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第7章

 翌日の朝、康大達は再び港にいた。

 ワーメントに用があって会いに来たわけではない。

 マイグル商会とは違う商人の商館にいた。


 晩餐会の後、そのまま宿泊を勧めたワーメントを丁重に断り、定宿に戻った後、すぐにこれからの予定についての話し合いが始まった。

 予定といっても都が最終目的地であることに変わりはないので、ここから陸路で行くか、海路で行くかの相談だ。

 康大は当然このまま陸路で行くと思っていたのだが、それにザルマとリアンが反対した。


 理由は、


「今現在都は戦乱の空気があるらしく、どこの国も厳重に警戒しているだろう。そうである以上書状があっても簡単に関所は通れず、迂回や何日もその場にとどめ置かれるかもしれない」

「その点海には関所がないっす。ナゴヤを出てそのまま都の港に着けば、それで終わりっす。大回りになるのはどうしようもないっすけど、トータルで見たらこっちの方が確実っす」


 というものだった。


 最近の情勢やこのセカイの知識に詳しい2人から言われれば、康大としても反対はできない。

 2人の意見は全面的に受け入れられ、翌日康大達はアムゼンが懇意にしている商会の船を使い、現実セカイの大阪の港に行くことになった。


 ……なったのだが。



「申し訳ありませんが、無理です!」

 商会の店主が汗をかき土下座しながら、康大の申し出を断った。

 その様子を察するに、断った瞬間首を斬られると思ったのだろう。

 剣に手をかえたザルマが、形だけのへっぽこであることも知らずに。


「なぜだ。まさか()の商会の圧力に屈したというわけではないだろうな?」

 そのザルマが、窓から見える港に停泊している船を見ながら言った。


 少なくとも出向できる船はあるのだ。

 これでただ「できません」では、誰も納得できない。


 店主は大仰に首を振り、慌てて理由を説明する。


「いえいえいそのようなことは! 実はエルテンポリオの海域に問題がありまして」

「えるてんぽりお?」

 聞きなれない単語に康大は首をかしげる。

 するとすぐにリアンが「都の西にある港のことで、ナゴヤから船で都に行く場合は必ずそこを通らないとならないっす」と説明をした。

 康大はなるほどと心の中でうなずく。

 それと同時に、都と呼ばれる場所が今の京都だけでなく、大阪も合わせた予想以上に広大な地域であることも知った。


 康大が別のことで納得している間にも店主とザルマの話は続いた。


「海域に問題だと? 大規模な海賊でも現れたのか?」

「いいえ、クラーケンでございます」

「ク ラ ー ケ ン」

 康大はその現実ではありえない、あまりにファンタジー的な欠航理由を思わず反芻した。

 これが現実セカイなら、たとえホオジロザメの大軍が迷い込んでも、船が欠航するなどありえないだろう。現実セカイの公共交通機関は、気候的災害の影響は昔同様受けるが、動物的災害に関してはまず問題がない。

 ……人間を動物の枠にはめるなら話は変わるが。


 またリアンが「クラーケンというのは――」と説明してくれたが、さすがに今回は聞かなくても分かっていたので断った。


「解せんな。クラーケンの1匹や2匹でいちいち船を止めていたら、商いなどできまい」

「それが巨大な、それこそ()()()のクラーケンが数匹も現れまして。近隣商人の私兵だけでは対処できず、アルバタールにお願いし、海軍による掃討作戦が始まっているほどです」

「魔 王 級」

 本当にファンタジーのセカイなんだなと、康大はつくづく思い知らされる。

 なお今回はリアンもわざわざ説明はしなかった。


「アルバタール海軍が討伐に向かうほどのクラーケンの群か……。それはだいたい何時頃からの話だ?」

「つい週間前から現れ、実際に海軍が出港したのは2,3日前でしょうか」

「そこまで最近では、確かに埒が開きそうにないな……」

 ザルマは振り返り康大に問いかける。


「そういうわけだが、どうする? とりあえず地図を見てこれからどうするか決めろ」

 商館には地図が壁に貼ってあり、ザルマはそれを指さす。

 その地図は現実セカイで言うところの名古屋から香川辺りが書かれた地図で、例によって紀伊半島と、グラナダ湖という名のびわ湖が異常に大きい。

 康大は地図の前に立ち、改めて店主に聞いた。


「正確にはどこにクラーケンが?」

「だいたいこの辺りです」

 店主が示したのは現実セカイの淡路島の南東辺りであった。

 そこをかなり大きな円で示している。


(紀伊水道全域に出ている感じかな……)


