8 おわかれの日
その後。
あにきからことの真相をきいておれは、どぎもをぬかれた。
この事件は、この町どころか、外のようかいまでまきこんだ、大がかりな作戦にかかわるものだったのだ!
あにきは、そしてみんなは、おれがおかしくなってるのに気づいていた。
あのようかい『ひょうか1:1』が、さくしゃをおうえんしてる!
ほっとけば、いずれようかいとしての存在が破たんして、ほろんでしまうだろう。
とめようか。いいや、あんなに楽しそうでうれしそうなイチはみたことないぞ。むしろここは……
みんなはこっそり話しあって、ひとつの作戦をつくった。
その名も、『イチクラさく恋大作戦』(なんの略語なのかは、やな予感しかしないので聞かなかった)。
作戦の第一段階はこうだ。
キカイにくわしいメンバーで特別チームを結成し、おれのようかいPCをハッキング。
あのさくしゃのページだけ、にせのページがでるようにする。
そして第二段階。
「あのさくしゃのブクマが、全国のブクマはがしにねらわれるかもしれない」というはなしを、あにきがおれにする。
そうしておれを不安にさせ、にせページに表示されているブクマ数をへらしていく。
おれはすぐ、たえかねてあにきの部屋にかけこむはずだから、そうしたら第三段階開始。
……ほんとうはここからは、こうなる予定だった。
あにきは、犯人役のブクマはがしがいる場所を、おれに教える。
やつは、おれに詰めよられたら「よかろう。ならばチカラずくで来るがいい!」とかいって、バトルにもちこむ。
おれを追いつめて、あの『かげぼうし』をひっぱりだす。
そしたら、真のラスボスがあらわれた! ということで……
おれと犯人役のブクマはがし、そして影で見守ってたあにきが、力をあわせて戦い、『かげぼうし』をたおす。
するとおれは、『かげぼうし』の影響からのがれて、すがたをかえる。
さくしゃをまもるため戦ったことで、ようかいから『守護霊』にクラスチェンジ。
ほろびる危険なんかなしに、あのさくしゃを思いっきりおうえんできるようになる。
いずれふたりはハッピーエンドで、めでたしめでたし。
さいしょの計画では、そういうふうになるはずだった。
けど、第二段階を実行にうつした、すぐ後。
あにきのようかいスマホに、冥界づとめの友だち――あの『係員』だ――から、あわてた声でれんらくがきた。
あのさくしゃが、バス事故にまきこまれた。
わるいことに意識不明の重態で、そのたましいが、冥界の入り口にきている、と。
ほわほわしたあのさくしゃのことだ。ほっといたら『お花畑きれーい!』なんてはしゃいで、うっかりそのまま死んでしまうかもしれない。
けれど『係員』は、冥界づとめのきまりとして、だれかが死ぬのをじゃまはできない。
そもそも『係員』もあいつのファンだ。あこがれのさくしゃが冥界にきてくれたらうれしい。
それでも、この作戦を、おれのきもちを知っていながら、そのまま知らんぷりなんて……
ということで、急いであにきたちに相談してくれたのだ。
さくしゃが事故にあうのと前後して、なぜかおれも急に、やばい状態におちいってたという。
ほんのちょっとのきっかけで、冥界の入り口へと行ってしまうくらいに。
だからあにきは、自分からおれの部屋にやってきて、あえてきつめにハッパをかけた。
それにおどろいたおれもまた、冥界の入り口へ。
そこで、ふわふわしているあいつと出会って。
いやなやつのふりをした『係員』にちょうはつされて……
そのあと、うちでめをさましたら、『こう』なってたというわけだ。
その日、おれはせいいっぱい身なりをととのえ、あにきの部屋におじゃました。
ちゃぶ台のうえには、おれの手みやげの『ねこやのようかん』と、あにきが入れてくれた濃い目のお茶。
そのむこうには、あにきと、ちょうど遊びにきてた『係員』のにいちゃんが、そろってすわってニコニコしてる。
「いやー、しかしイチがな!
いや、わるいとは言わないぜ。似合ってるぜ。そのちっちゃい羽根とか」
「うんうん、かわいいかわいい。そのピカピカのわっかとか。
お嬢さんがみたらよろこぶんじゃないか?
きっとつぎの新作あたりで、主人公にしてもらえるぜ!」
「やめてよあにき! それに『係員』のにいちゃん!
はずかしいよ。おれみたいなようかいが、まさか、天使になっちゃうなんてさ。
それに、ようかいじゃなくなっちゃったから……
おれもう、ここにはいられません……」
ふたりは明るくじょうだんめかせてくれたけど、おれはまた、しょんぼりとうつむいてしまった。
そう、今日はお別れにきたのだ。
おれは、あいつを守るため、すべてをなげだした。
そのことで、クラスチェンジしてしまったのだ。
よりにもよって、『守護天使』とかいうやつに。
なんか頭はわっかがぴかぴかしてるし、背中には羽根が生えちゃうし(服をきてるのに、ふしぎとそのうえに出てきちゃうのだ!)、はずかしいったらありゃしない。
……いや、そんなのは、いいんだ。
おれは、ようかいじゃなくなった。
だからもう、ここにはいられない。
でていかなくっちゃならないのだ。
だいすきだったこの長屋から。
だいすきだったこのまちから。
そして、だいすきだった、あにきのそばから。
なのに、にいちゃんときたら、こんなことを言う!
「いいじゃないか。
イチは愛するさくしゃちゃんのおうちにいって、ずーっとそばにいられるんだぞ?
俺だったらヒャッハーだね。
『はがし』の兄貴なんかほっぽりだしてもすっとんでくぜ!」
「おれにはあにきもだいじなんですっ!
それに、いまとなったらにいちゃんだって、おれをしんぱいしてくれた、なかまだし……」
するとにいちゃんのぎんいろの目から、ぶわーっとなみだがあふれてきた。
だだだとちゃぶ台をまわってきたにいちゃんは、おれをむぎゅうっとだきしめた。
「イチ――!!
わかった、あんちゃんがおまえをうちにおいてやる!
えんま大王さまにもかけあって、なんとかこの町にいられるようにっ……」
そうして、とてもやさしいことばを言ってくれた。
うれしかった。うれしいんだけど、ちょっと、いや、かなりくるしい。
じたばたしてると、あにきがゴン! と、にいちゃんにげんこつをふらせてくれた。
「だからお前は手かげんを覚えろ!
まったく、今度やったらげんこつだからな!」
「もうげんこつされましたぁ……」
涙目であたまをおさえてるにいちゃんは、とてもあのときの悪役やろうにはみえない。
ましてや、こわいこわい『渡し守』だなんて、どうやったって思えない。
そんなにいちゃんをいちげきで制圧したあにきは、おれをうばいかえすと、びっくりするようなことをいった。
「イチはこのまま、ここにいていいんだ!
ようかいの町のようかい長屋の、俺のとなりのとなりの部屋に!
だってそうだろ?
妖怪は自由だ。自分のしたいように生きるんだ。
やりたいことがかわっちまったらそれでいい。
天使になったからってなんだってんだ。
それがイチの選択の結果なら、それはそれでいいんだよ!
イチ、お前はまだここにいたいよな?
ここで俺たちとわいわいたのしく、あいつの応援、したいよな?」
「……はいっ!!」
もちろんおれは、あにきの胸にとびこんだ。
次回、フィナーレ。
投稿時間は夕刻~夜の予定でございます。
乞うご期待です!