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第12話 《流星学園》の《No1》

 教室から飛び出した友野は、驚く教師や、生徒を置き去りにして、学校の外へと走っていく。

 

 外と仲を隔てるフェンスを、力技で飛び越えると、まだまだ、町の向かって加速する。


 とても人間とは思えない速度なのだが、これがNo1である。


 そんな、絶対王者が駆け付けた先は、人目につかない家の裏側。


 しかし、そこにはすでに人はいなかった。

 クッソ、と友野は自分の太ももを殴る。



(今度もカラかよ。確かにここらへんで不自然な反応があったはずなのに。どうなっている?)


 

 観測してから、すぐに動いているはずだ。

 何かをするにしろ、その数分でできることなどたかが知れて……。



(なんだ、これ)


 

 と、友野はそこに置かれていた物体を手に取ってみる。


 なにこの模様が彫り込まれたそれは、明らかに周囲の風景から浮いていて、とてもじゃないが、ここに元々置いてあったようには見え___。


 

 瞬間、友野は炎に包まれた。

 一瞬目を見開いた友野はそもまま炎に飲み込まれて……。


 

 そして、炎が爆ぜた。


 

 いや、正しくは外部からの何かによって、炎が一気に勢いを増した。

 熱気があたり一帯を包む。



「おいおい、挨拶もなしに攻撃かよ。なんのつもりだ、いったい」


 

 返事はない。

 友野はため息をつく。



「隠れていたって、無駄だ。今から、お前のいる位置に攻撃を喰らわせてやろうか?」

「?!」


 

 ガタリ、と音がした。



(あ、逃げるのか。まぁ、いい判断といえばいい判断か)


 

 まぁ、相手が俺以外だったらな、と友野は言った。


 魔王からは逃げきれない。

 同じように、流起友野からは絶対に逃げきれない。



 ほわりと、友野の周りにプリズムのようなものが何個も浮遊する。


 その形は、銃の弾丸と定義する。


 大きさは、変幻自在。

 それが、残像を残してとびかかる。


 逃げた人間の、両足を吹き飛ばす。



「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

と、叫び声が聞こえる。


 

 これがNo1、《全攻撃(フルアタック)》、流起友野だ。

 

 危険因子が、自分に不利益になるもしれないのなら殺してしまう。

 

 ある意味の最善策を取る人間。


 ちなみに炎に包まれて傷さえつかないのは、その場で弾丸を高速回転させそれを相殺したから。


全攻撃(フルアタック)》でちゃっかり《防御》までしてしまうとは。

 

 さすがの、能力の核(オーブ)操作能力である。



「ひ、ひぃ! き、聞いてねぇよ。No1が来るなんて! これを置いていくだけの、簡単な仕事じゃなかったのかよ! あ、あぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「心外だな、そんなもの持ち歩かれたら、さすがの俺だって___。」


 

 友野の言葉は、友野自身の攻撃の爆音が打ち消した。

 しかし、そんなものは関係ない。



(……どういうことだ? 俺がこの距離で、ここに近づかないと思ったのか? いや、そういうデマを、こいつは他から受けた? なんでそんなことをしたんだ? こんな結果に落ち着くことは、予想できていたはず……)


 

 いや、と友野は息を漏らす。

 それはもっぱら、月明かりに隠された星を見つけたようで、彼にしては、珍しい慌てっぷりを見せる。


 彼は、流星学園のさらに奥、町のほうを見透かすようにして、表情をゆがめた。



「このゆがみは、フェイクか! この距離なら、俺が絶対に、こっちにつられるとわかっていたのか?!」


 

 その言葉と、同時刻。

 つられるようにして、一キロほど先に『土人形(ゴーレム)』が現れた。


 友野はやれやれ、という風に、だけれどもあわてて走り出す。



(嘘だろ? 街中に土人形だって? ふざけてやがる。無差別殺人を行う気かよ!)


