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第27章

 翌日――。

 康大は昨日のことなどすっかり忘れ、たいして清々しくもない朝を迎える。


 例によって康大以外は全員起きていた。

 ただ、場所が場所なだけに外に出て何かをしているということはなく、全員が1階の休憩スペースのようなところで談笑していた。廃屋のような部屋に比べれば、こちらの方がまだマシだ。


 康大が現れたことで皆表情を引き締める。

 おそらくこれから作戦会議が始まると思ったのだろう。


 当の康大は、軽い気持ちのまま話に付き合ってほしかったが。

 あまり真剣過ぎても、いい案は浮かばないものだ。


「起きて早々なんだが、俺達は何を調べればいい?」

 だしぬけにザルマが聞いてくる。

 康大は少し考えてから、


「そうだなあ。俺としては朝食後に動きたかったけど、まあここじゃたいしたもの食えないし……ふぁ~」


 大きなあくびをし、体を伸ばしながら言った。

 ザルマはあからさまな溜息を吐く。

 リアンの「平和っすねえ」という呟きが、この状況を完璧に言い表していた。


「さて、と。無駄話はこれぐらいにするかな。とりあえず何か決める前に現状を改めて確認しよう。まず、ワーメントについてだけど、そろそろ俺達の動きには感づく頃だと思う。だから向こうが動く前にこっちも――」

「その事ですが少しよろしいでしょうか」

 圭阿が発言許可を求めるように手を上げた。

 当然康大にそれを断る理由もなく、先を促す。


「実は拙者、いつも通り昨晩のうちに街を見て回ったのでござるが、どうもわーめんとは街にはいないようでござる」

「いない……まあ本職は商人だし、街を空けることもそう珍しいわけじゃないけど、このタイミングで、か。何かありそうだな。ただ、それとは別に、これは俺達にとってチャンスかもしれない」

 悪だくみを思いついた子供のような眼で康大は言った。

 実際康大本人も、国家の一大事を任されているというよりは、遊びの延長で計画を立てている気がした。


(アムゼンが関わっていないから、気持ちが楽になってるのかな)


 自己分析すればそんなところか。

 実は真剣に考えると、その重圧に耐えきれないことが一番の理由であったが。


「如何されました康大殿、何か拙者の報告に問題でも?」

「いや、なんでもない。それより今後についてだ。当初の計画だとワーメントの目の届かない、街の北側を中心に調べようと思ってたけど、奴がいないなら今日はお膝元の港側も調べる。まあ、どうせ俺達が何をしてたかはいずれ知られるんだ、だったら今のうちに好き勝手にさせてもらおう。というわけでとりあえず二手に分けようと思う。まず圭阿はこのまま北側だ。情報収集している連中が兵士に襲わてれたら、迅速に助けてやってほしい」

「御意」

「俺も場合によってはアイツらに指示を出さなきゃいけないから、このまま北側を調べる。代わりにザルマとダイランドは港を調査してくれ。ちなみに、別にこそこそ調べなくてもいいぞ。むしろこれ見よがしにやってくれ」

