私の趣味をなぜ知っている?
ラジオの音声をBGMにしながら雑誌を読んでいた。
夏の夜が訪れていた。
ミーンミンミンミンと蝉の鳴き声が日中は煩かった。
暑苦しい気温の昼間とは違い今は涼しく感じる。
ラジオは私の趣味に合うものばかり流れて飽きることなく耳に言葉を届けてくれた。
今日も、昨日も、一昨日も、その前も、もっと以前も。
私の趣味をこれでもかというくらい的確に。
そこで私は読んでいた雑誌の手を止めた。
――急速に体温が下がる感覚はなんなのだろうか?
エアコンがついているわけでもなく、扇風機がついているわけでもない。
ラジオの声は相変わらずの様子で話しかけてくるのだ。
今日も。
ノイズとともにカーテンの音が聞こえた気がする。
――窓の外はきっと素敵な景色が広がっていますよ?
締め切ったカーテンの向こう側を見ることはできなかった。
――最近は暑い日が続くので、窓を閉め忘れないでくださいね?
――また、会いましょうね?本日が最終回。次回からは・・・
その後のラジオの声を覚えていない。
眠ってしまったのだろうか。
次の日、私は新聞のニュースで知った。
最近私の周辺の家で空き巣被害が出ているらしい。
特に何か盗まれるわけでもなく部屋を荒らされるらしい。
どの家も窓の閉め忘れが原因だ。
メッセージカードが毎回落ちているらしい。
『窓を開けて?』
『会いましょう?』
『ラジオの続きをします』
『私はたった一人のファン』
『忘れないで』
私はある日間違いをおかした。
月日も流れてそんな奇妙な出来事忘れていたのだ。
暑い夏の日の夜のことだった。
寝苦しくて窓を開けたまま眠ってしまったのだ。
物音で目が覚めた。
寝ぼけていて何も判断ができない。
――ラジオのあの声がする。
窓の外は綺麗な夜空だ。
『新番組の時間』
目を覚ますと、部屋だけが荒らされていた。
そのメッセージカードの文章からしばらく目が離せなかった。
その日の夜ラジオを久々につけた。
ノイズ交じりにこう言われた。
『俺以外に浮気するの?』
慌ててラジオを止めた。
それからは布団に潜り込んで眠るようになった。