 

 とりあえず一発。

 九百キログラムほどの弾丸をぶち込んだやった。


 まぁ、これくらいでは倒れてはくれないと、分かっているが。


 

 友野がそこにたどり着いた時には、土人形は、あたりのコンクリートやアスファルトを取り込みまくって、高さがゆうに三メートルを超えていた。

 

 土人形というくらいだから、本当はもっと小さいはずなのだが。

 多分。



「チッ、気持ち悪いな。土を取り込みすぎて、原型が分からねぇじゃねぇかよ。クソデカ物め」


 

 今のそれは、ゴーレムというよりもうごめく岩々、という感じだ。


 並の攻撃では傷つかない代物となっていた。

 

 その癖して、妙に動きはスムーズで、あたりに死屍累々と転がっている人間は、敗北者となってしまったのだろう。


 

 どうやら、死人はいないようだ。

 ほっと息をつくとさてと、と彼はまるで確認作業だとでもいうように攻撃を開始した。


 空気を切り裂くその弾丸は、巨大化しつつあるゴーレムの体をまるで紙のようにえぐり取る。


 

 刹那の攻撃。

 友野を敵としてみていなかったそれには、回避できるはずがない。


 

 ゴーレムが、こちらを向こうとしたところで空が光る。

 

 そして、頭上から《自由落下》してきた《全攻撃(フルアタック)》の弾丸の数々がゴーレムの頭頂部にクリーンヒットする。


 

 ズドドドドドドドドド、というよりは、グヲォォォォォォに近い音がした。


 

 しかし、痛覚などない土人形からすれば、それは倒されるということには結びつかないようで、こちらにずんずんと進撃してくる。



(やっぱり、これくらいじゃぁ倒れないか。どうする? いっそのこと、もう一瞬で終わらせてしまうか?)



 やっぱりやめておこう、と友野は首を横に振る。


 どうせ、人間ですらない雑魚と戦うくらいなら、少しでも楽しもう、という魂胆か。

 

 いや、その考えもあるだろうが、一番はどこでだれが見ているかわからないからだろう。

 

 彼にとっては、いまさらかもしれないけれど。


 ぶぅんと振り下ろされる右腕を、その弾丸はものともせずに破壊する。

 

 立て続けに右足も大破させると、バランスが崩れたゴーレムはドゴン、と倒れた。


 その巨体が倒せるだけで、町に被害が出てしまう。

 

 巻き上げられた岩石が降ってくるのをすべて防ぎながら、友野は訝しげに眉をひそめて思考にふける。



(おかしいな。あれだけゆがみがあったんだ。こいつがこんなに弱いはずがないだろう?)


 

 少なくとも、No1が出てくるほど不可思議な現象ではあったのに。それの副産物が、こんなにもあっさりしたものなんて。

 

 と、そこまで考えて、友野は自分の見落としに気が付く。



「ちょっと待て。副産物? そうか。そういうことか。チッ、だとしたらこいつは既に……」


 

 実験失敗として放り出された、劣等個体ということだろうか。


 何かが、ここじゃないどこかで行われて、この個体は、倒される前提でこの場所へと送られてきた?。

 

 そうだとしても、いったいどうやってそんな……。


 そんな友野の思考は相手の攻撃によって、中断された。

 立ち上がった土人形が、友野を相変わらずに狙ってきたのだ。



(へぇ、意外と回復が早かったな。二分くらいはそこで回復に時間を割くと思っていたんだが……)


 

 もちろん、その攻撃も彼に届くことはない。

 

 彼によって操作される、大小さまざまな弾丸の数々がそれを着実に防いでしまう。


 

 能力の操作さえしっかりしていれば、これくらいの物理攻撃、スマホをいじりながらでも、本を読みながらでも防げてしまう。

 

 故に、友野は最初の攻撃から今まで、一回も回避行動をとってはいない。



「ん、時間が下がってきたな。さっさときりをつけるか。《特殊弾丸》転送。《全攻撃(フルアタック)炸裂弾(モードメテオ)》」


 

 今回も薄く笑うだけで、一歩も動かなかった。


 

 その弾丸の着弾時、閃光と爆音が辺りを支配する。



《特殊弾丸》。

《全攻撃》の多様性をさらに広げるもの。


 