 どうやら出没場所は広範囲に及んでいるらしい。

 場合によっては鳴門海峡迂回ルートが取れないかと考えたが、それは無理そうだった。室戸岬を通り、四国を一周してから兵庫あたりで降りるルートはさすがに遠回り過ぎる。


「……海路は無理だな」

 康大はそう結論を下した。

 仲間達にも異論はなく、皆頷く。

 そうなると、今度はどのルートで陸路を進むかが問題になる。


「まあこのまま西進して、グラナダ湖を渡るルートがベストか」

「それが最善……ではなく次善だろうな。対岸がどうなっているかは出たとこ勝負だが」

「え、皆さまグラナダ湖を!?」

 なぜか店主は驚いたような顔をした。

 言った瞬間「しまった!」という顔をしたが、今更隠し来ることなどできない。


「今度は何ですか?」

「いや、その、皆さまセイレーンをご存じですか?」

「セイレーン……なんか人魚みたいな奴ですよね、歌が上手くてそれで人間を惑わすとか」

 持ち前のファンタジー知識から、康大はそう答えた。

 ただ、このセカイのセイレーンはいささか違っていた。


「人魚……まあ泳ぎは得意らしいですが、足が魚のようだという話は聞いたことがありません。あと歌に関しても。ただとにかく水中ではとてつもない怪力で水を自在に操り、セイレーンのいる海に投げ出されて船員は一瞬で八つ裂きにされると言われています」

「あらずいぶん武闘派な……」

 想像していたセイレーン像とは全く違った。


「ですが今から数百年前、アイチにいた勇者によって力の源である秘宝を奪われ、その後力を失い、平穏なグラナダ湖が戻ったという伝説があります。ありますが……」


「ア イ チ」


 再び登場した聞いたことがある地名に、康大は思わずオウム返しをする。

 このあたりは現実セカイと関係が深いのかもしれない。

 そしてここでも圭阿は特に反応も見せなかった。


「何か?」

「知った名前が出てきたので。ちなみにアイチって国は今でもあるんですか?」

「そうですね。アイチという国はないのですがこのあたりが――」

 そう言ってグラナダ湖周辺の大きな範囲を店主は示した。


「同盟を組み、アイチ連邦と名乗っています。そして我がナゴヤとは緊張状態にあるわけでして……」

「そうだったんですか。それで話は戻りますが、その様子から察するに、再びそのセイレーンが現れた、と」

「・・・・・・」

 無言で店主は頷く。

 それから少しの沈黙を挟み、重い口を開き始めた。


「私がはっきりと見たわけではありません。ただ船乗りの話では、風のない湖で突然船が大きく揺れ、湖上に投げ出された船員は全員生きて帰ることはできなかったと……」

「完全にホラーのセカイだなあ」

 康大は恐怖を覚えるよりうんざりした。


 このセカイならそういった非現実的なことも十分あり得る。

 大事なのは、そのせいでこちら迄いらぬ苦労を背負わされるということだ。

 これで完全に船を使った移動手段がなくなった。


「――となると、グラナダ湖の南側を迂回して、ずっと陸路で都まで行くルートしかないっすね」

「そうだな」

 リアンの結論に康大は頷く。


「あの、じつはそちらも……」

「まだあるのかよ!?」

 康大は思わず叫んでしまった。

 この商館に来てから、問題が雪だるま式に増えていく。


「も、申し訳ありません! ですが子爵様に何も言わずにおくのは、より不誠実だと思いまして。実は最近都に向かうまでの道すがらに、盗賊が出るようになったのです。それで陸路もまた安全とは言い切れず……」

