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海の家【ラプラス】  作者: 島クジラ
開店準備
5/6

第5話



味の表現てなんかむずいな





水上レースから解放され、顔を青くしたホジロを尻尾で持ち上げて陸を歩くセベックと、ルンルン♪と音符が聞こえてきそうな軽やかな足取りのアトラは、観光地として利用されるビーチ近くの岩場まで戻ってきていた。



「なんで浜辺まで行っちゃ駄目なの?」


「ギャウギャウ」


「お前ら、鏡って知ってるか?」


「なにそれ、おいしいの?」


「ギャウワァ?」



海獣の中でもより一層狂暴な見た目(中身は繊細)なセベックと、完全に孤児(ただの元気小僧)にしか見えないアトラで。もうホジロには未来が見えている。



˝きゃああああああ!!˝


˝おい、警備隊長呼んで来い!!˝


˝子どもを海獣のエサにするつもりか!?あの男を止めろ!!˝


˝そこの男!!子どもを開放しなさい!˝



˝絶対、俺が悪人に仕立て上げられる……!˝と、ホジロは確定した未来が見えていた。自分の顔が強面なことくらい分かっているつもりだ。

誤解しか生まない。もはや、反論すら許されない気がする感じていた。


特にこの島は【犯罪】というのに敏感だ。

疑われるだけで、これから先の生き方すらも左右されかねない。



「胃がいてぇ……」


「「?????」」


「なんでもねぇ……とりあえず、この辺で待ってろ……絶対動くんじゃねぇぞ?絶対だからな!!!」


「うん、分かったー」


「ギャウギャウ」


「海で泳ぐのもダメだからな?」


「えぇ~……」「ギャウ~……」


「当たり前だろうが!!?」



海獣に追いかけられる少年を発見!!

なんて、見出しの新聞が明日の朝にばらまかれるだろうとホジロは恐怖した。


もう一度、アトラ達に待っているように言い聞かせ、ホジロはビーチにある店に向かう。

入った店は、バーベキューなどのキャンプで使う道具を借りれる店。店からバーベキューセットに、簡単な調味料。包丁などの調理道具も借りた。



「よし、こんなもんでいいだろ……」



高級魚をバーベキューで、というのもたまにはいいかと思ったが、こんな機会早々ないなと感覚がおかしくなっていることをホジロは感じた。


大荷物にはなったが、この程度なら一度で運べる。

ホジロはセベックとアトラの待つ岩場まで戻ってきた。



「うわぁ…☆」キラキラッ!


「ギャウゥ…☆」キラキラッ!