 だがそれは、元々、《全攻撃》の中には含まれていないもの。

 友野自身が自身の力と向き合い、研鑽を重ねていった日々が具現化された物。

 

 彼の、努力の結晶だ。

 

 そして、No1がNo1である所以。


 しかし、そんな彼は驚いたような声を漏らした。

 え、という短いもの。


 それとその後の、そういうことだったのか、という苦笑。

 何故か、ゴーレムは生きていたのだ。



 否、ゴーレムという殻からはいずりだしたそれは、紛れもなく生きていたのだ。



 しかし、異形。

 

 もっと言うのなら、化け物。

 ゾンビ、に近いかもしれない。

 

 それでも、ゾンビなどではない。


 肋骨は身を突き破っている。

 

 手は、右手が二本ある。

 

 指がない。

 代わりに、うごめく何かが付いている。


 人間と同じくらいの大きさのそれは、黒、黒、黒。

 全身が闇夜よりも深い、黒。


 

 真っ黒だった。



「ギギェアラァ……」


 と、声にならない声を出し続けている。



(なん、だ? なんだ、これ。なん、何だよ)


 

 友野は得体のしれない生物に、確かな悪寒を覚える。


 知識にない。見たこともない。

 こんなにおぞましい生物、自然界にいてはならない。


 

 グチュリ、グチュリ、とそれはこちらへとはいずり寄ってくる。

 気持ちの悪くなった友野は、とりあえず《全攻撃》を発射した。


 相も変わらずの、刹那の攻撃。

 

 それは、その生物を打ち抜いた、かのように見えた。

 しかし、実際はそんなことにはならない。


 

 いや、実際、打ち抜いてはいたのか。


 それを、あの生物とも言い難いものは、飲み込んでしまっただけで。

 何も感じていないのだろうか。

 

 No1の攻撃を喰らってさえも。

 その感情が、ずっと無であり続けるように。


 対する友野は立て続けに攻撃を仕掛けていき、そのすべてが飲み込まれたことに、一瞬怯んだ。

 

 が、冷静に場の状況を分析し続けていた。


 

 撃つ、飲み込まれる。

 撃つ、飲み込まれる。

 撃つ、飲み込まれる。

 撃つ飲み込まれる撃つ飲み込まれる撃つ飲み込まれる撃つ飲み込まれる撃つ……飲み込まれる___



(へぇ、飲み込む速度には限界があるのか? それなら……)


 

 頭上に影が覆いかぶさった。

 

 半径数メートルほどの弾丸……、とはもう言えないものが、物理法則を無視して浮かんでいた。


 それが、黒い生物に向かって打ち出される。

 ズドン、という音とともに多少の風。


 さすがにこれは、と思った矢先、黒い生物は、ズルリとはい出てきた。



(えぇ、うっそぉ)


 

 と、友野は内心引いた。

 

 どうやら、押しつぶされたくらいじゃ死なないらしい。

 体が、半液体状になっているのだろうか。


 というか、こいつはいったいどうやったら死ぬのだろうか。

 

 つぶしても、貫いてもだめなら。

 吹き飛ばしてもだめだったら、どうすればいいのだろうか。


 

 トクン、と何かが答える。


 

 そのうえで、友野は少し迷った後、



「あぁ」


 

 と、息に近い声で言った。



「あぁ、そうか。けっきょく頼らなければならないのか」

 と。


 

 砲撃が一閃。

 黒の生物は、その瞬間、なんの前触れもなくばらばらに砕け散った。


 

 ただの《全攻撃》で。


 

 終わったな、と友野は後ろを向く。

 討伐確認などしなくていい。


 

 今、その時においては、No1は真の無敵だから。



「リューキ、トモ、ヤ。ドウ、シテ。タスケテ、ヨ。アナタナラワタシヲ、タスケ、ラレ……」


 

 友野は足を止めて、ちらりと、黒い生命体だったものを見る。


 物々しいそれには似ても似つかない幼げな声を前に、フッと、口を緩めると、自らの罪を吐き出すように彼は言った。



「悪いな、今の俺にはもう、誰かを壊して救うことしかできないんだ。あぁ、あのころ(・・・・)とは違ってな」

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