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第9話 《流星学園》の《災害》

 ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!


 

 流星学園のNo5を目の前にして、進は戦慄を覚えていた。

 体はガクガクと震えて、一歩間違えたら、自滅してしまいそうなくらいだ。


 この特殊空間の性質上、進は痛みというものをほとんど感じない。

 

 腕を切り落とされようが、のたうち回らなくてもいいくらいの痛みしか感じないのである。

 故に、進が恐れているのは痛みや、ましてや死でもない。


《災害》としての如月みことそのものに恐怖を覚えていた。


 同時に、同じくらいの興味も感じていた。

 向こうの世界では感じることのなかった、まったく新しい感覚に進は苦笑する、そんな余裕は今の彼には存在しなかった。



(どうする? このままじゃぁ、じり貧だ。いまは何とか持ちこたえてはいるけど……。これ以上は)



 ピカッと、進の目の前が真っ白に染め上げられた。

 遅れて、上空からの、ゴロロロロ……、という音。

 

 まぎれもない、《落雷》。


 数ある災害の中でも、屋外かつ、高い建物のない、この農道のステージでは有効打になりやすい攻撃。

 

 しかも一発など、そんな甘い攻撃なはずがない。

 二発、三発、などでもない。

 

 少なくとも、十は一斉に襲い掛かってくる。


 そのうちの一つが進の左手首よりも先を焼いた。

 痛くないのが、逆に怖い。



(どうする? どうしたらいい? 左手が使い物にならなくなった。どこか攻撃の起点となるところは……)


 ない。

 いや、正確にはあった、といったところか。

 

 そういう場所は、もう等しく炎上していて近づけそうにはない。



「いや、行けるじゃないか。無茶無謀だけど、痛みを感じないのなら、ああすることも、可能じゃないか」


 前転で、雷を運よく避けることのできた進は、炎上する木々や草、作物の中へ身を投げ込む。

 痛みを感じないということは、熱でさえも熱いとは感じない、ということだから。


《変形》を駆使して、炎をよけながらその先へ突き進む。

 呼吸に不足した酸素は、二酸化炭素を《分解》して補う。


 それで、いい。

 策なんて、真っ先につぶされるのだから。

 ゴウゴウと燃え続ける、炎の中をつき進め。

 

 突撃しろ。

 できることはそれくらいしか、ないのだから。

 あらかじめ作っておいた、短剣を握りしめ……。


 その様子を見て、《災害》は笑った。



「へぇ、なかなか思い切りのいい選択だ。でもまぁ、今回も俺の勝ちだな。《ダウンバースト》」


 あたり一帯。


 炎ごと、すべてかき消された。

 少なくともその瞬間、進は、そう感じた。

 意識が落ちる。



『言野原進の《死亡(ダウン)》を確認。四対零。如月みことリード。言野原進の《蘇生再転移(リ・スポーン)》まで、3、2、1……。』


 

 五戦目。

 完全回復した進は、声を漏らす。


 驚愕の色に染まった、小さなつぶやきだった。



「災害を、再現する能力じゃなかった?(・・・・・・・) いや、待て、あいつがそんなこと、いつ言った?」



《災害》と確かに彼は能力名を語ったが、思い返してみれば、ただ災害を《再現》する能力だ、など誰も言ってはいない。


 勘違いしていた。


 ……いや、如月みことは言野原進に、あえて能力名以外を話さないことによって、それ以上のことはできないだろう、と勝手に思い込ませていた?

 

 さらに、直近を考えてみれば、《落雷》という単発攻撃を繰り返して、それを警戒させることで、能力の真価にたどり着くことを、遅延させていた?

 勝負が始まってから、広範囲をあえて燃やしたのも、そのため?


