6 『1:1をつけろ、さもないと……』
「そしたらわたし、ちょっとした事故にあっちゃって。
いま意識不明の重態で、あの世へのいりぐち近くにきているんだって。
でもこの状態なら、人間にできないこともできるって、係員さんにおしえてもらって……
ちょうどいいから、意識がもどるまでの間で、そのひとをさがしてたの」
「ちょ!!!
だめだよ、そんなの!
かえれよ、はやく。
帰るのおくれて、しんだりしたら、おまえのファンたち、がっかりするぞ!
その……お、おまえの『ファンさま一号』とかっ、泣いちゃうぞ!
ほら……」
『係員』ってなんだろう。ちらっとそう思いはしたけど、そんなことはあとだ。
おれは急いで、そいつの手をひっぱってこうとした。
けれど、いっしゅん先に、べつのやつが割りこんできた。
「困りますね、余計なことをされては。
これは彼女の問題です。部外者のあなたがどうこうしていいコトではないでしょう?」
そいつは、にんげんのおまわりさんみたいなかっこをしてた。
白いてぶくろ、黒っぽいスーツ。あにきよりちょっとでっかいくらい。
たぶん、ようかい。だけど、なにかがちがう。
黒いぼうしの下の、ぎんいろのかみ。するどい、ぎんいろのひとみ。
冷たいくらいにととのったかおと、冷静そうな低い声。
直感した。こいつ、ぜったい悪いやつだ!
「それとも、あなたさまがどうにかしてくれるのですか? たとえば……
ここに『ファンさま一号』を連れてきてくれるとか。
まあ、そうしたなら私は、ひょうか『1:1』の意味を、正しく説明しますがね?」
なんて、かんじの悪いヤツ!!
でも、さくしゃはふわふわ笑ってる。
そうして、びっくりするようなことをいった。
「あ、係員さん!
だいじょうぶだよイチくん、わるいひとじゃないから。
このひと、わたしがここで目をさましたときに、親切にしてくれた係員さん。
いまここに、あのひともきているから、さがしてみたらっておしえてくれたの。
係員さん、この子イチくんていって、さっきそこで寝てたんです。
……えっと、だいじょぶそうですか?」
すると『係員』は、いかにも心配そうなかおをした。
「ええ……彼はすこし、よくない状態ですね。
なぜなら、彼は人ならざるもの。にもかかわらず、その務めを行わず、自分の命を危険にさらしているためです」
「えっ……」
そうしてわざとらしく目を伏せれば、さくしゃははっと息を呑んだ。
「いますぐに手を打たねば、この者の魂はそのまま……」
「そ、そんな……
あの、この子、わたしに親切にしてくれたんです! わたしも手伝うから、だから……」
それを聞くと係員は、俺とさくしゃをかわるがわる見て、ひとつうなずきニコッ、と笑った。
「そうですね、それじゃ、この子の『仕事』を見届けてあげてください。
そうして生まれたあなたの気持ちが、この子の生きるチカラになります」
「はいっ、わかりました!」
「おい!」
さくしゃはいきおいこんでうなずくが、おれは声を荒げてた。
すると『係員』のヤツは――これが本性なんだろう――ぐっと低い、怖い声でおれに言った。
「お前。
ここがどこなのか、なんで自分がこんなところにいるのか。
わかってないとか言わないだろうな?
お前も妖怪のはしくれだろう。だったらマジメに仕事しろ」
「は……?」
「いつものことをすればいい。
俺が彼女にその意味を教える。
そうして生まれた“想い”を食らえば、お前はあこがれの大妖怪だ。
世界の誰もが恐れる、妖怪の中の妖怪だ!」
『係員』はそういってぽん、と『ようかいスマホ』をなげてきた。
その画面には、このさくしゃの最新作が……
おれが、ひょうか1:1をつけることができずにいた作品の『評価フォーム』が、映し出されていた。
『係員』のヤツ、なんだってこんな!
よりにもよってこいつの作品を。
こいつの前で、こくひょうしろって――
そうして、こいつを悲しませろって、そういうのか!!
おれは『係員』と名のるそいつを、にらみつけた。
だがヤツも、おれをにらみかえす。
「ぐずぐずしてると、お嬢さんは時間切れでムダ死にだ。
さっさとしろ。さもないとお前も、怨念不足で死ぬぞ!」
そうして、おれの足元をゆびさす。
みれば、『係員』のしめす先。
地面にのびたおれの影ぼうしは、ところどころゆがんで、ぶきみにうごめいていた。
「え……えっ?
よ、よく、わかんないけど……
だめだよ、きみみたいな小さな子が死んだりしたら!
はやく、おしごとしよう? わたし、ちゃんとみまもってるから!」
さくしゃは何もしらないようすで、おれにしごとをしろとのたまう。
こいつのだいじな作品に、ココロをおるためのひょうかをつけろという。
おれは……
「いやだよ」
おれは『係員』に『ようかいスマホ』をつきかえそうとした。
「もう、いやだ。
おれ、こいつの作品にひょうか1:1なんかつけたくない!」
すると、地面からのびてきた「なにか」が、おれの左手にからみついた。
つめたく、ねばりつくようなかんしょく。
ぞっとして、うでをふりまわしたけど、『なにか』はさらに、ようかいスマホをもったままの右手にもまきついてきた。
ソウハ、サセルカ!!
ジョウダンジャナイワ!!
とたん、地の底からひびいてくるようなドラ声が、耳につきささるような金切り声が、てんでにわめきたてはじめた。
どこからだ。見回せばおれのあしもと。ちょうど、かげぼうしのあるはずの場所。
ところどころやぶれ、いびつにうごめくカタマリが、ぶよりとふくれあがっていた。
まるで、うっかりやきすぎて、しちりんの灰のなかにおっこちてしまった、おもちのように。
次回ちょっと怖くてちょっとバトルっぽくなります!
本日午後、少し浅い時間の投稿予定です。お時間あるときにのぞいてやってくださいませ。