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第14章

「あの、まだかな?」

「・・・・・・」

 康太の問いかけに湖族の誰も答えない。

 それも仕方ないだろう。

 もうこの質問は100回はしたのだから。


 川を上り切りグラナダ湖に到着後、一路レアバンブー島を目指すことになった一行。

 ただ、康大はグラナダ湖の広さを舐め切っていた。

 川を遡上した程度の時間、だいたい長くとも2時間程度で着くと思っていたのだ。


 しかし、2時間過ぎてもレアバンブー島の蜃気楼さえ見えず、どこまで行っても水平線だけ。

 最初の頃は湖族達も「まだまだでさあ」とか「しばらくかかりますぜ」とか返事をしていたが、あまりにくどいので80回を超えたあたりから黙殺するようになっていた。むしろそこまで付き合った彼らの律義さを褒めるべきだろう。

 途中から聞いている康大も、そうでも言わないと間が持たないため言っただけで、返事を期待してもいなかった。


 尤も時間がかかっているだけで、船旅自体は順調だ。

 モンスターに遭遇してもせいぜい小魚に毛の生えた程度で、湖族だけでも十分対処できる。ダイランドあたりなら、手で捕まえ引きちぎることさえできた。

 噂の怪物も、影も形も見られない。


 最初は警戒して櫓をこぐ手がゆっくりだった湖族達も、次第に操船に集中するようになり、スピードも上がっていった。


 それでもまだ着かない。


 とはいえ、現実セカイならモーターボートやフェリーで行くような距離なのだから、人力では遅いのも当然だった。


 その間、康大達戦闘員は暇だ。櫓の数も限られているので、手伝うこともできない。

 しかも、怪物襲撃の可能性が0ではないのだから、寝るわけにもいかない。

 ここに自分だけならミーレと時間を潰せただろうが、他の人間達がいる前では抵抗があった。



 そして、夕日が水平線の向こうに沈み始めた頃、目的地であるレアバンブー島がようやくその姿を現した。



「ようやく着いたか……」

 康大がいる位置から見えるレアバンブー島は、かまぼこのような形をしていた。

 島全体は森に覆われ、人工的な住居は見えず、当たり前だが人が住んでいる気配はない。

 海岸線は切り立った崖ではなくごつごつした岩場で、上陸する分にはどこからでも特に問題はなさそうだった。


「コウタさん、船を近づける前にとりあえず様子見に行ってくれませんか?」

「え、ご指名? モンスター相手だと扱いひどくない?」

「俺が師匠に受けてるのよりははるかにしまっスよ」

「そう言われると返す言葉がないな……」

 康太はため息を吐きながら、船べりに足をかける。

 そんな康太をエクレアが心底不思議そうに見ていた。


「……あの、前々から思っていたのですが、子爵様は何故モンスターに襲われないのですか?」

「あー、そういえばそのあたりは全然話してなかったか……」

 この船にいる中で湖族以外に康太がゾンビであることを知っているのは、ダイランドだけだ。ザルマは、土下座せんばかりの勢いで康太に頼み、圭阿の船に乗っている。

 エクレアの質問に、湖族達も「そういえば不思議だな」と同調し始めた。


(面倒だな)

 自分のゾンビ化に関しては、できる限り知っている人間が少ない方がいい。

 加えて説明した後、気味悪がられるのも気分が悪い。

 さてどうしたものかと考えていると、康大の前にダイランドが口を開いた。


「コウタさんはほら、悪魔に魂売ってるから」

『・・・・・・』


 康大も含めた全員が黙り込む。

 ただ納得はしたようで「だからか……」とか「やっぱりこの人やべえ」とか「目が合ったら殺される」とかいうつぶやきが聞こえてきたので、納得はしたのだろう。エクレアも「悪魔に魂売ったなら海賊に見えても当然ですね!」と満足してくれたようだ。


 ダイランドがしてやったりという顔を康太に向ける。

 康太は笑顔を返し、腹いせに湖に叩き落してから、自分もレアバンブー島へと泳いで行った……。

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