表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
台本置き場  作者: 語部 もどき
9/9

イストリア・ゲエンナ

オスクロ王=1、ピリアー=2、シーマ=3、トゥレラ=4、フォス=5、スキア=6、アコルトス=7、ハオス=8


2「あの子は無実です!解放してください!」

1「ならぬ。それを決めるのは余である。貴様ではない。」

2「…っ!王よ!あなたには、あなたには…人の心はないのですかっ⁉︎」

☆部下達が一斉に剣を構える

1「良い、下がれ。手を出すな。気概のある者は、嫌いではない。」

☆部下達が剣を下ろし、王が歩み寄る

1「…ふむ、成る程な。真っ直ぐな良い目をしておる。貴様、余に仕える気はないか?さすれば余への不敬を不問とし、更に望むならばそれなりの富や地位も与えてやるぞ。」

2「…お断りします。」

1「そうか、悪い話ではないと思うが。」

2「あなたは王の器ではない。民の命を軽んじ弄ぶような人間を、私は王と認めない…!」

1「ほう、実に愉快な奴じゃ。余の慈悲を無下にするばかりか、よもや牙を剥くとはのう。良い、ならばその覚悟に応えてやろうぞ。」

☆生唾を呑む音

1「安心せい。貴様の首は特別に、余が自らあやつの目の前に晒してやる。喜ぶが良い。」

2「…!」

1「最後に何か言い残すことはあるか?」

2「…やはりあなたは王に相応しくない。人の道を外れたその果てで、いずれ破滅を迎えることとなるでしょう。」

1「…そうか。」

2(ごめん、ハオス…!叶うなら、もう一度君と言葉を交わしたかった…!)

1「やれ。」

☆部下が1人歩み寄り、剣を振り下ろす

1「王とは血!王とは力!余が王である‼︎はっはっはっはっは!」


☆斬られる音

3「…ぐふっ!がはぁっ…!貴様ぁ…っ!」

4「今良いとこなんだよ。余計な真似すんじゃねぇ。」

☆吐血&剣を振る音

4「悪りぃ、邪魔が入った。」

☆剣を構える

5「…一応訊いておくが、貴公の仲間ではないのか?」

☆構えを崩す

4「仲間ァ?お楽しみに水を差すようなゴミと仲間になった覚えはねぇな。ま、所詮は偶然同じ陣営にいただけってこった。」

5「…ゴミ、だと…?」

4「ああ、そうだ。俺にとっては思う存分戦える場があれば、あとはどうでも良い。邪魔するヤツは、皆ゴミだ。」

☆剣を地面に立てる

5「貴公に騎士としての矜持はないのか?」

4「お前こそ、反逆者の分際で騎士気取りか?」

5「…。」

4「ちょうど良い。少し興も削がれたことだし、続きをやる前に俺からも1つ問わせて貰おう。」

5「何だ?」

4「お前は何故ここにいる?」

5「大切なものを守る為だ。」

4「…はっ、やっぱりか。分かり合えねー。まあ、でもそういう顔してるもんな。お前。反吐が出る!」

☆再び剣を構える

5「ああ、貴公とは分かり合えない。残念だ…!」

☆駆け出す

5「はっ!」

4「はぁっ!」

☆斬撃

5「はっ!」

☆剣を弾く

4「ぅぐっ!」

☆歩み寄る

4「…はぁ、はぁ…。」

☆剣を構える

5「どうした、剣が鈍っているぞ?先程までの威勢の良さはハッタリか?それとも態度とは裏腹に、味方を殺めたことへの動揺が多少はあるのか?」

4「…はぁっ、はぁっ。はっ、言うじゃねぇか。」

4(ちっ。時間切れ、か…。)

