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第四話 気付いてしまった彼女への想い




 それ以降、2,3日に一度の頻度でクラードはレイティアの元を訪れた。

 一体どこに目を付けているのか、その度に毎回王城で宿敵・ウィルダムと鉢合わせるのだけがネックなのだが。


「また来たのか、クラードも飽きないなぁ。暇なのか?」

「飽きないというのはおそらく、二週間もこちらを軟禁しておきながらそのアドバンテージも活かせず未だに探し物を続けている方の事を言うんじゃないですか?」

「はははははっ、暫定とはいえ王座に就いたこの私にそのような口が利けるのもお前くらいのものだ」

「はははははっ、何を言うんです。俺と()()()の仲じゃないですかぁ」


 毎回このような探り合いとマウント合戦が繰り広げられる。

 二人して「はははははっ」と笑い合う姿は、ノースタス曰く「怖い。ただただ怖い」という感じらしい。

 が、クラードからすれば毎度毎度絡んでくるのはあちらの方で、ただそれに応戦しているだけの話だ。

 つまり不可抗力である。

 

 ちょくちょく入れてくる探りを上手くあしらって、王城内のあちこちを周り指輪を探すふりまでしてから、王妃の部屋から抜け道を通ってあの屋敷へと向かう。

 最早これは、毎回のルーティーンになりつつあった。



 彼女・レイティアは、少し話を聞いてみるとやはりと言うべきだろうか。

 どうやら過ぎた箱入りらしい。


 物心ついた時からずっと、この屋敷から外に出た事が無いんだとか。

 彼女が会話をした事が記憶があるのも、執事のマークとたまにここに来ていたらしいニアリーの二人だけらしく、この二人が彼女に必要な知識を教えた結果できたのが、初対面であみあみ背もたれの椅子の後ろに逃げ込んだ、この世間知らずな臆病者……という事の様だった。


「外の事をもっとたくさん教えてくださいませんか?」


 臆病ではあるが好奇心はいっちょ前にあるようで、二度目の訪問でそんなお願いをされてからは、クラードはしきりに外の話を彼女に教えるようになった。

 彼としては、良い口実が出来たという感じだ。

 これこそが『彼女と親しくなる』という目的への最短距離だと思ったし、実際にそれは証明されもした。

 

 二人は仲を深めていき、互いに軽口が叩けるくらいまでには親睦を深めた。

 こうして距離を縮めていき『真実の愛』を手に入れれば、あの指輪が手に入る。

 そうすれば復讐の準備が整う。

 あとはあの忌々しい暫定王(ウィルダム)を王座から引きずり下ろして罰を下す。


 そんな計画だったのに――。




 いつからだろう。

 クラードは彼女と話す内に、何に喜び何に怒るかを知ってしまった。


 存外クルクルと回る表情とか、目が見えなくても意外と器用に何でもこなす所とか。

 かと思ったらふとした瞬間に抜けた行動をしたり、突然ズレた反応をする。

 そんな彼女との日々が楽しくて、気が付けば目的なんてそっちのけで彼女との時間そのものを楽しんでいる自分が居た。



 クラードは、そんな自分に少なからず戸惑った。

 自家ではよくボーッとしたし、そのまま紅茶を口に含んで舌を地味に火傷した。

 

 そんなクラードの気持ちが固まったのは、母と慕ったニアリーの死を初めて知った彼女を見た時である。

 何度目かの訪問時に、レイティアは言ったのだ。


「それで、お母様は次はいつ来られるのでしょうか?」


 そうか、彼女は知らないのだ。

 ニアリーの訃報を。


 当たり前だ、こんな所に籠っていれば、逆に知っている方がおかしい。

 クラードは、この時ほど『ニアリーの思し召しでここに来た』と騙った事を後悔した事はない。

 しかし「彼女の名を借りればこそここに来れているのだから、やっぱりこれは自分の役目だ」と決心し、こぶしを握って事実を告げた。

 

 その時の、彼女の無垢な涙が忘れられない。

 ベビーブルーの瞳からポロポロポロポロ流れる涙を拭う資格はまだない気がして、気が付けば冷えたその指先に、ただただ黙って温もりを分け与えていた。



 この時ほど、胸が痛かった事はない。


 彼女が悲しんだあの時、クラードはもう二度と彼女に泣いて欲しくないと思ったのだ。

 それが彼の自覚だった。




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