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第11話 《錬金術師》の日常

 急な早期編入の日から、早一週間。


《オリジン》で、五月の十日を過ぎた、十一日。


 進は、一層仲良くなったみことと、クッソ長い廊下を、次の授業に向けて歩いていた。

 

 次の授業とはいっても、、まだ誰もその教室には向かっていない。

 その校舎の性質上、二十分と、ゆとりをもって取られている授業間休みが始まったばかりだからだ。


 なら、なぜ二人は、こんなに早く教室を移動しようとしているのか。

 そう、彼らは今、一つのミッションを背負っているのだ。



「ちょ、やばいでしょ。さすがに今持っていくのは。それ、朝までに提出の分だろ?」

「だ、大丈夫なはずだぜ、進。割とうちの高校は、提出物関係の規制は緩いから」


「いや、でもさすがにダメなんじゃ…。今、もう最後の授業だし」

「いや、ワンチャンスだよ、ワンチャンス。大丈夫かも!」


 

 そのミッションは、提出していなかった提出物を、出しに行くというもの。


 進は、違う。

 みことのを、だ。


 あくまで進は、付き添いのために同行させられているのだ。

 みことは、仮にもS級。

 

 しかも、十番中の五番。

 

 一回くらい提出しなかったとしても、大丈夫だろう……と、思っていた。


 みこといわく、一回やらかしたせいで、提出を強制させられているヤツ、らしいが。

 

 

 いや、いったい、何をやらかしたんだよ。

 ある意味、すげぇよ、と進はぼそりとつぶやく。

 

 もちろん、あきれたほうの声音で。

 

 怖いもの知らずといってもいいだろう。

 頭を抱えたくなってきた。



「俺がいる必要のなさよ。俺は、今のところ赤点は取ってないし、提出物も百パーセントの、真面目君だぞ?」


 

 それを自分で言うのは、どうなのだろうか、と進は言った後に気が付いたが、まあ、事実なので良しとしよう。

 

 真面目君かどうかは、いったん置いておく。

 そんなものは言葉の綾というやつだから。



「いや、真面目君って、絶対違うだろ」


「いや、そこを掘るな掘るな。あえて埋めておいたんだから! 今、頭の中でそれは置いておこうって、考えてたところだから」


 

 正確に突っ込んでいく。

 ボケが多いなと、そんなことを現実逃避気味に考えた。



「え、そうなのか。じゃ、掘るわ」


「いやいやいやいや、文脈おかしいねん。そこはもうほたっといていいだろ!」


「あ、いや。掘り出してくれっていう振りなのかと…」

「んなわけあるかぁ! そんな振りねぇよ」



「ふむ、ないのなら 作って見せよう ホトトギス。byみこと」

「明らかにおかしいわ!」


「何が?」

「ホトトギスを作るっていう、パワーワードよ」



「あ、ホトトギスのところは、キリギリスでもOK」

「ゴロが似てるからな!」



「原型とどめてるし」

「とどめてねぇよ!」


「ちなみに進も一句」


「鳥籠を 壊してしまえ ホトトギス」

「鳥籠の意味なくない?!」



「いや、お前が言う?! つか、早く出して来いよ、この野郎!!」


 

 みことが黙った。

 じっとこっちを、進の方を見つめてくる。



「いや、そんな目で見られても」

「進、お願いついてきて!」


「……まぁ、いいだろう」

「マジで?!」


「とでもいうと思ったか、馬鹿め」


No(ノー)! 来てくれよ! マジで来てくれよ! 俺一人だけじゃ、怖いんだって!」


「ハッ、自業自得だな!」


 

 その場に、我らがNo5の悲鳴、というか絶叫が響き渡った。

 そのまま崩れ落ちてしまったみことを見て、進はハァ、とため息をつく。


 このシーン、動画にとっておこうか。

 いつか、なんかのいじりに使えそうだ、なんて考えてみる。


 数秒後、さすがに見かねた進は半場無理やり、みことを立ち上がらせると、ほら行くぞ、と声をかけた。



「一緒に来てくれるのか?」

「しょうがねぇなぁ。職員室(・・・)になら一緒に行ってやる」



「あ、すみません。忘れた俺が悪かったです。一人で行ってきます。はい」

「いってら~」


 