「何故だ?」

「反応が見たい。ワーメントがいなければそこからぼろが出るかもしれないしな。ダイランドがいれば兵士がいても何とかなるだろ」

「なるほど、了解した」

「自分も了解っス」

「で、残るリアンとハイアサースだけど……」

 現状この振り分けで何とか目途は立つため、この2人はどちらにいてもそれほど問題はない。

 しかし、婚約者であることと女性であることを踏まえ、康大はとりあえず手元に置くことにした。


「俺と一緒に北側を調べてもらう。ワーメントの息のかかっている港側より、こっちの方が今は安全だろうし」

「私がしっかりサポートしてやるから安心するといい!」

「まあ大して力にはなれないっすけど、それなりにがんばるっすよ~」

 対照的な返事をする2人。

 康大は苦笑した。



 組み分けが決まったところで、さっそく調査が始まる。

 南に向かったザルマ達は、康大の指示を踏まえ聞きこみを中心に行った。


 そして北側の康大達は、怪物の痕跡を見つけるべく、運河の周囲を念入りに調べた。

 北から流れ込む川は、ナゴヤの街で縦横に運河となって広がり、最終的に海に流れる。

 そのため、ナゴヤでグラナダ湖へと続く川を調べる事は、そのままナゴヤの街全てを調べることになる。


 昨日老人から話を聞いていなければ、実際そうする羽目になっていただだろう。

 つまり康大達が調べるのは当然話にあった場所中心で、調査範囲もそこまで広範囲には広がらなかった。


 それでも十分な労働ではあったが。

 それが嫌でしようがない康大は知恵を絞り、さらに捜索範囲を絞る。


「船を沈めるほどの怪物なんだから、かなり大きいことは間違いない。である以上、川幅が狭い運河にいた可能性は低い。昨日老人から聞いた場所を中心に、川幅の広いところを集中的に調べよう」

「まあそれがいいっすね」

「うむ」

 参考になるリアンと、参考になりそうもないハイアサースの許可を得、さっそく康大達は目的の場所に向かって移動する。



 教えられた場所に行くと、すでに昨日会った客の1人が運河を網でさらっているところであった。

 とはいえ幅が10メートルほどもあるので、彼1人だけで全体を調べきることはほぼ不可能だ。

 そのためか、どこで話を聞きつけたか、あの時の客以外も運河を探していた。まだそこまで汚れてはいないので、中には泳いで探している人間もいる。


 康大はとりあえず客だった男に話しかけ、首尾を聞く。


「あ、大将」

「何か見つかったか?」

「まあいちおう……」

 そう言って男は水滴型の平べったい何かを康大に見せる。


「これは……」

「なんかの鱗じゃないかと思うんっすけどね。こんなでけえ鱗した魚は、俺ぁナゴヤに暮らして初めて見やしたぜ」

「確かに大きいな」

 鱗と言って渡されたそれは、縦横10センチ以上あり、現実セカイで該当する魚は存在しない。クジラほどの巨大な海洋生物でなければ当てはまらず、そもそもクジラは哺乳類で鱗などない。


 薄く、重さはそこまでないので、康大は太陽に透かして見たり、色々な角度から観察をした。

 しかし、このセカイの知識など全くない康大には、この鱗が何であるか想像さえつかない。


「ちょっといいっすか?」

「あー。任せる」

 リアンに話しかけられ、康大は素直に鱗を渡した。

 少なくとも博覧強記の彼女の方が、モンスターの知識に関しては段違いだ。

 リアンは康大同様色々な角度から、鱗を観察する。


「あの~、ところで報酬の方は……」

 その様子を見ている康大とハイアサースに、男はおずおずと切り出してきた。


「・・・・・・」

 康大は即答せず考える。

 払わないつもりはないが、康大にはその相場が分からない。こういう時は、高すぎても低すぎても問題があるものだ。


 今現在、頼りの圭阿は周囲の偵察に出ているため、相談もできない。

 知識はあっても学者肌のリアンの金銭感覚など知れたもの。

 仕方なく、その点に関しては自分よりはまだましなハイアサースに相談する。


「(いくらぐらいあげればいいんだろう?)」

「(そうだな。これは私個人の考えだが、さすがに昨日のような金貨はやりすぎだと思う。というか村を出るまで私は金貨なんて見たことがなかった)」

「・・・・・・」

 本当に物々交換が主流の田舎者なんだなあと、康大は改めて実感させられる。

 その容姿は都会的で洗練されているにもかかわらず。

 婚約者の不愉快な感想に気付かぬまま、ハイアサースは話を続けた。


「(しかし銅貨1枚では子供の駄賃と同じだ。まあ相場は知らんが常識的に考えて、銀貨1,2枚ってところじゃないか?)」

「(そっか。とはいえ、銀貨持ってないんだよな……)」

 スられる危険性を考え、康大は出発前に資金をすべて圭阿に預けていた。あの時圭阿が金貨をしれっと見せられたのも、それが理由だ。

 現在手持ちにあるのはワーメントとカチョウから渡された心づけ……という名の賄賂ぐらいである。どちらもすぐにそのまま自分のカバンにしまったので、圭阿に渡すことを忘れていた。


