は成立しないだろう。

 

 数キロ、下手したら数十キロ以上離れている可能性がある。



「……本当、やりにくい相手ね」

 


 と、光は表情を崩さずに小さく呟いた。


 そこには敵対の意思はもちろんのこと、明らかにそれとは別の怒り(・・)という感情も込められていた。

 そのものには質量がないはずの《能力の核(オーブ)》の重みを感じられるような声音だった。


 と、突然ビュン! と瞬きよりも早い攻撃が、光の目の前を通り抜けた。



「っ?! ……いや、違う。これは、攻撃じゃない?」

 


 それはまるで、光の注意をそこに惹きつけるようにあからさまな軌道で放たれていたから。

 それにこの攻撃は……、



友野、さん(フル、アタック)?」


「おうよ、友野さんだぜぇ? どうしたそんなに焦って。お前らしくもない(・・・・・・・・)


 

 後ろから、静かに帰ってきた青い目の先輩の声が光の耳に届いた。

 その声だけが、やけに鮮明に聞こえる。



「……友達が、進が攫われたんです」

 

 

 訴えかけるように、感情に任せた声を光は吐き出した。

 友野はそれを聞いてもなお目を見開きすらしなかった。



「誰に攫われた?」

 


 目を見開くどころか、余裕のある声で光に問い返してきた。

 それは彼が後輩を落ち着かせるためなのか。

 

 あるいは、それを聞いてもなお何も感じてはいないのか。

 この人はいつもこんな風だ、と光は感じた。


 

 友野はいつもは飄々と一般人らしく振る舞っているのに、こういう時だけは人間を失うのだ。



「《ハンター》、です。ここ一年くらいは全く動きはなかったのに……」


 

 それでも、このNo1は他人を無条件に放っては置けなくて、絶対に



「手伝ってやろうか?」

 というのだ。


 

 お願いします、と光は言いそうになった。

 自分じゃ、何も行動を起こせていないから。



「いいや、ダメだな。そんなの私が強者に甘えて、憧れているだけだ。彼のために私が何かを行えるわけじゃない」


 

 自嘲混じりにそういう光を友野はずっと見つめていた。

 しかし、それがいい加減焦ったくなってきたのか、友野は後ろ頭をガジガジとかいた。



「甘えだとか憧れとか言ってるけどさぁ。別にいいんじゃねぇか? 自分よりも強い存在に助けを、救いを求めるのは人間として間違っている感性だとは思わねぇけど。自分が納得できたできなかった、できなかった、なんかじゃないんだよ。効率的か、非効率的か。それだけだ。結局、世の中に同じものなんか一つもないし、平等なんて実現できるわけもねぇ。完全に失ったものはもう二度と元には戻らない。今だってそうなんだよNo3。頼りたいか頼りたくないか、じゃない。頼った方がいいのか頼らない方がいいのか。たったそれだけだ」


 

 友野の言い分ももっともだ、と光は感じたがそれでも、



「……私は。私はそれでもあなたには頼りたくない(・・・・)。私たちの問題は、私たちで終わらせてみせる」


 

 友野の語った効率の面でそれは、最も非効率な回答だった。

 

 他人を巻き込めないという自分勝手な感情に当てられただけの弱い考えだった。

 

 少なくとも答えた光自身はそう思っていた。

 しかし、以外にも友野はそれを否定しなかった。



「ハッ。随分とNo3らしい(・・・)答えじゃねぇか。そういうの、嫌いじゃねぇよ」


 

 ただ、不敵に笑みを浮かべていた。



「友、野さん?」


「安心しろ、お前たちが諦めない限りあの転入生は死なないよ。《禁忌目録(アカシックレコード)》が保証してる」


 

 そう言われた、光は友野にありがとうございますと言って走り去っていった。

 ただ、ここで光は気が付かなければいけなかったのだ。


 

 今日ここに本当は友野がいてはならないということに。



「よかったのか? 福岡のイベントの方は」


 

 その声は一体どこから聞こえてきたのだろうか。



「大丈夫なわけねぇよ。けどさ、お前の力なら大丈夫だろ?」

「もちろんだ」


「悪いな、いつか奢れるようになったら何かを奢るよ」

「ハハッ。約束だ、忘れるなよ」

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