《作者は短編で完結してるつもり》悪いスキルだと思っていた【最大値減少】が本格稼働を始めました《実際はプロローグのみ?》
久しぶりに滅茶苦茶なスキルネタで。
《条件を満たし、スキル【最大値減少】を取得しました》
「え…………?」
~~~~~~
「今までずっと一緒にやってきたのに、離脱させるなんてすまないな」
「ううん。 あんなバッドスキルを持ってる私がいたら邪魔になっちゃう。 仕方ないし、私から言い出した事だもの」
「本当にすまん」
「気にしないで。 もし気に病むなら今まで以上に活躍して、私の耳に無事で元気にやってる噂を届けてね」
「……ああ。 約束する」
「でも無理は禁物、みんな元気が一番よ?」
「ああ」
街から旅立つ元仲間を、門の前で見送る。
そう、私は馴染んだ冒険者パーティーから離脱した。
原因はギルドの依頼をこなしている間に取得したスキル。
【最大値減少】
これに私は呪われたと言っても良い。
このスキルはレベル制で、取得した瞬間から私自身のレベルのみならず、ステータス数値も全て減少した。
【最大値減少】以外のスキルや魔法の最大レベルも。
つまりレベル制のスキルや魔法の最大レベルが10なら、5で止まってしまう。
レベル6~9だったスキルや魔法は、5まで強制的に下げられてしまった。
最大値が半減。 本来の強さと比べて50%の弱体化。 5割引き。
5割引きって聞くとなんだかワクワクしてくるけど、それは今は関係ない。
いや。 むしろ元凶なのだと思い直してしまえば、ワクワクした気持ちまで半減……より下降してしまう。
スキルの解説は“このスキル以外の最大値(分母)が減少する常時発動スキル”とだけ。
この世界はステータス画面の数値がモノを言う。
しかも日々の体調の変化で数値が変わってくる為に、ステータス数値にも 現在値/最大値 が存在する。
体調が万全なら最大値。 体調が悪かったり疲れていたりすれば、その分の現在値が下がる。
本人自体のレベルが上がれば最大値も上がるには上がるけど、この【最大値減少】を持った状態ではそんなものに期待を持てない。
スキル取得前までの強さを、取り戻す夢なんて持てやしない。
もしこのスキル【最大値減少】のレベルが上がったら、最大値の減少幅が大きくなるのだろうか。
そう考えてしまえば、冒険を続けようとする気力がポッキリと、綺麗に折れてしまった。
この有り様でパーティーに居続けるのは、誰のためにもならない。
なのでみんなと話し合って、脱退させてもらった。
幸い、私は治癒士。
潰しの利くスキルや魔法構成だから、引く手あまた。
弱体化している今でも、街の魔法医師や冒険者ギルド付きの治癒士、駆け出しの治癒士の指導役や駆け出し冒険者パーティーのヘルプ役。
少し考えるだけで、生きるのに必要なお金を得られる手段は沢山。
……でもまあ、20代前半の現在。 ひとつの街に落ち着く気でいる今なら、一番欲しいのは生涯の連れ添いかも。
私は自分の見た目に自信がある。
亜麻色のきれいな髪に、翡翠色したまるっこい目、慈愛を込めてやさしく見える笑顔。
胸には少し自信が無いけど、冒険者として動き回っていたから体もほどよく絞れているし、スタイルも十分。
これで魅力が無いなんて、さすがに自分でも言わないし言わせない。
なのでここから新しい人生だ!
冒険者として色々体験する夢はもう終わりかもしれないけど、気持ちを切り替えて強く生きるぞっ!
おーーーっ!!
~~~~~~
なんて決めて、はや1年。
元仲間達が元気に活躍する噂は私に伝わってくるし、気になる人と知り合えて、充実した日々を過ごしていた私。
生意気な駆け出しの前衛に【最大値減少】を知られてからかわれ、決闘してボコボコにしてやった記憶も新しい。
弱体化したとは言え、さすがに駆け出しなんかには負けてやるほど弱くない。
今日も元気に駆け出し達のヘルプです。
駆け出し冒険者には難易度高めで、失敗できない仕事に入った時だった。
《【最大値減少】のスキルレベルが2になりました》
ついに来た。
今まで問題なく、弱体化したこの身でも生きてこられたこの生活を、手放さなきゃならないかも知れないこの日が。
このスキルがどんな条件でレベルアップするのかは分からないし、今はどうでもいいので、その辺の考えは放り捨てる。
私の人生は、これで決まる。
スキルを確認する。 それだけなのに、恐い。
恐くて仕方がない。
さらに減少してしまったら、私が今までやってきた事を放り出さねばならない。
もし減少量が増えて100%となったらどうなる?
恐らく死ぬ。
さすがにそんなスキルは無くて、どれだけ減っても90%減までだと思うけど。
でも死にたくなければ【最大値減少】のスキルレベルが上がらない生き方をしなければ。
その為には、今までの生活をスパッと捨てるしかない。
どの行動がスキルレベルを上げる行為なのか分からないのだから。
私はゆっくり目を閉じて、たっぷり時間をかけて深呼吸。
その間に覚悟をきめる。
「………………ヨシ!」
このスキルを取得したあの日から、変わった生活をまた変えるだけだ。
そう自分を叱咤して、無理矢理心と体を動かす。
確認だ。
…………。
……………。
………………。
「………………やった」
やった、やった!
減った!
減少量が、5割から4割に減った!!