4「お前、名は?」

5「フォスだ。」

4「そうか、フォス。お前と仲良くできる気はしねぇが、それでも中々楽しい時間だったぜ。最後までやり合えねぇのが残念だ。」

5「何…?」

4「俺はトゥレラ。先に地獄で待っててやるからこの名を辿りな。決着はそれまでお預けだ。じゃあな!」

5「な、待て!」

☆斬られる音&砂の崩れる音

5「…!」

☆歩み寄る

5「成る程、そうか…。貴公も抗っていたのだな。限られた自由の中で。」

☆拳を握り、踏み締める

5「良いだろう。待っていろ、トゥレラ。地獄でまた会おう。…必ずな。」

☆剣を鞘に収める


6「何か考えごとか?」

5「スキアか。まあ、少しな。」

6「?」

5「昼間の報告を覚えているな?」

6「まあ、そりゃあ。」

5「あの者と私は、お互い相容れぬ思想を持っていた。しかし最期は敬服に値するものであったと、私は考えている。あの者は自らの避けられない運命に抗い、意志を貫いて散った。その証がこれだ。お前なら分かるだろう?」

6「これは…!何故、皆に話さなかった?」

5「いくら敵方であれ、あの者の最期を汚されたくはない。」

6「それなら今度は逆を問う。何故、俺に話した?」

5「…明日の戦いは、事実上の決戦となる。それはお前も分かっているな?」

6「ああ、だがそれに何の関係がある?」

5「この世界の戦争の爪痕も人間の尊厳も、胸に刻み私は忘れない。だが、それもずっとは叶わない。私の命は永久ではないのだから。死後も私の魂が覚えていたからといって、どうあってもこの世からはやがて風化していく。」

6「そんなの、俺が覚えていたって同じだろう。」

5「いや、お前は私の唯一無二の友であり同志だ。だから…。」

6「その先は言うな。」

5「…。」

6「お前はこの先で次代の王となり、民の為の理想郷を作る人間だ。俺はそのお前についていくと決めたんだ。勝手に悟ってんじゃねぇよ。」

5「…スキア。」

6「余計なことを考えている暇があるのか?」

5「なっ…!」

6「1番上に立つ者が揺らいでいたら、お前も含めたすべての剣が鈍る。」

5「それは…。」

6「それに、お前が戦ったそいつもあの暴君の被害者だろう?それなら城で悠々と俺達を待ち構えているあいつを倒して、せめてもの報いとするんだな。」

5「…そうだな。感謝する。」

6「ふん、今更だな。お前は前だけ向いてろ。お前の後ろには、沢山の仲間がいるんだしな。」

5「その中には勿論、お前も含まれているな?」

6「訊かれるまでもねぇ。俺はいつでも、どこにいても、確かにお前の横にいるだろう?」

5「そうだったな。」

6「ああ、忘れんなよ。」

5「はは、忘れるはずがないさ。」


5「…我こそは、悪逆の王を打ち倒す者なり!聴け、盲信せし騎士達よ!既にこの戦いは決している。王都へと至る他の道はすべて我らが制圧し、残すは貴公らのみだ。」

5「撤退するというのなら、この場は深追いしない。貴公らの王に、この事実を報告するが良いだろう。さあ、選べ。」

5「…そうか。流石は王国一の道を任されているだけのことはある…!良いだろう。このフォスと、我が同志がお相手仕る!さあ、掛かってこい!」

5「はあ、はあ…。ふん…っ!」

5「…まだだ…!まだ私は立っているぞ…!…さあ、どうした?もう終わりか?」

5「…はあっ!…はあ、はあ。」

☆膝をつく

5(どうやら、ここまでのようだ…!ふっ、トゥレラよ。貴公とはまたすぐに剣を交えることとなりそうだ。)

6「フォス!おい、フォス!しっかりしろ!…なっ、お前…!」

5「…スキア。そちらも、終わったか。」

6「ああ。」

5「見ろ、夜明けだ。」

6「…ああ。」

5「悪いな、ここまで付き合わせたのに…。」

6「全くだっ…!」

5「…すまない。」

6「クソッ…!謝るんじゃねぇっ…!」

5「…。そうだ。詫びではないが、いつかの約束を…今こそ果たす時だろう。」

6「約束…?」

5「ああ、この剣…。欲しがっていただろう?受け取るが良い。」

(5「剣は騎士の誇りだ。簡単に譲ることはできない。…だが、お前がいつかこの剣を預けるに足る人物となったなら、その時は惜しむことなくくれてやる。約束だ。」)