 考えれば、考えるほど、S級という存在が大きく見えて。

 それこそ、みことの、No5の掌の上、かもしれない。



(慣れて、いるのか。こういう駆け引きに。こっちの人間ってのは。やっぱり、あっちとは……)


 

 クソッ、と進は自分の太ももを拳で殴った。

 ジンッと来るはずの痛みはない。

 マイナスな思考は、頭を振って追い払う。


 どうする。いや、どうしていた。

 こういう時、大好きなラノベの主人公たちは。

 

 どうしていた。

 

 ツンツン頭の少年は、デスゲームを生き抜いた二刀流の剣士は。

 死んでも、過去に戻ることしかできない少年は。

 世界最強のスライムは。

 不可思議な病を前に奮闘する少年は。


 

 こういう時、決まってどうしていた?

 逃げていた、はずがない。

 

 主人公は結局、逃げることができないように呪われているから。



(舐めるなよ。俺だってなぁ、主人公になりたいさ。ご都合主義の人生を歩みたいよ。でも……)


 

 世界中のすべての人間が、主人公になれるわけではない。

 自分に特別性を見出せなければ、彼らは物語の脇役に一瞬で変わってしまう。


 そうなりたくないから、そうなってしまいたくはないから。



「S級がいくら《絶対》だからって、別に《神様》ってわけじゃねぇんだ。そんな奴から、逃げてたまるか」


 

 そう小さくつぶやいた瞬間、ふと、目の前の景色が一変したように感じた。

 しかし、すぐに違うな、と首を振る。



(目の前の景色は、変わったんじゃない。元々に戻ったんだ。俺が、冷静になることができたから)


 思ってみれば、変化は速い。

 何も考えなくていい。

 

 ただ、相手から一本とれるように、ステップを踏んでいくだけだ。

 

 あいにく、《再転移》してからはまだ彼には見つかっていない。

 この炎のせいで、お互いの視界は悪いのだ。

 

 そうなると彼の行動は《豪雨》からの《落雷》、あるいは《ダウンバースト》。

 それくらいに絞られるだろう。

 

 しかし、さっきの一発では炎が全部消えなかったらしい。

 まぁ、そのおかげで《豪雨》を使ってくれれば願ったりかなったりだ。


《津波》という可能性も考えたが、さすがにそれはないだろう。

 そもそも、津波のように来るとわかってしまう攻撃は《変形》で対応できるのだ。


 逆に、対応できずに困るのは、《落雷》のようなそもそも人間の反応速度を遥かに超えている攻撃。

 あるいは目に見えない、《風》などでの攻撃だ。


 後者は、数回に一回くらいならまぐれで行ける自信があるが。

 いや、今は確率の話をしているのではない。


 

 九十九パーセントではなく、百パーセントの方法を見つけなければならない。

 見つけなければ、ならないのだ。

 

 何かないのか、何か。

 人間が、《災害》に勝つためには何をしたらいい?


 いうだけなら、簡単なことがある。

 《災害》に打ち勝つために、自分がそれを超える《天災》になってしまえばいい。


 だめだな、と進はつぶやく。

 

 なぜなら、《錬金術師》は現実を見なければならないから。

 進は、ふぅ、と息を吐きだし前を見た。


 これしかないなら、やるしかない。

 

 ここが、この残り十分もないこの戦いが、実力の差ってものを教えてくれたのだから。

 

 今度は、格下の最強(奇想天外)ってやつを見せつけてやらないと。




《行間》


 


 すごい、とその少年、如月みことは感じていた。

 

 何がなんて聞くまでもない。

 言野原進の圧倒的な心の強さに。

 

 彼は始め、この戦いは五分、長くとも七分以内に終わるだろうな、と心の中で勝手に予想していた。


 だから、みことの中で、最もこの戦闘が早く終わるように仕掛けていた、はずだ。

 そして、その予想を上回り、残り時間が十分を切った今、みことは焦っていた。

 

 S級の、それも学園No5が。



(というか進。あいつはこの勝負が負け試合だってことをわかっているのか?。いや、違うな。あいつは折れないのか。たとえ、どれだけ実力に差があっても。あいつはその差を、受け止めることができるのか)


