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第七話 有能なる執事たち



 ずっと手に入れたいと臨んだ指輪が、今クラードの手に渡った。

 しかし今そこにあるのは、かつて想定していた仄暗い喜びなどでは無い。

 ふわりと包み込むような、幸福感に満ちた喜びだ。


 そんな想いを胸いっぱいに抱えながら、クラードはゆっくりと口を開く。

 彼女の想いに、言葉に答えよう。

 そう思った時である。


「お邪魔なのは重々承知していますが、時間も無ければムードもへったくれも無いこんな時と場所なので、一度逢瀬は控えていただけますと幸いです」


 その声にハッとする。


 そうだった。

 ここは地下の牢獄で、今は――イマイチ状況はよく分からないが――少なくともゆっくりしていられる時ではない。


 甘い夢から起こしてくれた目覚ましを探せば、タンッタンッと階段を下りてくる執事服の友が居た。


「ノースタス……無事に逃げてたか」

「普通は『自分は良いから従者だけは』などと主人は言わないのですがね。しかしその分、クラード様がお望みのものは用意できたと思います。ついでにここに来る途中で見つけたご令嬢をお一人ご案内してきた私の手腕を、クラード様は少し褒めた方が良い」


 自分の有能さを茶化しながら報告してくるノースタスに、クラードは喉で笑いつつ短く「そうか」とだけ答える。

 するとノースタスが「それよりも」と言いながら、一体どこから持ってきたのか、鉄の棒を両手でギュッと握りしめて鍵の締まった牢の入り口の前に立った。


 それを見止めて、クラードはレイティアに「大丈夫だからな」と耳打ちしながらその両手を包み込む。


「今、上でマークさんが無双中です。私も手伝っていましたが、数が減ってきましたので加勢が来る前にクラード様を助け出さなければと思いまし――てっ!」


 ガキィンという音を立てて錠前が壊れた。

 「キャッ」と小さく悲鳴が上がったが、もちろんレイティアに被害はない。




 どうしようもなく痛かった体が意外と動くと感じるのは、指輪が何らかの副次作用をもたらしたのか、男の意地のお陰なのか。

 牢獄から出たクラードは、ノースタスを先頭にして好いた女の手を取って地上へと一気に駆け上がる。


 地下では気が付かなかったが、思いの外明るい月明かりが地表を照らしている。

 まず見えたのは、痛みに呻く屍たち。

 その中心にたった一人立っていたのは、クラードも良く知る人である。


「お帰りなさいませ。掃除が行き届いておらず申し訳ありません、お足元にお気を付けください」

「あぁ、マークにも礼を言う。ここまで助けに来てくれて感謝するよ」


 クラードが彼にそう告げると、いつもの調子でほのほのと笑いながら彼はシレっと爆弾を落としに来る。


「いえ、私には過ぎた言葉です。それに見ていられませんでしたからな、決意に燃えながらもまるで生まれたての小鹿のようにプルプルと震える、頼りないお嬢様の姿を」

「マ、マーク!」

「ほっほっほ、余計な事を言いましたな」


 頬を膨らませて「もうっ!」と怒る彼女と、動じないマーク。

 しかし彼は嘘は言わないし誇張もしない。

 ともなれば、レイティアがどれだけの勇気でここまで来てくれたのかが目に浮かぶ。

 

 嬉しくて思わずニヤつきそうになる顔を、どうにかするのが大変だ。

 妙なところで一人戦っていると、マークが「それで」と聞いてくる。


「次はどちらに向かいますかな?」


 彼の目は「まさかこのまま帰る訳じゃないでしょう?」とクラードに確認してきていた。

 察しが良くて実に助かる。


 ノースタスに視線を向けると、彼は頭を垂れながら「現在は、王座の間に」と告げられた。


「決まりだな。向かうは王座だ。――もう、夜が明ける」


 白んできた空を見て、静かにそう呟いた。

 周りを見回し「ついて来てくれるか?」と尋ねれば、まずマークとノースタスが声を揃えて「お供します」と短く告げる。

 レイティアも、彼を見上げてしっかりと「どこまでも」と微笑みながら頷いた。




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