 そして、最後の一撃を叩き込んでとぼとぼ歩いていく、みことを進は見送った。

 その後、トイレなどを済ませた進が教室に入ったところ、みことがいつもより、数センチ小さく感じたのは気のせいだろうか。


 

 気のせいで会ってくれ。



「みこと? 大丈夫か?」

「大丈夫なわけねぇよ。めちゃめちゃ、こっぴどく怒られたわ!」


 

 うん、ダメだったらしい。


 まぁ、分かっていたけど。

 そもそも、気が付くのが最後の授業ってところで、終わりが見えていた。

 それでもチャレンジしたみことはすごいと思う。

 本当に。


 

 しかし、こうして実際に生活してみると、ここはそんなに《セカンド》とは変わらないことが分かった。

 こんな風に、学校に通って、友達と話して。


 

 ただ、違うのは能力をぼこぼこ打ち合う、というところだけ。



「ま、気にすんな。別に退学になるわけじゃないんだから」

「めっちゃ、ポジティブな考えだな、おい!」


 

 そうこうしている間に授業は始まる。


《セカンド》で実はこれより少し先の季節を生きていた進にはつまらないものだが。

 科学力はほとんど同じ。

 ということは、習う授業もほとんど同じだ。


 

 歴史が絡んでくる授業以外は聞き飛ばしてしまっても、進にはほとんど影響がない。

 歴史については全く違ったりするから、面白い。


 

 それと、やっぱりベートーヴェンは存在しなかった。


 ほわぁ、とあくびが出そうになって、口にクッと力を入れる。

 机に手をつくと、窓の外を眺めてみる。

 

 体育の授業か何かが行われているらしい。


 基礎体力向上の名義上でこの学校には体育が残っているが、こっちではしない学校も多いらしいから、驚いたものだと進は感じた。

 

 なんの競技だろうか。

 と、目を凝らしてみる。

 

 なんせ、グラウンドが広すぎるものだから。

 ジー、と見てみると、ボールをけっていることに気が付いた。


 サッカーに似た競技だろうか。

 

 いかにも体育らしい。

 さらによく見てみると。



(ん、あれ。今体育しているのって、光たちのクラスか? へぇ、うまいじゃん。うん、俺よりかはうまい。絶対に)


 

 進は決して身体能力がハイスペックではないという話はもうしただろう。

 その延長線上で、何かのスポーツが他人よりも秀でて得意、ということもないのだ。

 

 基本的に何でもできるが、上手といわれるわけではない。


 

 つまるところ、万能故の貧乏、といったところだ。


 

 よく、幼馴染からも何か一つでも自慢できるものを作ったら、と言われていたものだ。

 


 そういう時は決まって、ラノベの作品名言ってくれたら、作者名と、イラストレーター名、一巻の発売年月日いえるぞ? と自慢げにかえしていた。

 


 それであきれた彼女との会話が数秒途切れて、シーンとするまでが一連の流れ。

 なんとなく、懐かしく感じる。



(この世界の授業風景って、向こうにいる時よりもちょっとハイペースに感じるんだよな。あ、別に授業に風景つける必要なかったわ。授業がハイペースに感じるんだ。別に、授業風景は早くならない。ここ、テストに出るから。って、心の中で一人でつぶやくとか、寂しいかよ! 俺は、ボッチちゃうぞ!)


 

 進は思う。

 今、俺はボッチの人の楽しみを否定しなかったか、と。

 

 彼らにとっては、最高の遊びだったかもしれないのに。



(すみません、全国のボッチの方々。あ、いや、ボッチじゃないって? そうっすね。我の道を極め、他を捨てた方々にい変えます。だからどうか、色違いのP《修正音》の厳選を手伝ってください!)


