表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/86

仮面舞踏会


エイマーズ伯爵夫人の主催する仮面舞踏会は、ダンスホールを貸し切って盛大に行われた。

近衛兵を伴って、馬車で会場へ向かった。隣にはソフィー妃。

皇太子妃らしからぬ派手なドレスに身を包んでいる。仮面舞踏会では仮面のみならず、衣装も普段とは雰囲気を変えて、別人に変装するという趣向だ。

私も普段は着ないような深紅のドレスに身を包んでいる。これで仮面を着ければ完璧に正体不明だ。


「ドキドキしますわ」とソフィー妃が馬車の中で言った。


「ですね」


久々のお忍びでの外出。非日常に刺激を感じ興奮している。少し悪いことをしている、という感覚も興奮に寄与していた。

私たちは共に十六歳で、生まれついた境遇も同じ。衣食住には何一つ不自由がないが、古いしきたりとしがらみに縛られ、自己の意思で自由な人生は歩めない。

このくらいの気晴らしは必要だ。


ダンスホールへ着いて、伯爵夫人から贈られた会員証を二枚提示して入場した。

今回の舞踏会は平民も参加可能なため、夫人からの招待状は必要ないが、このダンスホールの会員であることが入場条件であるらしい。

平民といっても誰でも参加できる訳ではなく安心だ。会員になるためには会員からの紹介と、高額な会費が必要だ。


会場にはホール運営者の護衛が配備されているため、伴ってきた近衛兵は会場外で待機させるのがマナーだ。

ソフィー妃と二人で連れだってダンスフロアへと進んだ。


曲が流れている最中だったが、私たちの登場に会場が色めきたった。

全員がダンスに興じているわけではなく、ワイングラス片手に談笑していた者や、一輪の薔薇を胸に差して佇んでいた男たちが、一斉にこちらを見た。


男たちはその一輪の小さな薔薇を差し出して、女性をダンスに誘う。

女は余程のことがない限りそれを受け取り、髪に差して、一曲分のダンスを共に踊る。同じ相手と続けて踊ることは出来ない、素性は名乗らない、というのが仮面舞踏会の主なルールだ。

髪に差した薔薇の数で、今夜のクイーンが決まる。ちなみに薔薇は大量に用意してあり、会場の従業員が花籠を持って立っている。


曲が終わると同時に、すっと目の前に一輪の薔薇が差し出された。

ソフィー妃も同様だ。私たちはそれを受け取り髪に差し、見知らぬ相手にエスコートされてフロアの中央へ出た。


曲が始まった。聞き慣れたワルツだ。

最初に踊った相手は羽根付きの奇抜な金色の仮面を着けていたが、身なりは普通で、ダンスも普通に上手かった。

二番目に踊った相手は黒い仮面を着け、銀糸で星座が刺繍されたタキシードを着ていた。身のこなしが優雅でそつがない。

その後三人目四人目と踊り、少し疲れたので二階の観覧席へと移動した。

吹き抜けの広いダンスホールの、階段を上がれば階下を眺められる席があった。踊りに来たが踊る気分ではない、皆と談笑する気分でもないという者のための避難スペースだろう。


思ったよりも退屈だった。

平民一緒くたの、もっと活気のあるパーティーかと思ったが、貴族だけで開くものとさほど違いがないように思えた。

本当にここに平民がいるのかと疑問に思うほど、どの者も上等な衣装に身を包み、上品で優雅だ。

平民といっても、貴族よりも財力のある成金のブルジョアが、年々その勢力を拡大していると聞く。

隣国との戦争により国土、特に地方は荒れたが、彼らが事業拠点としているのは主に植民地諸島であったため、本土ほど影響がなかったのだ。むしろ戦争中も着々と事業を拡大してきたと言える。

納税と納品で国へ大きく貢献してくれる大事な存在だが、力を持たれすぎても困るというのが、私たち皇族や貴族の本音だ。


ふと階下に目をやると、ソフィー妃が踊っているのが見えた。

軽やかなステップ、男の腕にそっと添えられた手。くるりとターンを決めるとドレスがふわりと広がり、花が咲いたように見える。


星座模様の刺繍が入った、紺と白のタキシードを着たお相手は、私とも踊った男だ。

彼はきっと貴族だろう。

姿勢と身のこなしが特に美しく、エスコートのスマートさといい、昨日今日で身に付いたのではないと感じる気品があった。

輝くような金髪に、すらりとした手足。仮面から覗いたオリーブ色の瞳は、上品な笑みを含んでいた。

それにとても良い香りがしたな、と思い返していると曲が終わった。


ソフィー妃と星の貴公子はダンスが終わっても離れず、手を取り合って談笑場の奥にあるテラスへと向かった。

妙な胸騒ぎがした。

えっ、まさかいい感じになったりしませんよね?

ちょっとお話するだけですよね?



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