(さすがに俺でもあの中身じゃあやりすぎだってのは分かる……けど)

 とはいえ他にやれそうなものもない。

 仕方なく康大はカバンをあさり、宝石箱を探す。

 ワーメントからもらった物はすぐに出てきたが、カチョウからもらった方は一向に見つからなかった。

 まさかどこかに忘れてきたのか、と焦る康大。

 今まで使う機会などただの一度もなかったのに――。

 

(あ、そういえばリアンに預けっぱなしだったわ)

 少ししてその所在を思い出す。

 おそらく今もリアンの本だらけのリュックに、しまわれっぱなしなのだろう。


(まあ別にここで返してもらわなくてもいいか……)

 賄賂としてもらったが、康大に自分の物という感覚はない。これはあくまでフジノミヤに対するもので、自分は預かっているにすぎない。ザルマはああ言っていたが、最終的にアムゼンに報告して渡そうと考えていた。

 結局まっとうな男子高校生である康大には、額が高すぎる貴金属など不安の種でしかないのだ。


「あのー……」

「あー、今金持ってる奴が出払ってるから、戻ってきたらそいつから渡すよ」

「へえ、よろしくおねがいしやす」

 そんなことを話している間に、リアンが鱗の件で気になることでも見つかったのか、カバンをあさり始める。

 その際、しまっていたカチョウの宝石箱がリュックから飛び出し、地面にぶつかった拍子に箱が開いた。

 入っているものが宝石だったらまだマシだったが、真珠であるためそれがころころと辺りに転がる。


 康大はそれを呆然と見ていた。

 話していた男も、非現実的な光景に呆然としていた。

 最も早く反応したのは、経済観念だけは研ぎ澄まされている……というか、どちらかと言えばケチなハイアサースだ。


「何をぼうっとしてるんだべ! おめーもらも早く拾え!!!」

 慌てて転がる真珠を集める婚約者。

 麗しい女騎士がゴキブリのような体勢とかなり無様だが、本人は必死だ。


 康大も遅れて真珠を拾う。

 男は手を貸していいのか分からず、見ているだけだった。


 最終的にほとんど回収できたが、場所が場所だけに何個かはそのまま運河に落ちてしまった。

 ハイアサースもその鎧で川に潜ってまで回収する気はないのか、がっくりと肩を落とす。

 そして、今回の事件の元凶であるリアンに、シスター的制裁を開始した。


「コータもそうだけど、おめーらは金に無頓着すぎる! もっと丁寧に扱え! 反省しろ!」

「いはいいはい(痛い痛い)」

 ハイアサースは背後からリアンに近づき、その頬を思いっきり引っ張った。

 そんな2人を見ながら康大も、もっと金銭感覚を鍛えようと心に誓う。


「あのー」

 網の男が、恐る恐る康大に話しかけてきた。


「何?」

「いや、さっき落としたのもしかして真珠だったり……」

「あー、まあ多分そうだと思う」

「落ちたやつはもう探さないんですかい?」

「別に貰い物だし、そこまで必要なもんでもないしな。泳いで探すのは割に合わない」

 受け取り伝票があるわけでもなし、報告義務があるわけでもなし。

 現実セカイならあり得なかっただろうが、康大としてはこのセカイの貴金属にそこまでこだわる理由もなかった。


「じゃ、じゃあもし俺がそれを拾ったら……」

「ああ、そういうことか」

 康大も男が何を求めているのか合点がいった。

 この場合も現実セカイなら自分が率先して探したかもしれないが、ここは異セカイだ。

 彼の望みを無下にする理由はなかった。