「それなら心配はござらん」

 今まで黙って話を聞いていた圭阿が不意に言った。


「盗賊ごときに後れを取る拙者達ではない。それにもし大軍がいたとしても、我らには康大殿がおられる」

「俺?」

 いきなり名指しされ、康大は思わず自分に指を刺した。


「またありもしない神算鬼謀とかに頼られても困るぞ」

「それもあるでござるが、康大殿には一撃必殺の皆殺しの毒があるでござる」

「あれか……」

 圭阿が言っているのがゾンビウイルスのことだと、康大はすぐに気づいた。

 おそらくかつてのゴーレム騒動の事を頭に思い浮かべているのだろう。


 確かにあれで盗賊はほぼ全滅した。

 だが、あんなウイルス拡散作戦など、もう二度としたくない。

 あれは一般市民ではなく、悪の組織側が事故ですることだ。そして最終的に滅菌作戦で、街ごとミサイルで焼却される。


 ……というのは冗談にしても、もしもの場合のリスクが高すぎる。

 フォックスバードという、血も涙もない後始末役がいない場所では、周囲の影響を考え、()()()()()したくなかった。


 あの時その場にいなかったザルマとリアンが、不思議そうな顔をする。

 おそらく、そんな便利な薬でも持っていると思っているのだろう。

 とんでもない勘違いだ。

 特にザルマは、それがあれば今までの場面で何回も使ったはずだということも気づかずに。


「その件に関してはあんまり頼らないでほしい。とにかく俺達はこれから陸路で行くことに決定だ。えっと――」

 それから康大は店主に、安全かつ最短ルートを聞く。

 肥大化した紀伊半島とともに、岩手並に広がった三重県は康大の知らないセカイである。詳しく話を聞かなければ、どんなルートがあるか全く分からない。


 店主は言われるがまま、店の地図にルートを直接書き込んでく。

 現実セカイと違い簡単に消せないものに書き込んでいいのか康大は少し不安になったが、あまり深くは考えず、そのルートを頭に叩き込んだ。

 尤も、あえて自分がせずとも、圭阿に任せればそれで十分だったが。



 それから5人は商会を出、馬車に乗るために宿へと戻って行った。

 ちなみに4人が商会にいる間、ハイアサースは港にある屋台で勝手に買い食いをしており、今までの話の経緯を全く理解していなかった。

 それでも方針に関しては反対も不満もなく、「なるほどな!」と自信たっぷりに答える。

 彼女の生き方は苦労性の康大には本当にうらやましかった。


 噂を聞いていたのか、宿の店主は康大達が戻ってきたことにあまり驚かなかった。

 海路を使った場合馬車はこの宿に残しておく予定で、本来なら馬車は台車から外されているはずであった。

 しかし、馬はまだ繋がれたままで、いつでも出発できる状態だった。

 つまり店主は康大が陸路を使うことをすでに察していたのである。


 それなら先に教えてくれればよかったのにと思いながら、康大は馬車に乗り込む。

 続けて仲間達が台車に入り、例によってザルマが御者席に座った。

 旅行中ずっと運転役をさせるようなザルマの扱いに康大は少し申し訳なさを覚えたが、本人はやる気であり、


「この旅で私がケイア卿に少しでも役に立つところを見せなければならない!」


 と張り切っていたので、そのまま好きにさせていた。


 ザルマが鞭を入れると馬はゆっくりと走り出す。

 よく見れば繋いでいる馬は変わっており、疲労に関する心配もなさそうだった。


 ナゴヤの街並みを馬車は進む。

 ほぼ観光気分だったハイアサースは「できるならもっと街を見たかったべ……」と、本当に観光客のように言った。


 康大は苦笑し、圭阿は呆れる。

 リアンはどこで手に入れたのか書物を読んでおり、他のことなど一切頭に入っていない様子だった。