6「いらん、いつの話をしてやがる。それに、知ってるだろう?俺に剣技の才はねぇ。…大体、剣は騎士の誇りじゃなかったのかよ。」

5「はは、だからこそだ。今の我々はもう騎士ではないが、せめて最後の生き様くらいはな…。今のお前になら、すべてを託せる。さあ、騎士らしく約束を守らせてくれ。」

6「あー、もう!分かった、分かったよ!それなら俺は友として、お前の意志を継ぐ。俺は高尚な騎士の精神なんて持ち合わせちゃいねぇし、それで勘弁してくれ!」

5「充分、だ。いや、過ぎるな。その方が、嬉しい…!」

6「…お前が望んだ理想郷を、必ず成してみせる。この剣に誓おう…!」

5「ああ。これより先はその為の、黎明の…時代だ。あとは、頼む…!」

6「…っ!任された…!」

5「ありがとう、スキア。お前が私のそばにいてくれて、本当に良かった。」

6「…それは…俺の…っ!」

5「スキア。最後にもう一度、私の名を…。」

6「…フォス。」

5「…。」

6「…フォス。おい、フォス!フォスーっ‼︎」


6「…止まれ。」

7「はっ。」

8「あれ、気付かれちゃった。」

6「君がここを任されているのか?」

8「そうだけどー?」

6「最早この戦の勝敗は決した。ここを通してくれ。そうすれば、君を傷付けないと誓う。」

8「やだね!」

6「何故だ?」

8「特に理由はないっ!強いて言えばぁ、僕が生きてるからかな〜。ていうかぁ、敵の言葉を素直に信じるおバカさんなんていなくな〜い?」

6「まぁな。」

8「でしょお〜?ねっ、じゃあ戦おっ!ほらほら、剣抜いて?まあ、待ってあげないんだけどねっ!」

6「…ちっ、仕方ねぇ…!」

6(その者、最果てより来たりて影を照らす。)

7「スキア様!」

6「大丈夫だ!それより下がってろ!巻き込むぞ!」

7「はっ!」

6(神は与えた。太陽を纏う月の盾を。

運命は差し出した。天輪を司る剣を。)

6「くっ…!」

6(盾を翼に、剣を心臓に。

この世からは程遠く、しかし全てに程近く存在せし者。

8「ねーねーねぇー!おにーさん、本気出してるー?それとも、もしかして見かけによらず弱いのかなぁ?」

6「大正解!…剣術はな!」

6(汝は手にする。永劫を駆ける奇跡を。

我は目にする。栄光の影に軌跡を。)

8「ふぅ〜ん?あの人に応援とか頼まなくて良いのぉ?」

6「いらねぇよ!」

6(顕現せよ、裁定者の業火。エクリプシクリシス!)

8「…な、何…これ…?」

6「魔術だ。」

8「まじゅつ…?」

6「ああ。」

8「いや…やめろ…!ねぇ、やめて…!やめろ!やめろーっ!」

8「あ、熱い…あづい…!助けて、ピリアーッ!」

(1「今日は貴様に、余が自ら土産を持ってきてやったぞ。さあ、その目にしかと刻むが良い。」

8「…?ピリアー?ピリアーだ!ねぇ、僕だよ!ハオスだよ!あれ、ピリアー…?…王様、これは本当にピリアーなの?」

1「違うと申すか?」

8「違うよ!だって首しかない。それに…動かないじゃないか!ピリアーは僕を無視しない!こんなに…こんなに呼んでるのに!ねぇ、本物のピリアーはどこ?ねぇ!ねぇってば!」

1「騒がしいのう。興が削がれた。連れて行け。」

8「痛い!何するの?離してよ!ねぇ、やめて…!来ないで…!やめろーっ!」)


6(…いつ見ても、気分の良いものじゃねぇな。きっとこの子も、被害者だろうに…!だがこの剣に誓った以上、俺は立ち止まるわけには…!)

