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第8章

 湖沿いを南ヘ進むと途中から山道へ入る。

 湖沿いはそもそも船を使えば簡単にどこへでも行けるため、道がまばらである。

 むしろ陸路は南の、現実セカイで言うところに紀伊半島に向かう方向が重視され、都へ向かうには結局山道を通り、そこからやや北西の道を進まなければならなくなる。

 かなりの遠回りになるが、それ以外道がないのだからしかたがない。


 こちらのセカイの紀伊半島と現実セカイの紀伊半島ではかなり大きさが違うが、山岳地帯という点では完全に一致していた。

 道はほとんどの上り坂で険しく、馬の歩みも遅くなる。

 また両脇は鬱蒼とした森で、道幅も馬車2台がギリギリすれ違える程度しかない。


 たとえ盗賊が現れずとも、道の両脇から獣が現れればただではすまないだろう。

 ザルマも圭阿も、周囲に対する警戒をより強めた。


「どうやら出たみたいでござる」

 山道を数時間ほど進んだところで、不意に圭阿が言った。


 康大はため息を吐く。

 起こりうる可能性のあることは起こる、というマーフィーの法則が頭に浮かんだ。最近自分の人生が、立てたフラグは全て回収しないと先に進めないゲームの様になってきている気がした。


 とはいえ、今更盗賊程度で怯えたりはしない。

 圭阿がいれば十分だし、盗賊相手なら自分でも戦力になりえる。

 日が暮れ始めたことは、視力が乏しい自分にとって厄介だが、圭阿にとってはむしろ奇襲出来て都合がいいだろう。


「だ、だ、だ、だ、だ、大丈夫ですかね!?」


 ――そんな事情を知らないエクレアが、歯をがたがた鳴らしながら聞いてきた。

 思い切りがいい性格でありながら、臆病でもあるようだ。

 康大は苦笑しながらエクレアをなだめる。


「ま、盗賊の相手なんてこれが初めてじゃないし、今までもっと厄介な連中相手にしてきたから、そこまで怯える必要はないさ」

「は、はあ……」

 そう言ってもまだエクレアは震えていた。

 そんなエクレアをリアンが優しく抱きしめる。


「大丈夫っす、ここは大人に任せれば安心っす」

「なんでお前までそこまで落ち着いてるか分からないけど、まあその通りだ」

 何があっても動じないリアンに半分呆れ半分感心しながら、康大は御者席のザルマへと話しかける。


「――というわけで、盗賊が近くにいるらしい」

「ふっ、グラウネシア兵との戦いで鍛えられた私は、盗賊ごときに後れは取らん! それでどうする、止まって待ち受けるか、それとも逆に速度を速めてやり過ごすか……」

「うーん、そこは圭阿次第だな。どうする?」

「とりあえずもう少し近づいたら拙者が様子を見てくるので、そのまま走るでござるよ。まあ数が少なかったら、皆殺しにして帰ってくるでござる」

「頼もしいが物騒だな」

 康大は頬を引きつらせながら言った。


 そして言葉通り、圭阿は馬車を飛び降り、森の中へと姿を消していく。

 走るスピードは重い台車を引いた馬車よりはるかに速い。

 いちおう康大も台車を出てザルマの隣に座り、警戒役を務めた。


 それから数分後。


 圭阿が死んだ人間の首ではなく、生きた人間を捕まえ、道の真ん中に立っていた。

 ザルマもゆっくりと馬車を止める。


「さすがケイア卿! 見事な腕前です! このザルマ久しぶりに感服しました!」

「そいつが盗賊だってことはわかるけど、なんで生け捕りにしてきたんだ?」

「それでござる」

 過剰に褒めるザルマは一切無視し、圭阿は康大に事情を話す。


「実はこの盗賊、どこかで会った気がしたのでござるよ。さらに盗賊も拙者の姿を見た瞬間、武器を捨てて、命乞いをしてきたでござる。しかもどうやら向こうも顔見知りだと言っている様子。まあ盗賊の戯言故最終的には殺すのでござるが、いちおう康大殿に確認をと思い」

「そ、そんなひどいこと言わねぇでくだせさいよ姐さん! 一緒に海賊船で戦った仲じゃないですかい!?」

「海賊船……」

「そ、そうだ仮面の大将からもお願いしやす! 俺たちの仲じゃないですか!?」

「仮面……ああ」

 康大が仮面をつけていた期間はそれほど長くなく、またそれを知っている人間は少ない。

 さらに、海賊船の話に関しては、実際に乗り合わせた人間しか知らないだろう。

 つまり――。


「ダイランドの部下の海賊か」

「そ、そうです、その通りです! いやあ、分かってもらえてよかった!」

「全員似たような顔だったから、すっかり忘れてた。ごめんね」

「い、いやあ、いいんでさあ! 姐さんに首切られる前に大将に気付いてもらえて、命が助かっただけでもめっけもんだ! 大将を敵に回したらただぶっ殺されるだけじゃなく、死ぬ直前まで地獄のような拷問を受け続ける羽目になりやすから」

「なんでやねん」

 康大は思わず突っ込む。

 やがて警戒していたザルマも剣を収め、話に加わった。


「ソルダとかいったか。今となっては思い出したくもないが、あの下郎と一緒に戦った海賊か」

「おう、兄ちゃんも元気そうだな」

「・・・・・・」

 康大や圭阿と違い、ザルマへの態度は軽い。

 ただ、散々醜態を見せ続けた相手のため、ザルマも強くは言えなかった。


「ていうか、なんでこんなところに?」

「それが……、いや、俺が説明するより仲間達から直接聞いた方が早いでしょう。すぐに呼んでできまさぁ!」

 そう言って立ち上がると、盗賊兼海賊は森の方に向かって駆け出して行った。

 3人はただそれを見送る。

 やがて台車の中から、リアンとハイアサースは堂々と、エクレアは恐る恐る出てきた。


「話は窓から聞いていたが、なんとも奇妙な縁があるものだな」

「子爵は顔が広いっすね」

 2人は盗賊について特に不審には思っていないようだった。

 怯えても警戒もしてもおらず、ハイアサースあたりは明らかに今日の夕食について考えいる風であった。


 しかし、まだ知り合ったばかりのエクレアはそこまでの気持ちにはなれず、


「あの……皆さん実は盗賊の方だったんですか?」


 そんなことを言った。


 それを聞いた全員、森の中にこだまするようなほどの大笑いをした……。

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