 コルセリアがいないため馬車はそれなりに揺れるのに、よくそんなに集中して読めるなと、康大は感心し、また呆れた。



 城壁がそのまま国境となるナゴヤを抜け、別の国に入ったところで、康大は改めて地図を開き、仲間達とこれからのルートの確認をした。


「とりあえず今は西に進んでるけど、グラナダ湖に突き当たったらそのまま湖沿いに南に進むんだよな」

 康大の言葉に圭阿とハイアサースは頷く。

 さすがのハイアサースも、地理に関しては旅をしていることもあり、人並以上の理解度はあった。


「地図の上では南の山岳地方を突っ切り、そのまま西に向かうルートが最短だが、まあ湖沿いの曲がりくねった道の方が無難だろう」

「正直俺も険しい山道のルートは尻が痛くなって辛い。この年で痔になりそう」

「コータはもっと体を鍛えろ。それにしても、この分だと都につくのは予定よりだいぶ遅れそうだな」

「ああ、その間に国境封鎖とかは本当にやめてほしい」

「最悪拙者が上手くやって関所を開けるでござるよ」

「頼もしいけど、それは最終手段ということで」

 康大はそう言って圭阿を窘める。


 そんなことを話しているうちに、馬車はグラナダ湖に到着した。


 馬車の窓から見えるグラナダ湖は、昔東海道新幹線の車窓から見たびわ湖より、ずいぶん大きい気がした。

 地図上でもその巨大化は明らかであったが、実際に見てみると湖というより海に近い。対岸は水平線に隠れて、全く見えなかった。元のセカイと同じなのは松林と、キラキラと輝いている湖面ぐらいだろう。


 確かにこの湖を迂回するのは大幅なロスになりそうだ。

 そう思って何となく外の景色を見ていると、唐突に上から人が落ちてきた。


「……え?」


 康大は呆気にとられる。

 一方、圭阿の行動は早い。


 すぐにザルマに馬車を止めさせると、落ちた人間の元に向かい、確認する。

 そして危険がないと判断すると、康大を呼んだ。


「何者でござるか?」

「さあ……」

 それは康大の方が聞きたかった。


 上から、おそらく台車の屋根から落ちてきたのは、金髪でおかっぱの少年だった。

 華奢で肌は白く身なりも上等で、どこかの貴族の子弟といった風だ。

 歳は康大よりは大分下だろう。まだあどけなさが残っている。


「んん……」


 少年が目を開ける。

 掛け値なしの美少年だ。

 大きく透き通った青い瞳に鼻からのなだらかな稜線、シンメトリーの顔と、見ようによっては少女のようでさえある中性的な美貌の持ち主だった。

 ただ残念ながら女性陣にショタコンはおらず、みなその可憐さよりなぜこんなところにいたのかが気になった。


「……っは!?」


 そう言って少年は立ち上がる。

 そしてすぐに土下座を始めた。


 された方にとっては全く意味が分からない。


「えっと……」

「勝手に馬車に乗り込んでしまい申し訳ありません!」

「ああ、そういう」

 どうやら少年は無賃乗車をしていたらしい。

 康大達の馬車は旅客用でないため、密航といった方が正確か。

 その登場の仕方と容姿のインパクトが強すぎて、康大達は言われるまでその当たり前の事実に気付かなかった。


 ただ何故こんな人形のような美少年がそんな真似をしたのかに関しては、未だ誰も理解できなかった。


「えっと、とりあえず理由を聞かせてほしいんだけど」

「は、はい、そうでうすよね! その、実は皆さんがグラナダ湖へ行くという話を聞き、私も用があったので是非乗せてもらおうと思いまして。ただ皆さんとは全く面識がなく、断られる可能性が高かったため、こうして屋根にもぐりこんだ次第です。しかし、世の中悪いことはできません。体力の限界で屋根にしがみついていることができず、このような醜態を……」