7「スキア様!」

6「…ああ、済んだ。」

7「あの者は…?」

6「大丈夫だ、じきに正気に戻る。…と言ってもこの苦痛に耐えられたら、だけどな。」

7「…?」

6「こいつを蝕む全身の狂気を焼いた。大方、あの悪の化身の実験に付き合わされたんだろう。」

7「どういうことですか?」

6「君も見ていただろう?あの子の動きは剣術は勿論、その他どんな武術にも通じていなかった。」

7「はい。」

6「元々身体能力が高かったのかもしれねぇが、あんな無茶な動きに対する説明としてはそれだけじゃ不充分だ。何故なら如何に優れた身体能力を持つ人間にも、“これ以上やったら自分の身体が壊れる”っていう本能的な枷があるからな。」

7「そうですね。」

6「だが、その枷を取っ払えれば…。」

7「そのようなことが、本当に罷り通るのですか?」

6「それが魔術だからな。その目で見るのは、今日が初めてじゃねぇだろう?」

7「ですが…。いや、そうですね。」

6「それに、俺が魔術を使ったと分かった途端にあの反応…。」

7「尋常ではない怯えようでしたね。」

6「だろう?そういうことだよ。仕方ないとはいえ、可哀想なことをしたよな。」

7「…それで、貴方様はあの者を元に戻したと?」

6「そこまではできねぇよ。失ったものは元に戻らねぇからな。」

7「はぁ、相変わらずですね。」

6「…甘いか?」

7「…。」

6「魔術というのは、俺から見れば厄災だ。いっそ魔法を使えれば良かったのにな。それか、あいつのように剣才があれば…。そうすれば、あの子をあんなに苦しませずに済んだかもしれねぇ…!」

7「ですが、貴方様の魔術に我々は何度も窮地を救われました。」

6「その窮地を救うのに、俺は何を代償にしたと思う?」

7「代償、ですか…?」

6「ああ、魔術は契約によって成り立っている。錬金術と混同されていた時代もあったらしいが、それ相応のコストが必要という意味では確かに似ているかもしれねぇ。勿論、魔術は魔力という名の素質と正確な理論を兼ね備えていることが前提条件だがな。」

6「あの子もクソ王によって、頭の中を弄られた時に何かを失っているはずだ。もしくはあの化け物じみた運動性能そのものが魔術によって得た成果であると同時に、代償なのかもしれねぇ。さもなきゃ、業を背負っているか…。」

7「業…?」

6「ああ。そして、それは俺も例外じゃねぇ。当然、魔術を行使する為に代償を払っている。俺は…そのコストとして、村を1つ滅ぼしている。」

7「な、それはどういう…!」

6「俺はな、そいつらの犠牲の果てに生まれた怪物だ。俺の中のいくつもの命を代償に、俺は魔術を使い続けている。戻してやることは勿論、俺には何もできねぇ。…が、残留思念は今もこの身体に絶えず渦巻いている。こいつらは確かに生きてるんだ。何の為に俺を生み出したのか、諸悪の根源がくたばっちまった今となっては知る由もねぇけど、酷いこともあるもんだろう?」

7「…!」

6「ああ、そういえば…。君が初めて俺の魔術を見た時、魔法かと問うたな。」

7「そんなことも、ありましたね…。」

6「勘違いした理由が分かっただろう?魔法なんて都合の良いものはこの世にねぇが、俺自身が半永久機関だからそれっぽいことができる。」

7「貴方様は…!」

6「変な同情はやめろよ?俺はこの人生を悲観しちゃいねぇ。むしろ感謝してるんだ。」

7「感謝、ですか?」

6「ああ。俺みたいな化け物が曲がりなりにもかろうじて人らしく生きられてるのは、あいつに出会ったからだ。どんなものをも照らして仲良くなっちまうあいつがいたから、俺はこいつらの声や力に溺れることもなく“俺”でいられたんだ。だから、あの子みたいな犠牲は嫌なんだよ…!」

7「ええ…!」

6「君もそう思うか。それならアコルトス、君にあえて問おう。」

7「何でしょう?」

6「君は今までの話を聞いて尚、さっきと同じ言葉を同じ気持ちで紡げるか?俺の魔術に、救われたと。」

7「…!いえ…。」

6「それで良い、それでこそだ。いや、そうじゃなきゃならねぇ。この身はとうに、誰よりも汚れている…!だが、俺は誓った。だから、進む…!人々の未来、その礎となる為に…!さあ、行くぞ!」