 

 ……時間が過ぎ去り、チャイムが鳴った。

 進は、ほんと何してんだ俺、と急に冷静になった。




《行間》


 


 場所は変わって、一学年上の授業。

 流起友野は一応、出席だけはしていた。


 教室の一番後ろの席で、黒板も見ずに、スマホをいじり続けている。


 

 それを見られても、注意はされない。

 S級はそういう特権が認められているから。


 

 

 特に学園一位、全国一位の彼については。


 


 しかし、彼が注意されない理由は、ほかにもある。

 

 学力が高すぎるのだ。

 テストを受ければすべて百点。

 

 二十桁×二十桁の掛け算を本を読みながら十秒で答えたとかいう伝説があるくらいだ。

 

 しかもそれでいて、人がいい。

 懐も深い。


 どう生活したらそうなるんだよ、というくらいの超人だった。

 

 しかし、その人生もやっぱり一筋縄ではいかないらしく、同じ目的を達成するために海外へ出かけている親友とこうしてやり取りをしているのだ。


 

 最近はやり取りが多いらしく、彼にしては珍しく疲れた様子を醸し出している。

 

 いつもが、ハイスペックすぎるゆえに、クールダウンがあってもいいことだろうと、誰もがそこへ触れようとはしなかったが。


 友野は立ち上げたメッセージアプリで今も、その親友と連絡を取り合っているところだ。



『こっちじゃ、今日も学校だわ。そっち今のところはどうだ?』


『あんまりいい情報は入ってきていないな。何なら《禁忌目録(アカシックレコード)》の情報のほうが入ってくるのだが』

『その情報が入ってくるの、すげぇな』


『まぁ、かれこれ五年近く海外を転々としていたらこうなるわけよ。いや、まぁ、日本にも戻ってはいるけど』



 フフッと、友野は笑う。

 この五年間で随分と変わってしまったものだ。

 親友との距離も、それ以外も。



『まぁ、適当に戦って、S級に入れるのはある意味才能だな。しかも、去年は珍しく、全国大会にも出てたし』


『日本のS級だぜ! って、いうのを周りに知らしめておくだけで、情報が手に入りやすくなるからな。権限を持っておいて、損はない』


 

 友野の手はせわしなく動かされる。

 返事が来れば、三十秒とたたないうちに返信を打ち返す。



『この時代の上下関係は相変わらずおかしいからな』

『おいおい、お前がそれを言うかよ、日本No1』


 

 対する相手からも、返信はすぐにやってくる。

 二人とも、直接会って話ができない分、話が弾む。



『にしても、今、アメリカだろう? 時差大丈夫なのか?』

『ん、あぁ。大丈夫だぞ。もう、朝だしな』


 

 通知がオフになっていてよかった。

 なっていなかったら、今頃ほかの人間は授業に集中できていないだろう。



『そっちこそどうなんだよ。授業にぎりぎりかぶってるだろうし。どうせまた、授業中に返信だろ?』


 

 友野の手がぴたりと止まった。

 ハハッと、笑ってから返信を返す。

 

 親友の感というものはすごいな、と思いながら。

 慣れた手つきで、画面をフリックしていく。



『当たり前だろう? 授業中は、最高の遊び時間だ』

『おい、炎上するの覚悟してるか?』

『もちろん、炎上覚悟よ』



『それは、この数年間やってきたことも含めて、か』



『あぁ、そうだな。ちょっと、やりすぎている自信はある。それでも、世界のもっと奥に、それこそ《禁忌目録(アカシックレコード)》なんて比じゃないくらいには潜らないといけないんだ』


『ま、そうだよな。(スタンプ)』


 

 そこまで打って、友野はふと顔を上げた。

 授業は続いている。

 

 ホッと、息をつくと、『悪い、ちょっと用事。』と、返信した。


 平和な時間は、どうやらそう長く続いてはくれないらしい。



 運命、というものはそういう風にできている。

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