1.クリスマス・イブ
一度は書いてみたいと思っていた季節物を書いてみました。
『はぁ〜、マジか…。』
イルミネーションに彩られた街並みと、どこか浮き足立つように忙しなく、足早に過ぎ去って行く人々。
今日はクリスマス・イブ。
周りは、初々しく微笑み合うカップルや、幸福の形をそのまま切りとったかのような家族連ればかり。
そんな中、この世の終わりのような絶望しきった顔でため息をつくのは、私、鈴木 雪、33歳女(独身)。
会社からの帰り道、あまりに寒く指先の感覚が無くなってくることに気づいた私は、自動販売機に売っている飲み物で暖を取ろうと思い、カバンから財布を取り出そうとした。
そう、したのだけれど、そこで絶望的なことに気がついた。
…財布が、ない。
頭のてっぺんから、サァ…と血の気が引いていくのが分かった。
う、嘘でしょう!?
独り身だけど、今日はクリスマス・イブだし…と思い、少し豪華なケーキとオードブルを食べようと、少し多めにお金をおろしてきていたのだ。
それに、クレジットカードや保険証、運転免許証まで入っている。
そのお財布が、ない!
私は半狂乱になりながら、来た道を折り返した。
目を皿のようにして、側溝や植え込みの中まで、隈無く探しまくった。
すると、あ……あった!!!
金運を上げると、何かのテレビ番組で言っていたから、それにあやかりたいと選んだ黄色の財布、間違いない、あれだ!
私は、学生時代でもここまでのスピードは出なかったのではないかというくらいの、見事なダッシュを決め、財布のもとへ。
あった、あったよ、私の財布ぅ…。
滂沱の涙を流しそうになりつつ、ふと、財布のチャックが開いていることに冷静になる。
いや、まさか、そんな、まさかよねぇ?
震える手で、開いているチャックから恐る恐る中を覗く。
神はいなかった!!!!
さっきとは違った意味で泣きそうになる。
足がつくことを恐れたのか、クレジットカードや保険証、運転免許証は無事だったけれど、お金は、小銭に至るまで見事に抜かれてスッカラカン。
財布を片手に、植え込みの近くのベンチに座り、項垂れる私はさながら燃え尽きたボクサーのようだろう。
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