7「…はっ!」


7「…本当にお1人で行かれるのですか?」

6「ああ、ここまでご苦労だったな。アコルトス。君のお陰で、あの王に気取られることなく陣を敷く準備ができた。」

7「少しでもお役に立てたなら幸いです。」

6「少しどころか、大いに役立ってくれた。本当に感謝している。ここからは、互いの成すべきを成そう。」

7「はい…!その先で生きてまた貴方様と再会できることを、心から願っております…!どうかご無事で。」

6「ああ、君もな。」

7「スキア様…!では、ご武運を…!」

6「じゃあな、アコルトス。」


1「よう来た、稀代の魔術師よ。」

6「…歓迎どうも。偉く落ち着いてるんだな。」

1「何を白々しい。あれだけ派手に暴れ回れば、気付かぬ方がどうかしておる。」

6「それもそうか。だがそれにしても、俺が魔術師ってことまで知ってるんだな?流石は同じ魔術師同士、通じ合うところでもあったか?」

1「それこそだ。この城には余が自ら、いくつもの結界を重ねて張っておるのでな。その防壁を破ってここまで来られる者は、魔術師に限られる。それも、相当の手練れにな。」

6「成る程、それなら話は早い。」

1「余の首を狙うか、不届き者め。頭が高いぞ。」

6「生憎、貴方に下げる頭はねぇんでな。行かせて貰おう!」

1「はは、生意気な。やってみるが良い!できるものならな!」


1「何…?これは…!」

6「…終わりだ、オスクロ王。」

1「余の結界を破ったのではなく書き換えていたのか、貴様は。」

6「ああ。」

1「よもやこの余が気付かぬとはな。派手に暴れていたのは目眩しか。始まる前から既に勝負は決していたというわけだ。」

6「…貴方の死によって、平和は齎されるだろう。」

1「余の死によって平和だと?世迷言を。ならば試してみるが良い。」

6「…。」

1「ここまで来て、ここまでして、何を迷うことがある?」

6「…少し話さねぇか?」

1「話す、だと?」

6「ああ。貴方には本当に人間を、貴方自身を含めた彼らの未来を信じる心はねぇのか?」

1「人形風情が、まだほざくか。今ここで余が散ったとて、また新たな余が現れ時代を繰り返すのみ。人間とは、そういう生き物であろう?」

6「そうかもな。だが、人は学ぶ。そこに希望があるとは思わねぇか?」

1「思わぬ。叶ったとて、所詮それは刹那の虚栄。守る術なき者が、無責任な戯言を喚いているに過ぎぬ。何より貴様自身がそれだけ血に塗れながら、よくそのような絵空事を信じられるものだ。」

6「はは、言葉もねぇな。だが、術ならある。」

1「何?」

6「悪逆の王よ。貴方も知っての通り、俺は魔術師だ。世界と契約する術を持っている。この意味、魔術に精通した貴方には分かるだろう?」

1「ならば、どうするつもりだ?」

6「この戦いを収め次代の王を選定した後、まずはその王と共に民の為の国を築く。あいつが望んだ、理想郷を…!」

1「ほう?貴様は王にならぬのか。」

6「さっきも言っただろう?そうなったら俺には、他にもやるべきことがある。そもそも、貴方には分かるはずだ。今同志達を纏めているのはただの代理で、本来俺は人々の前にも上にも立って良い存在じゃねぇ。勿論、その意志もねぇしな。そういうのにはもっとまともで高尚な精神を持ち、人々に愛されるやつが適任だ。」

1「自らのことをよく分かっているではないか。それで?他にやるべきこととは何だ?」

6「…俺自身を代償にした魔術を発動する。それによって、この世界の安寧を守り続ける。」

1「はっ、正気か?その程度の代償では、何にもなるまい。」

6「そうだな。だから、“すべての俺”を代償にする。」

1「…成る程。それを以て貴様という存在そのものがなくなる。その代わりに、数多ある世界の1つである、この世界の番人になろうというわけか。他の可能性を、世界を、自分を捨ててでも、たったそれだけ、たかが1つの現実の為に、それを成すと。…貴様は、この世の奴隷にでもなるつもりか?」