「返せとは言わない。報酬変わりだ。好きにするといいさ」

「うおー真珠ー!!!!」

 男はそう絶叫すると、網を捨てて運河に飛び込む。

 黙ってやればいいものの、周囲にいた他の人間達もその声を聞きつけ、我先にと運河に飛び込んでいく。


 結局数十人以上のあまり身なりの良くない男……だけでなく女までもが、運河に落ちた真珠を探し始めた。

 その様子を見ていた康大の胸に、「金持ちが下々の人間をもてあそぶ気持ちが分かる気がする……」と、邪悪な感情が芽生え始める。


「騒ぎを聞きつけてみれば、何か面白いことになっているでござるな」

「圭阿か。そっちは何か見つかったか?」

「何も。むしろ、何もなさ過ぎて逆に妙でござる。ここまで住民が怪物のことを探し回っているというのに、兵士達の動きさえないのでござるよ」

「確かにそれは妙だな」

 圭阿の報告に康大も首をかしげる。

 口封じをするほど、怪物の情報はワーメントにとって秘匿しておきたいものだ。それをそのまま放置しておくなど、あの周到な商人には考えづらい対応だ。いくら本人がその場を離れているとはいえ、指示ぐらいは出していただろう。


「となると、もう隠しておく理由は無くなった、と考えるのが自然か。何かを企んでるのか知らないけど、最終フェーズに移行したのかも……」

「コウタ子爵ちょっといいっすか?」

「どうした?」

 リアンの呼びかけに康大は振り返る。

 どうやら鱗の解析が終わったようだ。


「まずこんなでかい鱗を持ってるモンスターを自分は知らないっす。伝説にあるようなリヴァイアサンとかならまあ分からないでもないっすけど、見たことないものについては何も言えないっす。ただ大きさを抜きにして、形状的には見たことがあるっす」

「形状……俺には普通に魚類の鱗に見えるけど」

「詳しく見ると結構特徴的なんすよ。しかも大きいからわかりやすい。で、何に似てるかって話っすけど、一言で言うと半魚人(マーマン)っす」

「半魚人……」

 川を上る際や海賊船において、康大は実際に何度も半魚人を見、そして戦った。

 セイレーンと違い、そこまで珍しい存在ではない。


「じゃあもしかして、でかい半魚人をセイレーンと間違えた、とか?」

「どうっすかね。半魚人はどんなに大きくなっても、軍艦を襲えるほど巨大にはならないっすから、そうそう間違えるもんでもないと思うっす」

「なるほど」

「軍艦を襲えるほど巨大な半魚人がいたとしたら、それは半魚人じゃなくてセイレーンすよ。これは最近知った伝承なんすけど、どうもセイレーンの雄は半魚人とかなり似た姿をしていて巨大だったとか」

「へえ。興味深い話だな」

 ただ本を読んでいるだけかと思えば、そうではなかったらしい。

 康大はリアンの情報収集能力に感心しながら答える。

 門外漢でこれなら、果たして専門分野ではどこまでの知識を披露するのか。

 おそらく一晩では済まないぐらいしゃべり続けるのだろうなと、康大は内心苦笑した。


「あと、さっき箱ばらまいて済まなかったっす」

「ほんとだぞ。あの時落とした真珠で一つで、うちの村の人間全員が1年は生活できる価値があったんだからな」

「そんなに」

 ハイアサースに具体的な価値を言われると、康大にもようやくそれが理解できるようになった。

 住人達がまだ冷たい川に飛び込むのも当然だ。


「いやあ、自分は箱の中身には興味がなかったんすけど、その周りの文字を使った装飾が面白くて。実はこの装飾は古語で書かれてたんすよ。今言った伝承もそこから知ったっす」