「お前ら、まだ飯作ってねぇからな?」


「だって、なんかたのしそうなんだもん!」


「ギャウギャウ!!」


「ほら、セベックもなんかいいにおいするって!!」



˝バーベキューセットに飯の匂いでも残ってんのか?こいつの鼻なら感じ取れそうだな…˝



˝まぁいいか˝と、テキパキとバーベキューセットの準備を終え、今回の食材の下準備をする。

といっても、基本的に捌いて終わり。あとは串にさすなり、そのまま焼くなり何でもいい。



「まずは、崩貝からだな」


「貝だぁ~!!」


「ギャウワア!!!!ギャウギャウ!!」


「だぁ!!?ワニ公暴れるな!料理出来ねぇだろが!!」



好物の調理と聞いて興奮最高潮のセベック。

衝撃波で、周囲の機材が揺れるためホジロに怒られた。



「お前らはバクバク食べてたが、崩貝は基本的に【砲手】と言われる攻撃用の触手は硬くて食えん。だから、殻を開けて触手を切り取る。んで、中央の身だけを食べるんだよ」


「へぇ~」「ギャウ」


「そのままでも美味いが…崩貝は焼きが一番美味い。こんだけあるんだ、醤油でもバターでもいいが……まずはそのまま食うのがいいな」



バキッ!と、殻をはがし、そのまま砲手を手早く切り捨てる。

中央の身の部分を包丁で器用に切り離す。

プリプリとした白く丸いホタテの様な身を、そのまま網目の上に乗せて焼く。


ジュージューという音と、立ち上る香ばしい香りが食欲をそそるのか、アトラとセベックは顔がユルユルになりながらよだれを滝のように垂らしていた。

9個ほど並べたのち、ホジロは内3個は醤油をたらし、もう3個はバターも使いして焼いた。

貝殻を皿代わりに、垂らした醤油やバターがさらに食欲に直撃するような香りを放ち、口を閉じているにも関わらず、アトラ達はよだれを押えられなかった。



˝頃合いだな˝



火が完全に通ったことを感じたホジロは素早く貝を網目から持ち上げ、紙皿へと移す。


˝ほらよ˝と、紙皿に移された貝を受け取るアトラは、まずはセベックにと持っていく。



「セベックじゅる…貝だよ…んく」


「よだれダーダーじゃねぇか」


「ジュルワァ……」


「よだれで口調変わってやがるな……」



口ではツッコミつつも、自身の料理に食べる前から喜びを隠せない二人に、流石のホジロも頬が緩む。



「はい、アーン」


「ギャーウ」



あつあつなので、少しふぅーっと息をかけて冷やしてから、アトラはセベックの口に崩貝を入れてあげた。



「っ!!!!」


「どう?セベック」


「ギャワア!!ギャウギャウ!!」


「ホント!?美味しい!!?」



˝ぼくもぼくも!!˝と、自分用に取り分けられた崩貝を口に入れた。


はふはふ、とあつあつの崩貝を一生懸命口で噛みながら味を楽しむ。カリカリと焼かれた部分と、身の中心のふわふわとした食感の違いを感じながら、ホタテよりも深い味が口いっぱいに広がった。



「ん~~~~~!!美味しいぃ!!!」



「崩貝は焼いた時の方が刺身の時よりも身がフワフワになる。焼いた部分はカリカリと食感も楽しくなるから、こういう焼き料理には合う」



˝次はこっちだな˝と、醤油で焼いた崩貝を渡す。

先ほどよりも強い香りに、アトラとセベックも目を輝かせる。



「あーむ」「ギャーウ」「んぐっ」



˝んむぅ~~~~!!˝と、声にならない叫びをあげるアトラとセベック。


先ほどよりも強くなった香りと、醤油の強い味が身に染みる。

˝これは酒が欲しくなるなぁ˝と、ホジロは味の濃さを強く感じた。



「「はぐはぐっ」」


「ワニ公はともかく、小僧も大概大食いだな……」



味に浸り続けることも出来ず、とてつもない速度で貝を平らげていく二人を見て溜息を吐く。といっても、騒がしいのが嫌いなわけでもない。

˝もっともっと♪˝と、ノリノリの二人に仕方ないと思いながらもニヤリとホジロは笑う。


焼き、醤油ときたらメインはバター醤油で絞め。


バターの芳醇な香りが先ほどよりも食欲に直撃する。凶器ともいえる香りを前に、エサを待つペットよりも落ち着きのないアトラ達は、皿をもってホジロを穴が開くほど見ていた。



「最後はこいつだ!」


「おおー!!」「ギャーウ!!」



トロリと溶けたバターに浸かっている崩貝の身が輝く宝石のようにも見える。宝石の横で、(よだれ)が流れてもいるようだが…。

しかし、よだれが皿にかからないようにしているのは流石である。



「いただきます!」



勢いよく口に放り込む。

ジュワァっと、口いっぱいに旨味が広がる。先ほどよりも圧倒的に濃い味。しかし、味の調整は完璧でまったくくどくない。


上品な味だけが口に広がっていく。



「うみゃい~…」


「とうとう、言葉を忘れたな」


「ギャウ~」


「こっちは元々人間じゃなかったわ」



大満足。

今まで味わってきたのは生の食材。調理というにはおそまつだった、焼くだけの食い物だった。


しかし、それも今日まで。



「おじさん!もっと食べたい!!」


「おう、次はこのスピネルブリームを焼いてくぞ」



ここには新しい味を教えてくれる者がいる。

今までたくさん獲ってきた食材を、今度はどんな風にしてくれるんだろうか…?


見た目は?味は?香りは?


楽しみで仕方がない……!!



「にひひひひ……!!」


「あ?なんだ小僧、いきなり笑い出しやがって……」


「なんでもなーい」


「……ギャウギャ」



その様子を見て、セベックだけが心の内を理解していた。



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