 

 さっき、予想外にも《ダウンバースト》を使わされたみことだったが、それの真価はそこではなかった。

 進が言っていた通り、さっきのあれはただ単純な《災害》の再現、というわけではない。



(あいつ、《ダウンバースト》そのものには気が付いていた。まさか、初戦で《再現》した《災害》の《複合》を余儀なくされるとは……、考えてもなかったぜ。ある一種の《天才》かもな。あいつは)



《災害》という能力の強さはその攻撃の多様性と威力の両立性。

 その中には、自然界ではほとんどあり得ない、《災害》同士の《複合》も含まれている。


 先ほどのは、《竜巻》の回転能力を与えた、《螺旋形(スパイラル)超下降気流(ダウンバースト)》だ。


 なぜ、それを使わされたか。

 簡単だ。


 言野原進は、《ダウンバースト》を力技で防ごうとしたのだ。



(風の流れを読み取って、能力によって通常の数倍まで加速された風速よりも早く対応したっていうのか? 少なくとも、風速七十数メートルはあったぞ? ……あり得ねぇ、《風神》じゃあるまいし)



 そもそも、自分よりも順位上がの人間が化け物すぎるだけだ。

 光速を見るとか、感じるとか、どんな次元の話だよ。



「進…。お前は、どこまで対応できる? 風速か、音速か、光速か。はたまたそれ以上か。どこまで……」


「どこまでってそりゃぁ、俺の限界までだな。少なくとも、光速なんて見て反応できるわけがないだろ」

「?!」


 みことは、とっさに飛びのいた。

 みことのいた場所に剣が振るわれる。

 

 けして、問いかけた言葉ではなかった。

 それが、見事に返された。

 

 その驚きで反応が遅れたせいで、右手の甲を剣が撫で、染血が舞う。



「進、おまっ、どうやって! どうやって、ここまで見つからずにやってこれた! この平地で!」


 

 ハッと、進は言う。

 不敵に笑って、その少し泥に(・・)汚れた顔を、みことの方に向けている。



「下、だよ」

「し、た?」



 進が言ったことをなぞるように、みことはつぶやいた。



「そうだよ。地下を掘ってここまでやってきた。いやぁ、よかったよかった。地面の下は、いったいどこからが場外かわからなかったなからな。ここに来るまで、何回ひやひやさせられたことか」



 衝撃の告白。

 みことは目を見開き、進はやはり不敵な笑みを崩さない。



「嘘、だろ?」

「嘘じゃねぇよ」


「じゃぁ、いったいどれだけの時間を地面の破壊に……」


「……ハッ、忘れたか? 俺は《錬金術師》だ。《破壊》なんて物騒な真似しねぇよ。と、いうことで」


 

 進は、みことの体に短剣を突き立てて言う。



「貴重な一本、ありがたくもらっていくぞ、《災害(ディザスター)》」

 と。



『如月みことの死亡(ダウン)を確認。四対一、如月みことリード。如月みことの《蘇生再転移(リ・スポーン)》まで、3、2、1……。』


 

 やられた。

 如月みことは遅れてそれに気が付いた。


 S級である自分が?。

 と、一瞬疑ったが事実は変わらない。

 

 自然と、ハハハ、という笑いがあふれ出す。


 悔しくはない、なんてことはない。

 しかし、同じくらいにみことは興奮していた。

 

 人間が地面から、それこそモグラのように出てくるなんて誰が考えただろうか。

地震(アースクエーク)》を使っていれば結果は変わったかもしれないが、あんなことほかの人間は行おうとは思わない。

 

 時間も馬鹿みたいに使ってしまうし。


 

 

 だからこそ、それができる人間は異端で、重宝される。

 そんな人間ともっと戦っていたいと思った。


 あぁ、もう時間がないのが憎らしい。



『制限時間です。最終結果、四対一。勝者、如月みこと。両者、《帰還(リ・ターン)》します。』

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