「へえ、俺にはただの模様にしか見えなかったけど」

「まあ普通の人からしたら古語なんてみんなそんな感じっす。でも読める人間からしたら、十分研究対象になりえるっす」

「なるほどねえ」

「……各々方」

 不意に圭阿が声を落とし、全員の注意を促す。

 康大も一瞬で表情を切り替えた。

 今までさんざん命のやり取りをしてきたため、そのあたりの切り替えスイッチの性能がかなり上がっていた。


「どうした?」

「何か嫌な予感がするでござる」

「嫌な予感……か」

 圭阿が具体的な理由を話さないのは珍しい。

 ただ、今まで忍者として生きてきた圭阿は、言葉では説明できない第六感も養われてきたのだろう。論理的でないからといって、それを無視する気にはなれなかった。


「分かった。とりあえず川にいる人たちには気を付けるよう注意を――」

 康大がそこまで言った瞬間、運河に明らかな異変が起きる。


 港側から突然大きな波が押し寄せてきたのだ。


 海からの逆流は自然現象でも起こりえるが、それは明らかに不自然な波であった。

 縦横に走っている運河のうち、たった一つ、今康大達の目の前にある運河にだけで起こったのだから。


 その第一波で、大部分の人間達が上流に流される。

 康大達は圭阿の警告で警戒し、運河から離れていたため難を逃れた。

 また、岸辺にしがみつき、流されることなく耐えきった人間達もそれなりにいた。


 ただ、流された人間達の方がむしろ幸いだったかもしれない。


 体中打ち付けることになったが、命までは失わずに済んだのだから。


 本当の災厄は第二波とともに訪れる。


「これは……」

 川を優雅に泳ぐそ(・)れ(・)を見て、康大は絶句する。


 全長20メートルはくだらない。

 川面に映る影しか分からないが、その雄大さは疑いようがない。

 色も川底にいるためはっきりとは分からないが、ここからだと暗い緑色に見える。

 手足があり体型的には人間に近いが、顔はなく、肩から口が生えているかのようなフォルムだ。 

 全体的な印象としてオオサンショウウオを連想させた。

 ――そんな見たこともない巨大な怪物が、海からの波とともに現れたのだ。


 ただ不可解な点もあった。

 川幅は10メートル以上あるが、水深はそこまで深くない。

 せいぜい深いところでも4,5メートルほどだろう。


 それにもかかわらず、何故完全に潜っていられるのか。

 あの巨体を考えると、背中ぐらいは水上に現れるはずである。


 しかし、現実に怪物は水中にいたまま、器用に手だけ水面から出し、波にさらわれなかった人々を捕まえていく。

 捕まった人間はそのまま、水中にある怪物の口に運ばれ丸飲みだ。

 怪物は人間を噛み砕くのではなく、まるでプランクトンを食べるジンベイザメのように口を横に大きな開け、その中へと放り込んでいく。


 その様子を見て康大は、ようやく怪物が恐ろしく平べったい存在であることに気付く。

 手足が生えたジンベイザメという形容が最もふさわしいだろう。

 尤もこちらは完全に凶暴な肉食であったが。


「――て、驚いてばっかりじゃいられないだろ!」

 康大はせめて近くにいる人だけでも助けようと、川岸に走る。

 話したこともない下層民だが、自分達が依頼したことで被害に遭ったのだから、助けるのは義務のように思えた。


 康大はそのゾンビ怪力を有効に使い、次々と運河にいた人々を引き上げていく。

 中には力が強すぎて怪我をした人間もいたが、そのあたりはハイアサースが対処した。

 圭阿は康大達に怪物の手が伸びないようけん制する。

 3人が際立ったコンビプレーを見せる中、自他ともに認める戦力外のリアンは邪魔にならないよう遠巻きに様子を見ていた。


 不幸中の幸い、というべきか水上まで伸びた手の防御力はそれほどでもなく、苦無によって簡単に手を引っ込めた。

 ただし、水の抵抗と件の鱗のためか、水中にまで苦無は届かず、引き込まれた人間を助けることまではできなかった。


 10数人の人間を犠牲にし、やがて怪物は満足したのか、川を遡上していく。

 結局怪物がその場を去るまで、圭阿も致命傷を与えることはできなかった。


「どうやらあの鱗はあの化け物のもので間違いないみたいっすね」

「ははは……」

 康大はリアンの分かりきった結論に、疲れた笑顔を返すことしかできなかった……。

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