6「それが俺の…あいつへの誓いであり、責任の取り方だ。」

1「それで?貴様の犠牲となった者達はどうなる?そのような浅はかな方法で、本当に責任を取ったと抜かすか?余からすれば、かの者達の誇りも無念も蔑ろにしたままの愚策にしか思えぬ。貴様が消えることで生じる凡ゆる時空や次元の歪み、その補正の犠牲となることに、何ら変わりはないのだからな。」

6「貴方が人の心や未来を語るか。」

1「酷いことを言うのう。それは貴様もだろうが、人外の魔術師よ。」

6「…それもそうだな。」

1「余はこれでも人の王として、或いは一個人として、民と世界の行く末を憂いておるのだが。」

6「そうか、ならば答えよう。貴方の憂いは、全くの夢想であると。」

1「ほう?」

6「俺は、世界の裁定者を召喚する。」

1「裁定者、だと?」

6「そうだ。この世界が破滅に向かって傾いちまった時にのみ介入する、そういう存在だ。人々が道を踏み外さねぇ限り、そいつはただ世界を見守っているに過ぎない。」

1「何を申すかと思えば、貴様は神でも呼び出すつもりか?」

6「バカを言うな。そいつは魔法と一緒だろう。そんな都合の良いもんじゃねぇよ。先刻の貴方の発言通り、あくまで“番人”だ。」

1「…?」

6「そうだな…。今はただ、俺の頭の中でのみ漂っている抑止力と呼ばれる概念だ。それを具現化し、存在としての形を与える。だから、ある意味創造と言っても良いかもな。」

1「創造、か。」

6「ああ。その瞬間の俺が、それより先ひと時たりとも絶対にいなくなることのない存在を構築する。“この俺”を依代としてな。」

1「その計画においての貴様は代償であり、同時に依代でもあると。」

6「そうなるな。再構築の果てにその存在が生まれるということは、つまりどんなに原型を留めていなくても、そいつの材料は俺なんだ。確実に俺はいなくなるが、確かに俺でできている。…ちょうどこいつらと同じように。」

1「それが何だというのだ。」

6「分からねぇか?」

1「何?」

6「つまりは、俺が背負えば良い。こいつらだけじゃねぇ。今まで俺が戦い傷付けた者、倒した者、見捨てた者、救えなかった者…。そのすべての阿鼻叫喚が、呪詛が、断末魔が俺に刻まれている限り、その者達の思いが世界の狭間を彷徨うことは決してない。」

1「問答無用で巻き込まれる、他の貴様達もか?」

6「ああ、俺には“この俺“を恨んで貰う…!」

1「詭弁だな。大体、貴様の言うことは何から何まで机上の空論ではないか。1つでも狂いがあれば成り立たぬ。」

6「…そうだな。最悪、俺が消えるだけで終わる可能性もある。」

1「それこそ滑稽極まりない。そのような分の悪い賭けに、貴様は己のすべてを注ぎ込むと?」

6「ああ。」

1「…貴様を見るに、一応は人らしく生きようとしてきたのだろう?その貴様が、人間の領分を遥かに超えようというのか?いくら人外であろうとも、弁えぬにも程があると思うが?」

6「…ああ。」

1「それだけの覚悟はあるということか。では、仮に事が上手く運んだとしよう。そうなれば、貴様という存在や概念は裁定者とやらの贄となり溶け消えるわけだが…。その状態となって尚貴様は、貴様の犠牲になった者達の思いを余すことなく、溢すことなく、永劫受け止め続けることが本当にできると?その為の強靭な自我を、貴様は持っていると?」

6「…そうだ。」

1「ふん、その割にまだ完全には迷いを断ち切れていないようだ。」

6「否定はしねぇ。」

1「覚悟があるのではなかったか。」

6「それは間違いねぇ。俺が背負うべきものへの覚悟は、揺るぎねぇよ。」

1「では何だと言うのだ?余をこんな茶番に付き合わせおって。」

6「…そうだな。ここまで聞いた貴方に、万難を廃して提案する。互いに手を取り合い、民の為の国を作らねぇか?」

1「何?」

6「貴方は、本当に最初から今の貴方だったか?かつて善き王を目指していたことが、一瞬でもなかったと言えるか?よく考えてみてくれ。…それに本来なら、それがあいつが夢見たこと…。この剣で成そうとしたことでもあったんだ。」