 そこまで言ったとき、少年の腹が可愛らしく鳴る。

 少年はより顔を赤くさせた。


 何とも可愛らしい姿だ。

 話し方も丁寧で、また育ちの良さを連想させる羞恥心もある。

 少なくとも、康大には何か企んでいるようには見えなかった。実際、圭阿が今まで気づかなかったあたり、敵意はないのだろう。


 恥ずかしがる少年の頭に、ハイアサースが手を置く。

 そして懐から、どこでくすねてきたのか干し肉を取り出した。


「腹が減っては何とやらだ。とりあえず食べるがいい」

「あ、ありがとうございます!」

 少年は素晴らしい勢いで、それでも礼儀正しく干し肉を食べ始める。

 同じ髪と目の色の2人は、並ぶとずいぶんお似合いに見えた。

 ただ、あまりに似すぎているため、恋人というより姉弟か母子のように見え、康大も嫉妬心は全くわかなかった。


 それから少年が食べ終わるまで待ち、ようやく腹の虫がおさまったところで、話は再開される。



「僕はエク……レアと申します」

「そりゃまたずいぶんおいしそうな名前で」

 このセカイにエクレアがあるのか分からないが、康大はそう返した。

 現実セカイなら偽名である可能性が高かったが、このセカイではその判断がつかない。

 ただ変わった名前であることはこのセカイでも同様らしく、「初めて聞く名前っす」と、生き字引のようなリアンが言った。


「それで、エクレアはどうしてこんなことを……って、理由はさっき言ったか。まあつまり、なんでここまでのことをしたんだ? 普通に馬車に乗ればよかっただろ」

「それがご承知の通り、グラナダ湖は現在まともに船が出せない状態で、ナゴヤからグラナダ湖方面へ向かう馬車は、マイグル商会のごく一部のものしかありません。けれどもマイグル商会の馬車は関係者以外乗ることができない上、警備が厳重で潜り込むことも難しく、こうして皆さんの馬車に……」

「ナゴヤからグラナダ湖まで、がんばれば歩いて行ける距離だし、徒歩で行くという選択肢はなかったのか?」

「僕の体力を冷静に分析した結果、グラナダ湖のさらに先にある目的地までは難しいのではないかという結論に……」

「まあ――」

 本人の言うとおり、エクレアの華奢な体で数十キロも歩き続けるのは、確かに無理がありそうだった。しかもタツヤのような特別な力があるようではないため、こんな容姿をしていたら、すぐに山賊あたりに攫われてしまうだろう。

 馬車を選んだのは最善……というか、エクレアにとって唯一の選択肢といえた。


「その、僕はどうしてもグラナダ湖の対岸の村に行かなくてはならないのです! 後でお礼はします! どうかこのまま乗せてもらえないでしょうか!?」

「うーん……」

 康大は腕を組んで考え、その後助けを求めるようにザルマを見た。

 現状、ザルマが康大の副官的な位置にいる。今なら自分が迷った時、彼の判断に任せていい気がした。


 ザルマは今まで働いた馬にニンジンを食べさせ労いながら、


「お前の好きにしろ」


 と冷たく突き放す。

 その態度から、本当にどうでもいいといった感じだった。

 しかし、今回はザルマの代わりにハイアサースが建設的な意見を言った。


「もしエクレアを乗せないことになったら、このままここに置いていくか、ナゴヤまで戻ることになる。そして、こんなところに1人エクレアを残したらどうなるか」

「まあそういう話だよな」

 ナゴヤを発ってからすでに数時間は経過しており、戻るのは面倒だし、人道的にエクレアを置き去りにするのも気が引ける。

 ザルマに聞くまでもなく、答えは一つしかなかった。


「――分かった。どんなお返しをくれるか知らないけど、まあ旅は道連れだ。感謝しろよ」

「ありがとうございます!」

 勢いよくエクレアは頭を下げる。

 育ちがよさそうな割には豪快で素直な少年だった。このあたりも康大にはハイアサースと似ている気がした。


 そしてエクレアを加えた一行は一路都に向かう。

 しかし、この旅の予期せぬ来訪者はエクレアだけではなかった……。

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