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皇女レベッカ・ワトリング



この世に生を受けたとき、私は小さな左手に金貨を一枚握り締めていたそうだ。

フレニア帝国の皇女、レベッカ・ワトリング生誕の逸話として語り継がれているが、真偽のほどは定かではない。


「生まれながらの守銭奴だな」と意地悪く揶揄するのは二番目の兄、ハーシェル皇子殿下で、長兄のジョエル皇太子殿下は「生まれながらの愛国者だね」と誉めてくださった。

金貨にはワトリング家の紋章と私たちの偉大なる皇帝陛下の肖像が刻まれている。貨幣は国の象徴だ。

お守り代わりにと産後の母か、私を取り上げた産婆が握らせたというのが、きっと逸話の真相だろう。そう言ってはロマンがないので皆黙っている。


守銭奴などと揶揄されるのは快くないが、お金ほど大事な物はないと思う。

はっきり言って、我が国はいま貧乏だ。十七年に渡る隣国との戦争に大金を投じ、国力は削がれ、両国共に疲れきったために和平を結んだのが三年前のこと。

平和の象徴として、隣国の王女ソフィー様が我が兄、ジョエル皇太子殿下の元へ輿入れし皇太子妃殿下となられたのが、二年前だ。


政略結婚で、これまで敵国であった我が国へ嫁いで来た彼女は年々ホームシックが強まっている様子だ。

女同士フォローを宜しく頼むと家族から頼まれているが、義理の妹にベタベタされるのもそれはそれで気を遣うだろうしと、距離感に悩んだ。

大体、夫であるジョエル皇太子殿下が新妻に対して興味が無さすぎるのと、第二皇子のハーシェル殿下の義姉への当たりがきついのがいけないのだ。


最近とみに元気がない彼女が気になり、エイマーズ伯爵夫人の開くお茶会に誘ってみた。

エイマーズ夫人は社交界でよく顔がきき、話上手なため、雑談をするだけでも気が紛れるだろうと思った。

思惑通り、話は弾み、お茶会は楽しかった。エイマーズ夫人は、次は私たちを舞踏会に招待したいと言った。


「舞踏会ですか……皇太子殿下のご予定を伺ってみませんと」と逡巡するソフィー妃にエイマーズ夫人は笑った。


「殿下のエスコートはいりませんわ。平民も一緒くたの仮面舞踏会ですのよ。わたくしたちも仮面を着けて身分を隠し、誰とでも好きなように踊るのです。良い鬱憤晴らしですわ」


楽しそう、と声を上げたのは私だ。

皇帝陛下主催の仮面舞踏会には何度か出たことがあるが、参加者は貴族に限った。平民も一緒くた、という言葉に新鮮味を感じる。


「レベッカ内親王殿下、ぜひいらしてくださいな」

「ええ、ぜひ行きたいわ」


私が乗り気なのを見て、ソフィー妃もその気になったようだ。ではわたくしも、と日時の確認をした。

ほんの気晴らしにのつもりだったこの時は、運命の出会いが待ち受けているとは知る由もなかったのだ。



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