1「何を申すかと思えば…。そのようなくだらぬ妄言に耳を貸すつもりはない。」

6「…。」

1「それに先刻からあいつあいつと、今は亡き面影、亡霊に囚われるなど…。流石は人形、借り物の理想でしかものを語れぬのだな。哀れよのう。」

6「…これは俺の意志でもある。」

1「何?」

6「あいつは…フォスは俺を化け物として見なかっただけじゃなく、人として、友として向き合い、志を共にする仲間として常に信じ続けてくれた。そしてある時、あいつは言ったんだ。すべての理不尽な悲劇がない、民が安心して平穏を謳歌できる世を迎えたいと。実際それは不可能に限りなく近いかもしれねぇ。でも、誰もが虐げられねぇ世界を俺も見たかった。だから俺はあいつと一緒に戦うことを選び、志をも引き継いだんだ。これは…紛れもなく俺の意志だ…!」

1「…ふん、言ってくれるではないか。余の治世に余程の不満があるようだな。」

6「俺が今まで、一体どれだけ貴方の犠牲者を見てきたと思っている?フォスから聞いた騎士の話だけじゃねぇ。ここに来る途中で会った、城門の番をしていたあの子供だってそうだろう?」

1「むしろ、すべての者は余の役に立つことを光栄に思うべきだ。余のモルモットとしてかわいがってやった者などは、特にな。」

6「…俺は、それでも…!貴方が魔術師である前に人であるなら、僅かでも望みがあると信じたい。」

1「望み…?」

6「貴方が卓越した魔術師であればある程、この話に魔術師として反論してくることは予想ができた。大体、人としての貴方とて不本意だろう?俺の犠牲者の1人として、存在が歪められるなど。俺だって、永きに渡り多くの人々を救う為とは言え、そうなるやつらを出すようなこの策はできれば避けたい。そんな人柱は、俺だけで充分なんだよ…!」

1「人柱、か。ふん、異なことを。貴様はあくまで、人であることに拘るのだな。」

6「…。」

1「そうだな。それも含めて、貴様の企ての先にある余の結末に不快感があることを否定はせぬ。」

6「だったら…。」

1「断る。」

6「なっ…!」

1「貴様に一か八かの剣を抜かせる。そして、恒久の孤独と苦しみを与えてやる!それが余の、この生での最後の愉悦である!その愉悦こそが、貴様が余に齎そうとする不快感を払ってくれるであろう!」

6「…!」

1「はっ、戯け者が!余をみくびったな!余はそもそも貴様が気に入らぬのだ!人形風情が余を力で凌駕し、上回るなど!挙句、手を取り合おうだと?貴様は国や余の命に留まらず、余の魂までも蹂躙しようというのか!」

6「貴方は…そうか…!そうなのか…!」

1「はっはっはっ!見よ、この顔を。これは傑作だ!いやはや、とんだ痴れ者よ!面白い!思い上がりにも程がある!余が貴様の思惑通りに動くと考えるなど!これを笑わずして何とする!まさしく笑止千万よ!」

6「…。」

1「世界の裁定者?はっはっはっ!良いではないか。ならば成してみせよ!余を屠り、平和を勝ち取り、その安寧の守護者となってみせよ!貴様には最早、その道しかない!否、余がそれ以外選ばせぬ!」

6「貴方はその為だけに死を、その果てにある運命を受け入れると言うのか?」

1「そうとも。元より惜しんだ覚えはない。だが、忘れるな!余の命はここに果てるとも、魂は永久に不滅ぞ!遠き地にて、この世界をいつでも見ておる!貴様の企みが潰えたその時、余は再び舞い戻り君臨するであろう!」

6「…心得た。お陰で迷いは晴れた!ならば俺は、久遠の果てまで己が意志を全うするまで!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