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第10話 《最初》の転換期

 少しの浮遊感の後、進はゆっくりと目を開けた。

 他人の声が耳に届いてくる。

 

 帰ってきたことを、彼は実感した。


 いまさらになって、ドッと汗が噴き出してくる。

 最後のあれは、本当にまぐれの結果だった。


 一歩、何かが違えばあの瞬間、一本もとることができずに終わっていたかもしれない。

 それくらい今回の一本は、実力ではなく運という要素が大きかったのだ。


 もっと、強くならなければ、と進ははっきりそう思う。



(にしてもS級。光にしろ、みことにしろ、やっぱり強すぎるだろ。規格外のばけものすぎるだろ)



 あそこまで到達しなければならないといいうことはないのだろうが、強いことは、この世界において大きなアドバンテージとなる。

 

 まぐれで一本取るようじゃ、次からは一本もとれずにぶっ殺されるだけだろう。



「みことはやっぱり強いな。さすが、No5」

「……」



「みこと?」

「っと、あぁ、すまん。今回の反省をしてた。なに、お前も想像以上に強かったよ。まさか、あの土壇場で一本取られるとは、思ってもいなかった」


 

 それは、紛れもなく心からの賞賛だろう。

 ハハッと、笑いながら言ったその言葉は感心の色に包まれていた。

 

 しかし、進はありがとなと言ってから、その言葉を、首を横に振って否定する。

 いいや、と。



「確かに一本は取れた、けどさ。あれはほとんどまぐれだし、何よりも粗削りすぎた。俺は、お前と違ってまだ能力の操作が甘いしな。っと、そうだ。お前の《災害(ディザスター)》っていうウエポン。あれ、ただ《災害》の《再現》を行うだけの能力じゃなかったんだな」



「ま、俺は能力名を言っただけだし。能力の細部は語ってないし。S級の能力がそんな単純なわけ…、あ、いや。No1のは単純かつ最強、か。まぁ、俺の能力は脳筋だけど、脳筋じゃないんだ。つか、それを言ったらお前だって《ダウンバースト》に対応しようとしてただろ。どうやったんだよ」



「? あぁ、四回目のあれか。うーんと、直感九割、慣れ一割、かな? 上からの攻撃だったし、雷よりも遅かったし。《下降気流(ダウンバースト)》だって分かった瞬間に反射で動いたんだけど……。あれは、ただのそれじゃなかっただろ?」



「まぁ、そうだな。いや、それでも対応できるのは人間離れしてると思うけどな。しかも、お前が住んでたのド田舎だったんだろ?。そんなに高能力者に慣れているとも思えないし……」


「そうだな、さすがに光速は初めてだった」



 進が、冗談交じりにそう返すと、みことは苦笑して、ったく。と、声を漏らす。

 進も、ククッと笑う。



「でも、真面目な話。一本もとられるとは思ってなかった。お前は間違いなく強くなるって確信したよ」


「? ありがとな。俺もお前と張り合えるくらいの化け物になってやるよ。いつになるかは知らないが」


 

 いや、その時そこで言野原進は一緒に肩を並べて歩いている自信はないが。

 いつまで、この学園に存在するかは分からないが。



 もっとも、この学園を正規の方法で卒業することは、おそらくないだろう。



「いつでもいいさ。まともに張り合える奴が少ないからな。ここまで登ってくる人間は、一人でも多いほうがいい」


「そうだな。……本当にそれ、強者の悩みだよなぁ。俺も、あっちも親友と裏路地に潜っては、そこの主とタイマン張ってたしな。まぁ、俺はそんなに喧嘩が強かったわけではないけど」


 

 むしろ、異常だったのはもう一方の方だ。

 マッチョどもが何人いようとぶっ倒していたし。


 それでも進は、《非現実(ウエポン)》を使わないタイマン勝負なら、この学園でも上位には行けるくらいの異常性は持ち合わせている。



「にしても、疲れたなぁ。今日は。早く帰って、早く寝たいわ」

「ハハッ、お前にとっちゃ初日の学校だしな。入学してもう一か月くらいたとうっていう一年生よりも、そりゃぁ疲れるだろうな」


「こちとら、四年生だし。体力には自信があったんだが。さすがになれない場所じゃぁな」

「そうだな」


 

 彼らは、そうやって言葉を返しながら、その場を後にした。

 すっかり夕焼け色に染まった太陽の光が窓から差し込んでいる。



 地上に出た進は、それが何だか新鮮な気がして、足取りがずっと軽くなった。




《行間》




 実は、進たちの少し前に、流起友野と天智未来は地下から出て、地上へと戻っていた。

 

 時系列としては、進がみことから一本取った瞬間である。

 

 モニターで二人の行動を見ていた彼らは、そのことを予想していたらしく、特に驚きはしなかったが、驚かなかったのは進の行動に対してのことで、No5が一本取られたことには十分驚いていた。


 彼らは、少しだけ歩みを進めると、どちらともなく話し出した。



「本当にあいつが一本取られたのは驚いたんだが」

「そうだな、S級にぎりぎり滑り込んできてイキリあがってるNo10でもないんだし」


「おい、今回のNo10はまじめだぞ。前回は、まぁ…。ちょっとあれだったけど」


「そんなもんなんだって。つか、言野原進だっけ? あれで《無順位(ノーランク)》って話なんだけども。あり得ると思う?」


「ガチで言ってんの? あれだけの能力と思い切りの良ささえ持っておけばB級くらいは行けると思うんだけど」

「でも、そうじゃないんだよなぁ」


 