5にまで減らされた、普通のスキルや魔法のレベルの現在値は下がったままだけど、それはまた上げ直せば良いだけだ!
そう、また上げられるんだっ!
これはもしかすると、もしかするかも!!
心にあるのは、駆け出し冒険者にからかわれた時の話。
昔からある噂話。
誰もが笑うおとぎ話。
世に悪いスキルは無い。
バッドスキルの正体は、修行を強いるスキル。
悪い効果に耐え抜いてそのスキルを鍛え上げたら、素晴らしいスキルに変化する。
変化前の効果が悪いほど、変化したスキルは強くなる。
なぜ噂話でおとぎ話なのか。
バッドスキルを取得した人は、誰も変化させられていないから。
正確に言えば、変化させる前に死んでいるから。
つまりバッドスキルは、現代では死刑宣告と同意義。
大体のバッドスキルは、世の中のちょっとした状態異常が多い。
目や耳や鼻が少し悪くなるとか、怪我の治りが少し悪くなるとか、ワキガになるとか水虫に悩まされるとか。
酷くても太りやすくなったり、ステータスの“一部分だけ2割減少する”とか、スキルや魔法の内“どれか一つだけ使用禁止になる”とか。
でも、その少しが冒険者には大変な不利要素で、今まで出来ていた事で失敗するのは命を失うことに直結する。
そしてバッドスキルのレベルが上がり、また少し変化した状況へ慣れる前に失敗して……。
で、私のコレだ。
とてつもなく稀な重いバッドスキル。
私の【最大値減少】は最初が一番つらいやつみたい。
これから楽になっていって、バッドスキルの効果を終えたら……もしかするかも!
「よし、私には未来がある!!」
スキルレベルが上がれば強い効果を得られなくても、最低でも悪い効果が気にならなくなるほどにはなるだろう。
「また冒険者として、色々旅が出来る!!」
こんなに嬉しいことはない!
~~~~~~
更に2年。
「……案外楽だったなぁ」
【最大値減少】のスキルレベルが2になるのには1年かかったくせに、それから5まで上がるのは2年。
現在の最大値減少割合は1割。
ソロ活動を始めてからの3年でレベルも少し上がり、スキルを得た当時のステータス数値と同等にまで戻れた。
スキルや魔法のレベルだって、順調に上げられている。
そうなると街の冒険者の中でも、最上位と言って良い力を持っている事に。
それを当てにして、アレコレとギルドから忙しく使われていた。
そして今日、仕事で森にまで来ているこの日。
《【最大値減少】のスキルレベルが6になりました》
ついに私のステータスは減少するマイナス補正が消えた。
「こうなると【最大値減少】の意味が無くなるけど消えてないし、もしかしたら効果に変化が起きたのかな?」
そう思ってスキル効果の確認をしたら、こう変わっていた。
“最大値(分母)が減少する 任意発動スキル”
「アクティブスキル? じゃあこうやって木に向けられるとか?」
他のアクティブスキルと同様に【最大値減少】をつかおうと意識したら――――
《どの部分の最大値を減少させますか?》
「…………出来るよ。 しかもどれを減らすか確認するのに、ステータス表みたいのまで出てきたし」
試しに使ってみる。
「よっ! っと」
木の防御力の最大値を下げて(下げられるのは3割だった)武器で殴ってみたら、簡単にメキメキえぐれて折れた。
これはヤバいスキルだ……。
倒れる木の轟音を聞き流しながら、背筋に冷たいものを感じる。
1度にかけられるステータスの種類や数に制限はあるし、連続ではかけられないけど、単純に強い万能型の弱体化付与スキルだ。
私は治癒士だし、敵の攻撃力を下げれば死ぬ可能性もグッと下がる。
【最大値減少】で私のHPも減ってたし、そっちを下げれば単純に倒しやすくなる。 ああ、レベルも下げられるね。
………………でもこれ、封印しておかないとトラブルの素になりそうだ。
出来るだけ隠した方が良いよね。
――――そう決めた治癒士だが、その判断が間違っている事に、スキルレベルが上がってから気付く。
その上スキルレベルで干渉する範囲が広がり、とてつもない効果をもつスキルになると知るのも、当分先である。
個人的には、これで完成。 プロローグのみじゃなく、これで完結している気でいます。
いるのですが、人によってはここからだろ? ってのも居るでしょうし、そんな方への言い訳として《プロローグのみ?》とさせて頂いております。
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蛇足
【最大値減少】について
スキルレベルが上がると、下げられる数や割合増加の他にも、マスクデータまで操作可能になってきます。
○○から△△への好感度の最大値とか。
レベルアップに必要な経験値量とか。
スキルレベルが上がるのに必要な、スキル経験値量でも。
寿命(老衰する、肉体的限界)とか。
肺活量とか。
魔力回復速度とか。
血流量とか。
体重とか。
人体以外にも、アイテム全般もそう。
やる気になれば、空気中に漂える魔力量の最大値とか。
照射される太陽フレアの量とか。
そりゃあもう、なんでも。 最大値(分母)があるものなら、なんでも。
つまりヤベー概念系のスキルにまで成長するんだけど、中世ファンタジーゲーム風世界だと、そこまでの知識を現地主人公が持っていないのは地獄に仏と言う……。
ちなみにスキルレベルを上げる為の行為は、
1から6に上がるまで(パッシブ)の間は、最大値が下げられているモノに関わる行動を積極的に行う。
6(アクティブ化)以降は、使わない時間。 スキルの自主封印を、しようとすればするほどスキル経験値がたまる。