 そしてたどり着く転校生の話題。

 しかも、能力重視社会らしくランクの話。


 二人の会話はいたって普通で、日常の風景。

 しかし友野はそんな会話をしながらも、どこか遠くを見つめている。


 未来はそれに首を傾げ……た瞬間だった。


 突然、友野が走り出した。

 とっさに未来も彼の後を追っていく。



「おい、友野! どうしたんだよ、急に! 」

「ッ、多分、説明してる暇はない! 気が付くほうが早いだろ!」


 

 未来は、本当に何なんだよ、と叫びかけ、友野の言ったとおりに異変に気が付く。

 加速する。



「どういうことだ? 《万能元素(オーブ)》が乱れて……」

「正午にも不自然な反応が一回あった、って、クッソ。正常に戻りやがった」


「本当に一瞬だったな、おい」

「だろ? 一瞬過ぎて、マジで何なのかもわからねぇ」


 

 二人が廊下の角で止まると、曲がった先の見えないところからも同じような会話が聞こえてきた。



「っと、やっぱり二人も来るか」

「ん、あぁ友野さん。あたりまえですよ。私の能力はそういうのに向いていますから」


「ハハハ、そうだな。さすが《風神》」

「茶化さないでください。天智先輩」


 

 そこにいたのは、光と結。

 彼らの予想通りの人間だったので、少々言葉を交わす。


 結のほうは黙ったまま、何か考えこもうとしている。

 彼女らしいそのしぐさに男二人は苦笑した。


 どうにも、光と違い結のほうは二人を、親しい人間とは思っていないようだ。

 

 いや、親しい人間の前だからこそ黙って思考にふけることができているのだろうか。

 社交辞令のいらない関係だから。

 

 光は、ちらりとそちらを見た後、言葉をつなぐ。



「本当に、何なんでしょうね、これ。今まではこんな反応なかったですし」

「そうだな、俺もこんなの……」



 光の言葉に、否と返したのは未来だ。首を力なく横に振る。

 それに対して、友野は少し歯切れが悪い。



「《万能元素(オーブ)》の不調。一瞬の力……。行使された力が、世界そのものに影響を? いや、そんなことができるのは……」



 チッと、舌打ちをして、意味の分からないというようなジェスチャーをした。

 結のほうも結局そんな感じだ。



「……じゃぁ、分かり次第連絡するってことでいいか?」

「俺はいいぞ?」

「私もOKです」


 いつまでたっても、結論が出ない話だったので、未来はすぐにそうやって切り上げた。

 

 そして四人は、元の二人組に戻る。

 しかし、男二人がすぐに立ち去ったのに対して、女二人はその場からしばらく動かなかった。



「ねぇ、結」

「うん?」


「あの二人には言えないんだけどさ。私、ばかげた仮説なら考え付いたよ」


 光は、自嘲交じりにそういった。


 彼女が、自信なさそうにするのは意外と珍しい、と結は思った。

 だから同時に、そのバカげた仮説というものを、聞いてみたくなった。



「なんなの?」


 と、言ってみる。



「……《原初の四神》、あるいはそうでなくとも《神》の《現世降臨》」

「……それは」


「分かってるわよ。常識的に考えれば、これが馬鹿な考えだってことくらいは」


「うん、でも。百パーセントそれが間違っているって言えないのも分かってる?」

「へ?」


「世界のすべてが、正しいとは限らないんだから」




《行間》




 Side???



『とあるビルの会話記録より』


 

 一部雑音あり。


 

 記録開始時刻、十九時三十二分。



「___よ。《____》の件はどうなった?」

「どうなったといわれてもな。相変わらず、っていうのが一番しっくりくる表現だが?。」


「珍しいな、そんなにお前がてこずるとは」


「ッハ、相も変わらず《_____》どもはやばすぎるからな」

「おい、どもなんて言うなよ。奴らに聞かれていたらどうする」


「大丈夫だって。どうせ今頃奴らは本拠点の中でくつろいでるんだろ」


「そうだろうか。いや、だがお前の部下の___がぶっ殺されたのだろう?」

「あぁ、そういえばそうだったな。《____》どもは俺達より途方もなく強いから」


「まったく。暗部組織も苦しい世界だ」


「だが、さすがに奴らも《____》を自分で用意することはできなかったらしいぞ? こっちに回ってくるくらいだし」


「さぁ、どうだろうな。意外と奴らは《____》など、どうでもいいのかもしれないぞ?」

「それはないだろう、少なくとも_____の____を持つ___だぞ?」


「それはそうだが……。しかし、こっちがあれを復活させてしまうと、暗部社会のパワーバランスが崩れるんじゃないのか? そうなるようなもの、奴らがやってみろ、というだけで差し出してくるとは到底思えないが」



「フン、奴らもそこまで頭が回ってないということだろう。だとすれば、こっちとしては好都合だろう?」


「と、いうと?」

「一発、ド派手な下剋上、なんてどうだ?」


「?! それは、面白そうで、とても興味がわくがそんなこと……」




「可能、なんだよ。《____》さえあれば」

「っ、そうか。独自的に開発中の《______》も含めれば……。奴らでさえも」




「そういうことだ。まさか、奴らもそれは予想できないだろう」

「ハハッ、そうだな。数年前は高望みすぎると笑ったものだが、実際にここまでくると楽しみでしかない」


「おい、____。お前はどうなんだ?」


「……ん、俺か。まぁ、それで血の海を作れるのなら。な、____」



「はぁ、俺は___を今度こそぶっ殺すよ。




 ________会話終了。



 何者かの意図的な干渉があります。



 会話記録の一部および、これより先が破壊された可能性があります。

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